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石化する眼を持つ令嬢は婚約者に嵌められる ~私を罪人にした報いは石像にしてお返しします~  作者: エタメタノール


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第17話 レイゼムに問う

 来る日も来る日も石化の訓練は続いた。


「ふぅ、こんなところでしょうか」


「うん、バッチリだ」


 石化する、それを解除する。に関しては100パーセントといっていい精度で実現できるようになった。

 この別邸に来てから三週間ほど経った頃のことだった。

 レイゼム様がコバルトブルーの瞳で私を見つめ、おもむろに提案してきた。


「父と母に会って欲しい」


 聞いた瞬間、驚いた。


「レイゼム様のお父様とお母様……公爵様に!?」


「ああ、領に招いた客人を当主に会わせる。なにもおかしい話じゃないだろう?」


「そうですけど……」


 私は立場としてはまだ罪人だ。それを当主に会わせるというのはかなり思い切った判断だと思う。下手すると、ご当主の名声にも傷がつく。


「君のことは父上たちには説明してあるしね。そうすれば、もっと君たちの待遇もよくできる」


 私としても、エデルワイト公に会って、正式な客人として迎えられるというのは願ってもないことだ。

 だけど、体が震える。これは寒さじゃない。

 私はこんなにも優しいレイゼム様に“恐怖”していた。

 この厚遇を素直に受けることができない。


 この恐怖を払拭する方法は一つしかなかった。


「今夜、どこかで会えませんか?」


「……? かまわないけど……」


「では、場所は……」


 この機会に、レイゼム様への恐怖を払拭しよう。そう決心した。



***



 私たちは別邸近くにある、草原(くさはら)で二人きりで会う。

 静かで、穏やかで、涼しくて、月が綺麗な夜だった。

 本音を言うにはぴったりの夜だ。


「レイゼム様」


「なんだい?」


 心の中で深呼吸して、私は切り出す。


「本当のことを……教えてください」


「……!」


「なぜあなたは私にここまでしてくれるのですか?」


 ゆっくりと丁寧に話すつもりだったけど、一度言い始めると止まらなかった。

 せき止められていた川が再び流れを取り戻すような勢いで想いが噴出する。


「なぜ罪人の塔まで来て私を助けたのか! ミルフィともども私たちをかくまったのか! 永久に石になってしまう危険性すらある石化の訓練に付き合ってくれるのか! さっぱり分かりません!」


「だから言っただろう。君の力に興味が……」


 私は割り込む。


「私にはそれが嘘にしか思えないんです!」


「!」


「どうか本当のことを教えてください。たとえば、もし私の力を利用したいというのなら、利用してかまいません。私を捨て駒にするつもりならそれもいい! 教えてください!」


 今まで溜めていた本音を全て吐き出した。

 もう二度と騙されたくはない。もしなにか裏があって私を助けたとするなら、それを知りたかった。なにもかも受け入れる気でいた。

 君を兵器として利用したいんだよ。用済みになったら処分するつもりだ。といった答えを望んでいる節さえあった。

 レイゼム様は答えない。私の息が整うのを待っている。


「……落ち着いたかい」


「……はい」


 レイゼム様は眼差しこそ穏やかながら、真剣な表情だった。


「まずは謝ろう。君をそこまで追い詰めてすまなかった」


「いえ……」


 私は首を横に振る。取り乱した自分への恥ずかしさもあった。


「これから僕が真実を話したら、君をガッカリさせてしまうかもしれない」


「……」


「それでも聞くかい?」


 “ガッカリ”か。

 いったいどんな残酷な真実が待ち受けているのか……。

 私を兵器として利用したいという想像すら生温いのだろうか。

 だけど、どれほど残酷だろうと、疑念を持ったままでいるよりはずっといい。

 知りたい。隠し事はもうこりごりだ。


「聞かせてください」


「分かった。僕にも覚悟がいるから、少し待って欲しい」


 しんとする。

 わずかな葉っぱの動きすら聞き取れそうなほどの静寂が続く。

 私は心の準備をしてじっと待つ。

 レイゼム様の顔つきが変わった。どうやら彼も覚悟を決めたようだ。


「君はおそらく僕のことを、ストイックで、研究熱心で、冷徹に自分の利益を追求する魔法使いの貴族……だとでも思ってるんじゃないかな?」


「は、はい」


 まさにその通りだった。

 ユーモラスなところはあるけど、基本的にはどこまでもしたたかさに貪欲に、自分の利益と好奇心を満たすために動く人だと思っていた。


「だけど、それらは全て嘘っぱちなんだ」


「え」


「本当の僕は、ただ片想いを引きずっていただけの一人の男子に過ぎない」


 片想い……?

 誰に……?

 私に……?

 レイゼム様が……?

 どうして……?


「おそらくこれで君は全てを思い出してくれるはずだ」


 レイゼム様が右手を上げる。


「天よ、その怒りを我が前に示せ……」


 この詠唱、どこかで聞いたような――


 闇夜から炎の塊が降ってきた。レイゼム様めがけて。まっすぐ。

 私は咄嗟に叫ぶ。


「あっ、危ない!」


「大丈夫さ」


 レイゼム様が右手をぎゅっと握ると、炎の塊はふっと消えた。

 この瞬間、全てを鮮やかに思い出せた。

 なぜ、今まで思い出せなかったのだろう。

 あの時、学校の放課後、私が石化して助けた男の子……。

 あの子がレイゼム様だったなんて――

 言われてみれば分かるけど、あの時の可愛らしくか弱い男の子と、今の凛々しいレイゼム様が記憶の中で結びついてくれなかった。近くにあるなくし物に、ずっと気づかない時のように。


「あなたは……!」


「あの時は助けてくれてありがとう」


「ど、どういたしまして……」


「あの時からずっと、ずっと、ずっと……僕は君のことが好きだったんだよ」


 まっすぐ見つめられ、体温が上昇する。

 単純な嬉しさ、照れ、思い出せなかった申し訳なさ、色々な感情が一気にこみ上げる。

 レイゼム様は星空を見上げた。


「少し、僕の生い立ちについて話をしようか」

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