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第8話 『天空首都スカイベース』を支配する者達

 戻った屋敷は避難警報もあってかなり慌ただしかった。

 事前に医療スタッフを手配していた事で、私が怪我をしたのかと思っていたらしい。

 情報の伝達不足だった事を改めてつつ、墜ちた『パースロイド』のパイロットである少年を屋敷の門番にも手伝わせて室内へ運ぶ。

 すると、メイド長が慌てて駆け寄ってきた。


「お嬢様! ご無事で……お怪我は?」

「問題ないわ。ロートス、医療スタッフには、彼の対応を第一でお願いして」

「かしこまりました」

「お嬢様、ご入浴の用意はしております。汚れたお身体を綺麗にしましょう」


 少年を助ける際に自分の事を殆ど顧みなかったかった為、服は汚れて、顔も煙で煤けていた。


「ありがとう、ラミア。そうさせてもらうわ。あ、ロートス」

「はい」

「彼はきちんと拘束しておきなさい。アナタが見張るのよ?」

「かしこまりました」


 胸に手を当てて、礼をしながら見送るロートスを背に私はラミアと共に入浴場へ向かう。

 歩きながらも今、アークライト家に対する総統府からのアプローチを確認する。


「ラミア、今回の件。御父様から連絡は?」

「旦那様からは何も……情報が錯綜しているか、それともアークライト家の区画を傷つけられた事を抗議なされているのか……」

「本来ならあり得ない状況よ。彼の身柄に関して少し揉めるかもしれないわね」

「総統府に引き渡せば済む話では?」

「それが一番、リスクが無い選択ね。でも、それだとこの件に関して“アークライト”は蚊帳の外よ」


 脱衣場に着くと、ラミアと他のメイドに私の服を脱がさせる。


「もし、引き渡しの連絡が来たら私も意見があるって言って拒否して頂戴」

「しかし、総統府が強く言ってきましたら私達では止められません」

「私は『スカイベース』の上部まで侵入された総統府のミスによって死にかけたの。その事を盾にすれば良いわ」

「し、死にかけた!? やはり、あの機体の落下はかなり危険な状況だったのですね?」

「少し大袈裟に騒ぐ事になるだけど、まぁ、パイロットをアークライトで保護する交渉の材料にはなるわ」

「旦那様からの連絡でしたらどうしましょう?」

「御父様には私が話す。だから貴女達は、私の指示に従ってるの一点張りで連絡は全部私に通しなさい」

「では、総統府が回収の為にエージェントを派遣してきた場合は全て追い返して良いので?」

「ええ。それで構わないわ」


 御父様がどう考えているのか分からないけど、あのパイロットを総統府が欲しがるなら、管理区画に落とされた“アークライト”が主導権を取るのは問題ないハズだ。






「『侯爵(マークェス)』、“アークライト”はそちらの要望に応え、かなり譲歩しているつもりなのだがね」


 総統府のアークライトの執務室にて一人、モニターと向かい合って喋る――デューク・アークライトは怪訝な顔をしていた。

 今現在、二人の『主席』が直接(・・)、今回の件に関しての対談を行なっている。


『理解している。しかし、アークライトの区画に落としたのは人命を優先した結果だ』

「そもそも、君が『スカイベース』の下部で『アンノウン』を墜として入ればこんな事にはならなかったのでは?」

『鹵獲の必要があった。前々から『スカイベース』の監視モニターに登録住民とは違う者が度々映っていた事は貴殿も知っているだろう。巧妙に認識を逃れ、調査を始めても補足出来ずにいたが、まさか物理的に乗り込んできていたとは。盲点だった』

「盲点? 『ハイラウンダー』である我々が“盲点”を作られたと言うのか?」

『敵の機体に『エネルギー兵器』に対する対策がなされていた。こちらの情報が流されている可能性が高い』


 デュークは額に指を当てて、嘆息を吐く。


「『侯爵』、治安部門は全て君が管理しているのだろう? 何故そんな事が起こる?」

『ワタシの死角を突いている者がいる。それは、ワタシでもアクセス出来ない権限を持つ者――『主席』一族以外には不可能な事だ』

「5人の『主席』一族の中に裏切り者が居ると?」

『その可能性は高いだろう。合理的に考えて、一番有力なのはレイチェル・アークライトだ』

「娘が?」

『彼女は『スカイベース』の『パースロイド』開発部門でも最先端を行く設計者だ。特に『エネルギー兵器』は技術関係者でも特に機密とされており、知る者は更に限られる』

「確かに娘は他とは違う感性を持っている。親としては周りと同調して欲しいモノだが、ソレ故に凡才に留まらなかった。だが自らの生活を壊そうとする程、愚かではない」


 娘を疑うような『侯爵』の発言にデュークは苛立ちを募らせながら返答する。


『互いに不確定要素が残る。この件をハッキリさせるには『アンノウン』のパイロットをこちらの管理下に置かせる事だ』

「確かにソレが合理的だが、それは『スカイベース』の理に叶っていない」


 デュークがここまで拒否をする理由は『スカイベース』本来の成り立ちにあった。


「5つの『主席』一族は互いに摩擦を生まぬ様に区画を分けた。中央首都は君が管理しているが、そこを出たら各々の区画はそこを管理する一族の意見が何よりも優先される」


 ソレは余計な摩擦を限りなくゼロにする為の処置。『スカイベース』は一つの一族が全てを統治するのではなく、複合統治であるのだ。

 区画間の移動には許可が必要で、全ての区画と繋がる『中央首都』の警察隊のみ自由な行き来が出来る。


「そのルールは絶対だ。アークライトは一度譲歩した。次は君が譲歩したまえ」

『件のパイロットを庇う動きと捉えられるが?』

「“アークライト”が安い存在でないと理解して貰うためだ。前例を作れば、あれよこれよと隙間に水が流れ込んで来るのでね」

『……では、件のパイロットにおける損失が発生した場合、我々はそちらからの要請があるまで関知しない』

「それで構わない」


 話が纏まりかけたその時、モニターの端にメッセージが入る。『主席』同士の対談中の連絡は緊急時以外では全てメールが原則だった。


 内容を見て、デュークは額を抑えながら再び嘆息を吐く。


「『侯爵』。君の(トリエル)を止めろ」

『なに?』






 レイチェルの命令でパイロットを屋敷内に運び終えた門番は元の業務に戻り、閉じた門の前に立つ。

 さっきの件を軽く雑談して話題に上げるていると――


「ん?」


 一人のマスクを着けた少女が何もない目の前(・・・・・・・)から着地するように不意に現れた。


「こんにちは……」

「あ、ああ。こんにちは」

「お嬢ちゃん……どこから来た?」

「【リベリオン】……」

「リベリオン?」

「……見えない? じゃあ教えても意味ない……」


 そのまま門へ近づこうとしたので、門番は咄嗟に止めた。


「ちょっと、ダメだ! ここはアークライトの屋敷だぞ!」

「そもそも、どこの区画の人間だ? この屋敷に入るには許可が必要だぞ!」

「許可は……お父さんからもらってる……」

「お父さんって――」


 少女は一度呼吸するように息を吸うと、一呼吸置いてから蹴りを放ち、トラックの衝撃でさえ耐え得る門を破壊した。

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