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石化する眼を持つ令嬢は婚約者に嵌められる ~私を罪人にした報いは石像にしてお返しします~  作者: エタメタノール


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第14話 “石化”を使いこなす訓練

 レイゼム様の忠告通り、私は三日間しっかり静養した。

 そして、私はレイゼム様と別邸のリビングで面会した。

 シャツにスラックスというラフな私服姿のレイゼム様もとても素敵で、つい胸が熱くなる。


「気分はどうだい?」


「おかげさまで……ここ数日は久しぶりにぐっすり眠ることができました」


「それはよかった」


 レイゼム様がにこやかに笑む。


「ああ、そうそう。君の家が苦境に立たされているのは知っているだろうけど、貴族籍を失うなどのことはとりあえずないから安心していい」


「どうして分かるんです?」


「父に頼んで、王家に手を回してもらっている。少なくともルトゥーラ家が今すぐ貴族でなくなるなんてことはない」


 これだけ酷い目にあうと貴族の地位にもさほど未練はなかったけど、そこまでしてくれたことには素直に感謝したくなる。


「ありがとうございます」


「さて、さっそく石化能力の訓練を始めようか」


「どうやって訓練をするんです? この力に関する書物などをお持ちなのでしょうか?」


「いや、そんなものはないよ」


「へ?」


 この時まで、私はてっきりレイゼム様は石化能力に関する何かしらの資料を持っていて、それに基づいて訓練するものだと思っていた。


「その能力は君特有のものだ。書物なんてあるわけないじゃないか」


「それはそうですけど、じゃあどうやって訓練すれば……」


「実際に能力を使うしかない」


「ええっ!?」


 この石化能力を使う。

 私はこの能力を使いたくないから、封じたいから、苦労して感情を抑え、ヴェールまでつけて生きてきたというのに。

 しかし、訓練といえば実践しかないというのも分かる。

 ミルフィだってレイゼム様だって実際に拳を振るい魔法を繰り出し、武術や魔法の腕を磨いたはずだ。

 なにか資料を読んだだけで、それらの腕が上がるなら誰も苦労はしない。

 問題は、訓練の方法になるけど……。


「なにを対象にすれば……」


「この場合、相手が人間じゃないと意味がないだろうね」


「人間って。私の石化能力は自分自身、よく分かっていない部分が大きいんです。危険すぎます」


「しかし、それぐらいやらないとこの力は使いこなせない」


「では、誰を……?」


 レイゼム様は自身の胸を拳で叩いた。


「僕だ」


「……はい?」


 この人はなにを言ってるのだろう。


「僕の体を使って、石化能力を研究しよう」


「ちょっと待ってください! あなたが実験台になるんですか!?」


「うん」


「うん……って、あなた自分の立場が分かってます?」


「もちろん。公爵の家系であるエデルワイト家の跡取りだけど」


 あまりにもさらっと返された。


「そんな人がもし石化して、そのまま動かなくなったらどうするんです! それだけじゃありません! 私だってさらなる罪を重ねることになる!」


 すると、レイゼム様は――


「これ」


 書面を机に出した。


「なんです、これ?」


「貴族の家長のみが発行できる誓約書だ。簡単に言えば、君に僕がどうされても、たとえ殺されても文句は言わないし、罪に問わないって書類。これがあれば、石化の訓練中に事故が起きて、僕が帰らぬ人になっても、君は一切罪に問われない」


「……!?」


 私が目を白黒させていると、レイゼム様はかまわず続ける。


「元々は貴族の当主が、剣術の指南役などに遠慮なく息子に指導をさせられるよう書くものだったらしいね。すでに父上からはサインを貰っている。遠慮なく石化してくれてかまわない」


 この人は自分の命を懸けている。

 私の石化能力で一生動けない体になってもいいと宣言している。

 だけど、分からない。なぜ、そこまでしてくれるのか。聞かずにはいられない。


「なぜです。なぜあなたはそこまで……」


「それだけ君の力に興味があるってことさ」


 あくまで研究のためということか。私を魔法使いとしての自分自身を高めるために利用したいのね。

 むしろ、その方が気は楽になる。

 だったら、私もこの人を利用してやろう。


「分かりました。やりましょう」


 レイゼム様はうなずいた。



***



 私たちは場所を移す。

 別邸内の倉庫にあたる部屋。今は特に荷物がなく、スペースもあり、秘密裏に訓練をするにはちょうどいい。


「じゃあ、僕を石化してもらおう」


「はい」


 私はさっそく目に力を入れる。

 だけど、上手くいかない。

 罪人の塔では兵士を次々石化したし、だいぶ力を制御できるようになってきたと思ってたけど、まだまだのようだ。とんだ思い上がりだった。


「上手くいかない……」


 私が落ち込んでいると、レイゼム様は笑いかけてきた。


「よし、さっそく今のことを記録しよう」


 ペンとノートを手渡された。


「なにを記録するんです?」


「“石化を自在にできない”ってことをしっかり記録しておくんだよ」


 私にはピンとこない。


「そんなことをして、何になるんです?」


「自分ができないことを記録するっていうのはとても大切なことなんだ」


「……!」


「魔法においても、自分ができることとできないことを明確にしておくと、上達にもものすごく差が出る」


「じゃあレイゼム様も?」


「うん、自分に今できること、できないことをノートにまとめていったら、自分の中で今自分がいる段階を整理できて、上達が大幅に早まったよ」


「なるほど……」


 私はさっそくノートに書いた。


『私は相手を自在に石化することができない』


 なにも進んでいないように見えて、これも大きな一歩かもしれないと信じて。


「レイゼム様にはなにかできないことってあったんですか?」


「もちろんあったさ。自分の魔法で死にかけたこともあった」


「まあ……。危ないところでしたね」


 自分の魔法で死にかける……心になにか引っかかったけど、自分の石化能力に手一杯な私は、その引っかかったものを探し出すまでには至らなかった。


「じゃあ訓練を続けよう」


「はい」


 その後も睨み続け――ようやく石化能力が発動した。

 レイゼム様の体がみるみる灰色に染まっていく。


「なるほど、これが……!」


 レイゼム様は驚きつつ――


治癒(ヒール)! 解呪(ディスペル)! 浄化(ホワイト)!」


 なにやら魔法を連発する。

 だけど、石化は止まらない。


「どれも効かない、か……。さすが……だ……」


 喋りながら硬直していく。

 そのままレイゼム様は石になってしまった。

 表情は固まってしまっているが、そこに恐怖の色はなく、感心すらしているように見える。


「戻さないと……!」


 いくら誓約書があるからといって、このままにしていいわけがない。

 なんとか戻さないと……。

 必死にレイゼム様を見たり、触ったり、声をかけたりしているうちに、なんとか戻すことができた。


「お、戻った」


「よかった……!」


 この時、私はレイゼム様の腰のあたりを触ってしまっていた。


「そんなに僕の腰が魅力的かい?」


「いえ、そんな……! すみませんっ……!」


「冗談だよ、冗談」


 私は慌てて手を離した。


「さて、僕をどうやって戻したかは覚えてる?」


「……」


「正直に。分からないなら分からないでいいんだ」


「申し訳ありませんが……分かりません」


 レイゼム様は私を一切責めなかった。


「じゃあ、もちろんそのことも記録しよう。立派な資料になる」


「はい」


 石化の解除を自在にできるようになるには、まだまだ時間がかかりそう。

 そういえば――と、私もひとつ質問してみる。


「あの……石化されてた時って、意識はどうなってました?」


 そういえば、今までに一度も聞いたことがなかった。

 他人を石化しておいて「感想は?」なんて聞けるわけがないから、仕方ないことではあるんだけど。


 レイゼム様は顎に手を当て、考える仕草をする。


「……そうだね。あるといえばあるし、ないといえばない」


「……?」


 かなり抽象的な答えだった。


「君の声なんかは聞こえて、意識は確かにあるんだ。だけど、ぼんやりもしてる。起きながら眠っているとでもいうのかな。ただ、悪い気分でなかったことは確かだね」


「なるほど……」


 石化している最中、対象の人に意識はないと思っていたけど、そんなこともないんだ。これはかなり新しい発見だ。

 私が初めて石化した使用人が屋敷から逃げ、ゲイルたちが自主退学したのも、あの時意識があり、石化の恐怖を存分に味わったからなのだろう。

 私はレイゼム様の石化解除に要した時間や、どんなことを試したかを克明に記録した。

 こんなやり取りをしばらく繰り返す。


「今日はここまでにしよう」


「えっ、私はまだまだやれますけど」


「いや、君はだいぶ疲れている。休むことも大切だ」


「……分かりました」


 今までは気が張っていたけど、確かに体の芯に疲労感が溜まっている。石化能力はそれなりに体力を消費するようだ。


「それじゃあ、また明日来るから」


「はいっ!」


 また明日来る。この言葉にどこかときめいている自分がいた。

 夜はミルフィと食事を取る。別邸住みの使用人が用意してくれるメニューはとても美味しい。


「お姉様、どうだった?」


「まだ初日だしね。あまりはかどらなかったわ」


「そっかぁ。じゃあ、レイゼム様とは?」


「え?」


 向かい合って座るミルフィが顔を近づけてくる。


「一日中二人きりだったんだもの。少しくらいいい仲になったんじゃないの?」


「バカね、そんなことないわよ」


 と言いつつ、レイゼム様のことが気になったのは事実だ。

 だけど、相手は格上の貴族、私のことはあくまで研究対象と思っているだけだろう。

 それに私も、ついこの間ウォーゲンに裏切られたばかり。とても男女関係のことなど考える余裕はなかった。


 私は一刻も早く石化を使いこなさなければならない。

 そうしなければ、私にも、ミルフィにも、ルトゥーラ家にも未来はない。

 決意をあらたにしつつ、私は柔らかなお肉を頬張った。

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