第11話 セルフィス救出作戦 ~ミルフィーネ・ルトゥーラ視点~
罪人の塔を見る。
十階建てぐらいの建物で、塔を囲む城壁のようなものはない。
灰色の曇り空も手伝って、なんだか魔王のお城にでも挑むような雰囲気。
扉を守る門番は二人。鎧兜をつけてて、二人とも槍を持ってる。
意外と手薄なのかな?
この塔は公爵家以上に害を与えた囚人が入る塔で、今はお姉様しか捕まっていないみたいだし、そんなに兵士は置いていないのかもしれない。
だとしたら好都合だ。
二人ぐらいならなんとか私でも倒せるはず。
今日私は白のドレスを纏っている。この格好なら警戒されないものね。私は闘志をなるべく抑えつつ、歩き出した。
まもなく兵士二人に気づかれる。
「ん? なんだお前は?」
「ここは一般人が立ち入れる場所じゃないぞ!」
なにも知らない娘を装う。
「そうだったんですか? 知らなかったので……」
おろおろしつつ、なんとか兵士二人の隙を探る。
すると、二人のうち一人が――
「銀髪……。おいあなたは、もしかしたら今捕えられているセルフィス・ルトゥーラの関係者か?」
こうなると、もう一人も――
「あの一族は銀髪が多いと聞いたぞ。そういえば、セルフィスには妹がいるとか……」
あーあ、あっという間に素性がバレちゃった。
こうなったら、仕方ない。強行突破しかない。
「言っておくが、ここは一般の牢獄と違い、面会などでき――」
「ごめんなさいっ!」
私は兵士の顎めがけて、拳を放った。
拳は的確に当たって、兵士は目を回して倒れてくれた。
「お前っ!」
もう一人も槍を横に構えて戦闘態勢に入るけど、私の方がずっと速かった。
先生に教わった急所の一つ、鼻と唇の間――人中を狙う。
「ぐえっ……!」
前のめりに倒れてきた兵士を受け止めて、地面に寝かせてあげる。
「ふぅっ……なんとかなった……」
首尾よく二人の兵士を倒すことができた。
あとは塔に突入してお姉様を――
「おい、何をしている!」
「門番がやられてるぞ!」
「まさか、あの子がやったのか!?」
大勢の兵士が駆けつけてきた。ざっと五十人はいそう。
いくらなんでもこの人数じゃ……。だけど、私が諦めたらお姉様は助からない。
私はドレス姿で拳を構える。こんなことになるなら、運動用の服を着てくるべきだった。
まあいいや。武術ってなんの準備もしてない時に戦うためのものだしね。先生の受け売りだけど。
「……来なさい!」
その時だった。
どこからか、真っ白な霧のようなもやのようなものが立ち込め、兵士たちがバタバタと倒れていく。
気絶してるんじゃなく、寝息を立てている。
「なんなの、これ……?」
霧の中で呆然としていると、規則正しい足音が聞こえてきた。
私は身構える。
現れたのは、とても美しい金髪の青年だった。おそらく私より年上だ。
私はこの時、真っ先に「この人とお姉様が並んで歩いているところを見たい」と思ってしまった。そんなこと考えている場合じゃないのにね。
「だ、誰……!?」
青年は静かに答える。
「ここに捕らわれている人を助けにきた者、と言っておこうか」
お姉様を助けに来た? ってことは味方?
いや、まだ味方とは限らない。先手必勝とばかりに、私は飛びかかろうとする。
だけど、青年は涼しい顔でこう言った。
「僕と戦うのはよした方がいい。不幸な結果を生むことになる」
「う……!」
私の怯えを看破するかのような穏やかな眼差しだった。
不幸な結果――すなわち、私の人生の終わり。
一瞬で格の違いを分からされてしまった。
それにしてもこんな大勢を一瞬で眠らせてしまうなんて。私は尋ねてみる。
「これは……魔法ですか?」
「ああ、眠りをいざなう霧を呼び出し、彼らを眠らせた」
「どうして、私は眠らないんでしょうか?」
「魔法はターゲットを絞ることもできる。君は敵ではなさそうだから、眠らせないでおいた」
わざわざそんなことをしてくれるなんて。まだ確定はできないけど、ひとまず味方ってことで間違いなさそう。飛びかかろうとしたことを謝らないと。
「ごめんなさい! 私、とんだ誤解をしていたみたいです!」
「かまわないさ」
「あなたも姉を助けたいんですよね? 一緒に行きましょう!」
「よろしく頼むよ」
こんな人がいたら、百人力だ。
待っててね。お姉様。今すぐ助け出してあげるから!
私たちは罪人の塔の戸を開く。さらなる戦いを覚悟する。
だけど、私は驚いた。
「お姉様……!?」
捕らわれているはずのお姉様が、そこに立っていたのだ。
「あら、ミルフィじゃない」




