第13話 エデルワイト家領地へ
私とミルフィは、エデルワイト家の別邸に案内された。
レイゼム様としても、まだ囚人の身分である私とその妹を大っぴらにかくまうわけにはいかないのだろう。とはいえ、これでも格別すぎる扱いだ。
別邸といっても、家全体が広く清潔に整っており、生活必需品も完備されている。数人の執事やメイドも在住している。
ルトゥーラ家との格の違いをまざまざと思い知らされる。
「君が脱獄したことは、しばらくは公にならないだろう。君たちにはここで生活してもらう」
「分かりました」
「二、三日は療養してくれ。そうしたら、改めて話をしよう」
ミルフィが自分を指差す。
「私もここにいていいんですか?」
レイゼム様はうなずく。
「もちろん。その方がセルフィスもいいだろう。君の実家には連絡しておこう」
なんだか至れり尽くせりで怖くなってくる。
だけど、早いところルトゥーラ家復興に向けて動き出したいという気持ちもある。
「私はすぐにでも実家の名誉回復のために動きたいのですけど」
レイゼム様はゆっくりと首を横に振る。
「君は一ヶ月もの間、あの劣悪な環境にいたんだ。回復魔法を施したとはいえ、おそらく自分で思っている以上に消耗してる。休むのも大事なことだよ」
扉を閉めて出ていってしまった。
自分の焦りを見透かされていたようで、恥ずかしくなる。
私たち姉妹はしばらくリビングで立ち尽くしていたけど、私はミルフィに向き直る。
「ミルフィ……」
「お姉様……」
「また会えて嬉しいわ」
私はそっと妹の体を抱き寄せた。
「私も……お姉様を助けられてよかった」
ミルフィが涙ぐむ。
「怪我はしてない?」
「もっちろん! 私もだいぶ強くなったんだから!」
これは一目で分かっていた。心身ともに明らかに強く美しくなっている。
「今、実家の方はどうなの?」
ミルフィはうなずく。
「もうお姉様に嘘はつきたくないから、正直に言うね。お姉様が公爵様を石化させた罪で捕まってから、ルトゥーラ家は化け物の家系だってバッシングが酷くなって……私も学校を休学中」
「そう……」
想定も覚悟もしていたけど、こうやって聞かされると気が重くなる。
私は家にとんでもない迷惑をかけていた。
「でもね、私たち、誰もお姉様を責めたりしてないからね」
「ミルフィ……」
「お父様やお母様だってそう。色々と対応に追われてはいるけど『セルフィスが理由もなく公爵様を石化などするはずない』って言ってたし。みんな、お姉様の無実を信じてるから」
父と母とは色々あった。
石化能力の件で気まずくなり、家庭内は冷え込んでいた。
だけど、今は娘の私を心配してくれている。その事実がありがたく、心強かった。
「ごめんね、ミルフィ。私のせいで学校を休むことになって……。もう少しで卒業だったのに……」
「ぜーんぜん!」
ミルフィは首を横に振る。
「友達とはお手紙でやり取りしてるし、それに、おかげで稽古の時間が増えたしね! 先生は修行の旅に出ちゃったけど、私はもう一人で稽古できるし!」
ミルフィの言葉に嘘はないと感じられる。
本当に強くなった……。
「じゃあ、私に先生に教わった“型”っていうの? 見せてくれない?」
「もちろん!」
ミルフィは席を立つと、拳をまっすぐ繰り出した。
「これが突き!」
すごい迫力だった。私が喰らったらひとたまりもないだろう。
「どんどんやっていくね。これが猛虎の型で……。これが咬竜の型……」
ミルフィは次々に型を披露してくれた。
普段は天真爛漫な彼女が、武術をやると目つきは猛獣のような鋭さを帯びる。
私は武術については素人だけど、見入ってしまい、思わず拍手してしまう。
「すごい、すごい!」
「えへへ……」
こんなに頑張っているミルフィを見ると、私も罪人の塔で泣き言を言った自分が恥ずかしくなる。
「ミルフィ、私は絶対にルトゥーラ家の名誉を回復してみせるからね」
ミルフィはうなずく。
「うん、お願いね! でも、私に任せてくれてもいいよ! 私がウォーゲンとマリンダをブッ飛ばしてやるんだから!」
あまりの頼もしさに、私の口角も自然と上がる。
「うん、頼んだわよ」
「じゃあ、おやすみー!」
「ええ、おやすみなさい」
用意されたそれぞれの寝室に向かう。
寝室一つとっても、ルトゥーラ家のものより上等で、感心すると同時にほんのちょっぴり悔しい。
ベッドで眠るのは久しぶりだ。
ふかふかで、とても柔らかかった。
もう暗い部屋の中、硬い石の床で寝ずに済む。
朝までぐっすり眠れたのは本当に久しぶりだった。




