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第9話 【実験少女】



「なっ!?」

「おい、止まれ!」


 門番は蹴破った門より入ろうとするマスク少女を止めに入る。

 しかし、相手は子供。少しだけ危害を加える事に対する抵抗が生まれ、彼女の肩を掴む。


「……」

「んな!?」


 肩を掴んだ門番を意に返さず、少女は引きずる様にスタスタと歩みを止めない。


「な!? なんだ!? コイツ――」


 大の大人が自分よりも半分程度の体躯をした少女を力付くで止められない。もう相方も加勢するが、少女の歩みは僅かにも緩まない。


「クソっ! 手荒な事はしたくなかったが……」


 門番の一人は引きずられながらも腰の『電流警棒(スタンロッド)』を取り出すと、少女の背中へ押し付けて電流を走らせた。


「クッ……」

「ッ!」


 過剰な判断だが、この少女も普通じゃない。伝わる電流が掴んでいる自分たちにも効果が及ぶ程の威力に思わず腕の力が抜け、座り込む。


「それ……私には効かないから」


 しかし、少女は電流(ソレ)さえも意に返さず歩みを止めない。門番は悪い夢でも見ているのでは無いかと思い始める。

 少女は中門も蹴り壊して、敷地内へ入ろうとしたその時、パァン――と、一発の銃声が聞こえて流石に足を止めた。


「ホントは子供相手に銃なんて使いたくないんだけどな……」


 門番は上に向けた銃をゆっくり少女へ向ける。

 銃を使うこと事態、“アークライト”の管理地区では滅多に起こらない。本当に最後の手段だった。


「おい、屋敷に連絡だ。今の銃声で異変に気づいてるだろうがな」

「あ、ああ」


 相方に門の最寄り所から、屋敷に連絡する様に告げて、自分は少女から視線を外さない。


「銃……持ってるんだ」

「本人登録がされてる銃だ。俺以外には引き金はおろか、カードリッジを抜く事も出来んぞ」


 奪われても本人以外には使用できない程に銃の管理も徹底的に行われている。そして、発砲した際は理由と弾数も記録を残す必要があった。


「その場に座れ。お前が安全な客分であると分かるまで拘束させてもらう」

「ソレは……無理……」

「今、“アークライト”区画における正当防衛が成立している。二度目の拒否はこの場で射殺されても文句は言えんぞ」


 門番の引き金を絞る手が強くなる。照準は少女の頭を狙っていた。


「その場に座れ!」

「だから……無理……」


 少女は全く意に返さない様子で門番へ告げる。


「銃で……私は殺せない……」


 恐れでも強がりでも無い。まるで危険など向けられていないかのように背を向けると敷地内へと歩んで行く。

 門番は可能な限り少女へは譲歩した。しかし、その全てを少女が蹴ると言うのなら躊躇いなく仕事をする以外には無い。


 門番は引き金を少女の足を狙って撃った。発砲音と射撃光が光った瞬間――


「なんだと……?」


 思わず目を疑った。弾丸は少女の足に当たる寸前で回転しつつも停止している。


「全部……撃っても良いよ。私には意味ない……から」


 少女は門番の装備では止めるに敵わない事を知らしめると最初と同じように歩みを進め、敷地内へと足を踏み入れた。


 どうやったら止められる……?


 門番がどうしょうもなく呆けていると、屋敷の扉まで数十メートルと言った所で、あちらから開く。

 出てきたのは整えてある髭が特徴の執事――ロートスである。


「これはこれは、トリエル様。此度は『侯爵(マークェス)』主席より“アークライトの屋敷”にどの様なご都合ですかな?」

「……誰?」

「失礼。ワタクシ、アークライト家で執事をさせて頂いております、ロートスと申します。何やら騒がしい様子でしたのでご対応をさせて頂きたく思いまして」


 丁寧ながらも、抑え込んだ様な気迫に少女――トリエルは思わず足を止めた。


「……そう。『パースロイド』が……堕ちたでしょ?」

「現場に居りました」

「そのパイロット……撃つから渡して……」

「随分と物騒な要望ですな。『侯爵』の指示でしょうか?」

「お父さんは……待てって……でも……すぐ来るから……どうせ同じ結果……」

「ふむ。それでは中でお茶などいかがですかな? もしかしたら新しい情報が入るかも知れませぬぞ? 良い茶菓子もありますし」


 レイチェルの付き人としてトリエルの事情をある程度知るロートスは下手に争うと屋敷に物理的な被害が出ると分かっていた。

 恐らく、上はトリエルの行動を把握していない可能性が高い。門番の連絡から現状が上に伝われば停止命令が下るハズ。

 それまで何とか時間稼ぎを考えたのだ。


「今日はもう無理……“ガス”を吸ったから……」

「これはこれは……」


 その言葉の意味をロートスは深く受け止める。『実験少女』は『侯爵(マークェス)』の言葉にしか従わない事でも有名だ。


「だから……渡さないなら……良いよ。何でも持ってきて……何も止められないから……」


 ロートスは歩み始めたトリエルから一度視線を外して彼女の背後――広い視野を見やる。


 ここまでに使ったハズの乗り物の姿が見えない。いや……トリエル様の専用機【リベリオン】は待機しているか。ならば、まだ時間は稼げる。


「では、トリエル様に少々社会見学をしていただきます」

「……必要ない……」

「いいえ、これは強制です」


 ロートスは袖をぐいっと捲り上げる。

 今ロートスがやるべき事はトリエルに上から命令が下るまで相手をするか、


「お嬢様がご入浴から戻られるまで、この老骨がお相手致しましょう」


 レイチェルと会わせる事だった。

トリエル

挿絵(By みてみん)

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