絶望ラジオに宇宙の口づけ
暗い自室にラジオの音声だけが響いている。少年はベッドにうずくまり、今日の自分の一連の行動を省みる。それはラジオにノイズが走るまで続いた。ラジオにノイズが走ると、その瞬間に雷が落ちた。それでようやく、今、外では雨が降っていることに気づいた。雷は、住宅街付近の街路樹に落ちて、うらぶれた葉を焦がした。少年は足をバタバタと動かし、涙が滲んだ枕をずらして、体勢を変えた。ラジオの音声が正常に戻り、少年が楽しみにしていたコーナーが始まった。こんな陰鬱な夜には似合わない爽やかなジングルが流れる。異常な高音、少年の耳では聞き取れない高音が自室の壁をうろつきまわり、最終的にテレビの画面に吸い込まれていく。テレビの裏、埃の積もった地面に毛虫がいる。毒毛をまき散らしながら、のそのそと這い進む。少年の体はだんだんと巨大化していく。それに少年は気づいていない。気づかないギリギリの速度で巨大化は進んでいた。窓から見える満月が、いつもより小さく見える。巨大化の影響と思われる。一階から父親の怒鳴り声が聞こえる。向かいの家からは魔物のような悪趣味な声が聞こえてくる。住宅街はそれぞれの思いを乗せて震えていた。その振動は、少年の巨大化を加速させる。少年が部屋に収まりきらなくなると、窓側の壁を素手でもぎとり、外に出た。雨足は強くなる一方で、クジャクは相変わらず歩道のない狭い道を闊歩していた。少年は巨大化を抑えるために脳の中に隔離施設を作ろうと努力する。隔離施設に大きくなった体を収納しようと考えたのだ。向かいの家から魔物のような顔をした大学生のカップルが顔を出し、目を丸く開いて、その少し後に嘔吐した。少年がうずくまる道路の地下にある巨大迷宮では、相変わらずボードゲームが売れていた。売り切れ続出で、販売業者はマンホールから飛び出すと、急ぎ足でボードゲームショップへと仕入れに向かった。ボードゲームの値段をある程度吊り上げることで、販売業者は儲けを得て、その儲けでさらに大きな事業として、ゲームセンターを始めた。最初はとても小さなゲームセンターで、ゲームの数もそれほど多くなかった。ゲームセンターはその眩しさによって地下迷宮の目印として機能した。待ち合わせの場所にも多く使われ、そのついでにゲームセンターを利用する客が増えることで、販売業者はさらに儲けを得た。その儲けで、販売業者は地下迷宮からの脱出に成功する。そして、夢にまで見た平和な地上での暮らしを追い求めてマンホールから飛び出した。最初に不動産屋に向かおうとしたが、その途中で交通事故に遭い、無念の死亡。巨大化した少年の魂はその死体に乗り移った。巨大化した少年の体の方は、自我を失い、ひたすら街の破壊を続ける災害となった。そして少年の魂が乗り移った死体はというと、綺麗に火葬された。魂は死体を失い、右往左往することになる。今更、巨大化した体に戻ったとしても、災害として駆除される可能性が高いため、時間の無駄になる。思いついたのは、自宅の向かいに住んでいた大学生のカップルの男の方に乗り移ることだった。そうすれば、魔物のような声をあげる二十歳そこそこの女性と幸せで健康的な生活を送ることができるかもしれない。思いついた少年の魂は、浮遊を続け、速度は遅いけれど、必死に進んだ。
絶望ラジオは今日も元気に放送中。可能性の限界を模索する実験的ラジオ。ラジオという媒体の破壊を試みる新感覚ラジオ風ラジオ。己の個性を爆発させたいリスナーは是非メールを投稿せよ。さすれば宇宙との口づけに一歩近づくなり。絶望ラジオは特異な周波数でひっそりと放送中。日常のおかしな気づきをあっという間に快感に変えるラジオの冒険。露悪的冒険。その果てに待つのは宇宙との口づけ。甘い甘いその口づけはビックバンをもしのぐ大爆発をあなたにお目見え。不思議で奇妙奇天烈な絶望ラジオ、今日も元気に放送中。あなたの心を徹底的に打ちのめす驚愕のラジオ風芸術。ラジオというくくりを飛び越えた未来をも見据える絶望ラジオ。今日もあなたを狂わせる。そして最後に待つのはやはり宇宙との口づけ。それは人類史に残る快感になるのか、それとも絶望の始まりとなるのか、それは分からない。そんなお便りを募集していくのが絶望ラジオ。リスナーの感覚を震わせる投稿を募集中。可能な限りの軽犯罪をし尽くす絶望ラジオ。テーマソングは毎週変更、毎週作詞作曲。そしてリスナーを待ち受ける究極とも言える行為、宇宙との口づけ。あなたはその衝撃の瞬間を見ることになる。それが、絶望ラジオ。希望なんてありゃしないこの空想科学的な世界に一石を投じる、時代を切り開いていく天災的ラジオ、絶望ラジオ。
気をつけていたが、うまくいかなかった。開始は少し前のはずだったのに、よく理解できていない間にそれは佳境に入り、終わりも着々と近づいていた。あの日から何も変わっていなかった。きっと、みんなもそう思っているはずで、大きい体をしているだけで、そうなのだろうと思ってしまった。大仏は大仏らしく寝ていなさいと嘯く彼女の素肌に侵入して溶けて消えてしまいそうな魂の奥底にひねった蛇口の跡形もないそのかけらの残り香の漂うカラオケルームの店じまい直前のあの独特の空気感が生み出す魔物が時を刻んでいるあの壁時計に優しく手をかけてそのままいけずなあの娘に時々注意をしてその度に快感を得るような絶望としか言いようのない曖昧模糊とした日常に託した一筋の希望はその光を放ちながらもやはり嘘をついてしまうその皮肉とも言える関係性はこの魔都にもきっと響いているはずでその中で立ち尽くす聴衆には何も読み取れない意味不明な暗号のその先に待ち受けている宇宙への口づけを君は今もきっと待ち続けている君は今もきっと待ち続けている君は今もきっと待ち続けている。




