表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石化する眼を持つ令嬢は婚約者に嵌められる ~私を罪人にした報いは石像にしてお返しします~  作者: エタメタノール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/18

第15話 ルトゥーラ家の始祖“メドゥーサ”

 レイゼム様とのマンツーマンでの石化特訓は続いた。

 レイゼム様を石化し、それを解除し、その時起こったことを出来る限り細かく記録する。


『石化はすぐできたが、解除は30分かかった』

『なかなか石化できず』

『石化も解除も上手くいった』


 こうして記録していると、今までの自分がいかに怠惰だったかを思い知らされる。

 私はこの力に気づいてから、とにかくこの力を恐れるばかりで、どういう能力なのか知ろうとすらしていなかった。

 結果、多くの人を意図せずして石化してしまい、ついには利用までされてしまった。

 もし私が石化を使いこなせるようになっていれば、これらの悲劇は起こらなかったに違いない。それを思うとつい奥歯に力が入る。


 だけど、悔いても仕方ない。

 起こってしまったことは仕方ない。

 幸い、私はこうして脱獄できたし、ミルフィやルトゥーラ家もかろうじて踏みとどまっている。なにより、この件でレイゼム様という強力な味方ができた。

 私は必ずこの石化の力を使いこなして、家を再興させてみせる。


 とはいえ、壁は早くに訪れた。

 石化の訓練を始めてから、およそ二週間。

 石化することについてはだいぶスムーズにできるようになったけど、解除がなかなか上手くいかない。

 今日は一時間以上、レイゼム様を石化から解除できなくて本当に焦ってしまった。


「あ、戻った! よかった……!」


「おお、解除してくれたんだね」


「ごめんなさい。今日は時間がかかってしまって……お怪我はないですか?」


「この通りさ。魔法も使える」


 レイゼム様は私を慰めるように、掌に光の玉を浮かべてくれた。

 だけど私はうつむく。


「やっぱり私は怖いです。いつレイゼム様を永遠に石化してしまうか分からない。そうなったら……」


「そうなっても、君は罪に問われないと言ってるじゃないか」


「それだけじゃありません。罪に問われなくても、あなたが石化してしまうのは嫌だから……」


 言ってから、大胆なことを言ったと思った。だけど、深い意味はない。

 研究のためとはいえ、自分のためにここまでしてくれている人を永久に石化するのは避けたい。そういう意味だ。

 すると、レイゼム様は――


「ありがとう。でも、好きでやっていることだから大丈夫。それに僕も魔法使いのはしくれだ。石化したまま動けなくなっても、いつか必ずなんとか自力で解除してみせるよ」


「は、はい……」


 心強い言葉を貰えた。


「じゃあ、もう一度石化してみよう。そうだ、今度はずっと石像になってもいいように、ポーズでも決めてみようか?」


 右手人差し指を天に掲げ、左手を腰につけるポーズを取る。


「もしこのまま石化されたら、悔いはないよ。レイゼム・エデルワイト像として、本邸のエントランスにでも飾っておいて欲しい」


 私も噴き出してしまう。


「ふふっ、レイゼム様ったら……」


 魔法にしか興味がない人だと思っていたけど、案外ユーモラスなところもあるみたい。


「じゃあ、そのポーズのまま石化しますよ!」


「頼むよ」


 石化した。

 今回はわりとすんなり石化を解くことができた。


「あー、よかった……」


「残念だな。あのまま石化してもよかったのに」


「冗談じゃありませんよ」


 私も笑ってしまう。

 こんな具合に、レイゼム様との日々は少しずつ楽しくなっていた。


 こうした心境の変化は、食事の時ミルフィに指摘される。


「お姉様、ずいぶん明るくなったね」


「そうね。石化を使いこなせるようになってきたからね」


「それだけじゃないんじゃない?」


「え?」


 ミルフィはニヤニヤしている。


「レイゼム様とのやり取りが楽しいんでしょ」


 ギクリとしたけど、私は冷静に返す。


「ミルフィったら、からかわないの」


「えへへ……」


 確かにレイゼム様との訓練は楽しい。

 あれだけ憎んだ石化能力とも向き合えるようになったし、あの人も意外とユーモラスなところがあって、訓練とはいえ決して堅苦しい雰囲気にはならない。

 研究という目的を果たしたいのならもっと私を酷使したいはずなのに、全然そんなこともないしね。

 だけど、どうしてあの人がここまでしてくれるのか。

 不安はどんどん膨らんでいく。

 ウォーゲンに利用された時のことがちらつく。

 レイゼム様も私を利用しようとしているのだろうか。いや、すでに彼が私を利用しているのは分かっている。彼は私の石化能力を研究したくて、私を助けているのだから。

 だけど、きっとそれだけじゃない。

 私は、それ以上のなにかを彼から感じ取っていた。

 だから、いつまでたってもレイゼム様に心を許しきることができなかった。


「ああ、そうそう。今日スコーン作ったの。食べよ?」


「ええ」


 ミルフィの作ったスコーンはちょっと形が崩れてたけど美味しかった。

 お砂糖が控えめの、ミルフィらしい優しい味に仕上がっている。


「ごめんね、ヘタクソだけど」


「いいえ、とても美味しいわ」


 しかし、今はあまり考えないようにしよう。

 ミルフィのためにも、家族のためにも、石化の力を使いこなせるようにならないと。


 ところが、石化解除の訓練ははかどらない。

 レイゼム様を石化して、すぐ元に戻せる時もあれば、戻せない時もある。

 全てを記録していても、何日も進歩がないと、やはり落ち込む。


「ごめんなさい。ここ何日も、あまり進展がなくて」


「気にすることはない。僕だってそうだった」


「でも……」


 焦る私に、レイゼム様はにこやかに笑む。


「こういう時は基本に立ち返ってみるのもいいかもしれない」


「基本?」


「石化能力はおそらくルトゥーラ家の始祖メドゥーサ由来のものだ」


「私もそう思います」


「そのメドゥーサについてもっと調べたら、もしかしたらなにか手掛かりになるかもしれない」


「……そうですね」


「できれば王都に行きたいが、今の君をむやみに連れ歩くのは危険すぎる。領内には王都にも負けないくらい大きな図書館もある。行ってみよう」


「……はい!」



***



 次の日、私たちはエデルワイト家領内にある図書館にやってきた。

 王都の大図書館は立派だったけど、それに匹敵するというだけあって本当に大きい。

 レイゼム様が来ると、顔は知れ渡っており、さすがにざわつく。


「レイゼム様だ……」

「おおっ、ご立派になられて……」

「ご両親も喜んでいるだろうな」


 やはり人気は高い。なんだか私まで嬉しくなってしまう。


「隣の人は?」

「お綺麗だ……」

「恋人かな?」


 私まで見られる。

 綺麗だと言われて、恋人だと誤解している人もいて、頬に熱を帯びてしまう。


「恋人同士だってさ。腕でも組むかい?」


 レイゼム様が肘を寄せてきたが、私は遠慮する。


「からかわないでください」


「ハハ、振られたかな」


 本棚を見て回って、メドゥーサが載っていそうな本を手に取る。

 席に座って読んでみる。


「……」


 元々本を読むのは好きだ。

 何時間もかけて、メドゥーサ記載の箇所を探し、何冊も読み進めていく。


 まず分かったこと。

 私は一応メドゥーサの末裔の家系なのに、メドゥーサのことをほとんど知らなかった。

 石化能力のことといい、改めて自分の怠惰ぶりを思い知らされる。

 もっとも、石化の力に気づいた時から、メドゥーサについて知るのをなるべく避けたいと思っていたのは事実だった。

 知ってしまうと、石化の力がさらに強まってしまうと思ったから。でも、それは間違いだった。私はご先祖のことをしっかり学ばねばならない。


 書物によって細かい違いはあったけど、メドゥーサに関する伝承はだいたいこのようなものだった。


 メドゥーサは長い蛇の髪を持った女性のような魔物。

 見ただけで相手を石化させる能力を持つ。

 メドゥーサはこの力で数多くの悪しき者を石にしていったという。

 野盗のような分かりやすい悪党から、詐欺師や汚職をしている役人なども標的になったそうだ。

 そうしているうちに、民衆からは英雄のようにも扱われたらしい。

 だけど、時の権力者から恐れられ、メドゥーサはついに討伐される。

 その死は多くの民衆に悲しまれたそうだ。


 しかし、メドゥーサは死ぬ前に人間との間に子供を遺しており、その子が私たちルトゥーラ家の礎を築いていく……というのが、言い伝え上のルトゥーラ家の成り立ちだ。

 以降、ルトゥーラ家は石化する力こそないものの、この伝説と特徴的な銀髪を武器に、社交界をのし上がっていき、今では伯爵家にまでなった。

 もちろん、ルトゥーラ家の面々がメドゥーサの血筋というのはあくまでも言い伝えでのこと。本当にそうだと思っている人などいない。と思っていたのだけど、実際に石化する眼を持つセルフィス・ルトゥーラという人間が現れてしまったことで、その伝説は単なる伝説ではないことが明らかになった。

 しかも、私はディロイアル公爵様を石化してしまい、大罪人の汚名を着せられている。

 この状況を打破するには、二つのことが必要になる。私が危険のない人間だとアピールすること。もう一つは私を嵌めたウォーゲンとマリンダを断罪すること。


 どうにか石化の力を使いこなさなければ、私たちルトゥーラ家に未来はない。

 今の私は、石化するのはだいぶ自在にやれるようになった。だけど解除も自在にできなければ、とても使いこなせているとはいえない。ただ犠牲者を増やすだけになってしまう。

 メドゥーサの経歴は分かったけど、石化の解除の方法を編み出さなければ……。


 書物を読んでいくと、メドゥーサは石化を解除したこともあるらしい。

 メドゥーサの基準でもう罪を償ったと見なせば、罪人を元に戻したこともあるそうだ。

 他にも、泥棒を石化したことがあるけど、その泥棒の子供が悲しんでいるところを見て、慈悲の心をもって泥棒を元に戻したこともある。

 話として綺麗すぎる気もするけど、意外とこういうところにヒントがあるかもしれないと思った。


(慈悲の心か……)


 これが鍵になるかもしれない。

 夕刻、私はレイゼム様と落ち合う。ちなみにレイゼム様は魔法の歴史に関する書物を読んでいたそう。


「どう? なにかヒントは掴めた?」


「ええ、試してみたいことができました」


「じゃあ、別邸に戻ったらやってみようか」


 私たちは別邸に戻ると、さっそく訓練用の部屋に向かう。


「君の試したいことを、やってみてくれ」


「分かりました。石化しますよ」


 いつも通り、レイゼム様を石化する。


(ここから……まず心を落ち着けよう)


 レイゼム様を見る。

 今は石になってしまっているけど、このまま石像にしてしまっても絵になるような人だ。

 私が解除しなければ、この人は永遠にこのままなんだ……。触るも、撫でるも、私の思いのまま……。

 ――っていけない、いけない、なにをバカなことを考えてるの。

 だいたい、石化されている時にもぼんやりと意識はあるみたいだから、あまりバカな真似をすると恥をかくことになる。

 「石化した後、やたら僕の顔を触っていたよね」なんて言われたら、もうレイゼム様に会わす顔がない。


 再びレイゼム様を見る。

 私の力で石になってしまっている。

 自分の好奇心を満たすため、私を研究材料にしようとしている人……。もしかしたら、ウォーゲンを超える悪魔なのかもしれない。

 それでも、この人がいなければ、私はどうなっていたか分からない。

 ……許そう。この人の全てを慈しもう。そう想いながら、レイゼム様を両目でしっかり見る。

 すると――


「あっ……」


 レイゼム様の石化が解除された。


 今までマグレでしかできなかった石化の解除を、初めて自力でやれた。


「今のは……ちゃんとできてたね」


「はい……手応えを感じました!」


「感覚は覚えてる?」


「もちろんです」


「よし、もう一回やろう!」


「はいっ!」


 私はもう一度レイゼム様を石化する。

 解除する。


「もう一回!」


「はいっ!」


 石化、解除。


「もう一度!」


「はいっ!」


 石化、解除。

 石化、解除。石化、解除。石化、解除。石化、解除。石化、解除……。


 再現性もバッチリだ。

 私はようやく石化の解除を技術として身につけた。


「やったね、セルフィス!」


「はいっ! これもレイゼム様のおかげです!」


 私は思わずレイゼム様の右手を両手で掴んでしまった。


「……ご、ごめんなさいっ!」


 慌てて手を離す。


「いや、もう少し、掴んでくれててもよかったんだけど……」


「え?」


 思わぬ言葉だったけど、レイゼム様の冗談だと思ったので、私は掴むのをやめた。

 メドゥーサのことを勉強したおかげで、私はようやく石化の解除を自分の意志でできるようになった。

 これは大きな一歩だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ