第44話 ヴァンの師匠と11081
「アタシはオーランド・ガルシアだ」
「パルキ・レファロです」
「僕たちの事は知ってますよね? こちらの方は――」
「ヴァン……いいわ。自分で言える」
そう言ってレイチェルさんは僕の後ろから出ると、一度呼吸を整える様に胸に手を当てて深呼吸する。
「レイチェル・アークライトです」
「アークライトぉ? あのアークライトか?」
「はい。オーランドさんの想像通りです」
「なる程な。どうりでハリと形の良い◯っぱいだと思った」
「…………」
「アッハッハ! すぐにヴァンの後ろに引っ込むなよ!」
「いや、普通にオーランドさんが悪いですよ」
僕はレイチェルさんとオーランドさんの間に入りつつげんなりする。
「オーランドのおばちゃんさ、こんなトコで何してんの?」
と、ディンが天然で素朴な疑問を投げかける。話がオーランドさんのリズムに引っ張られそうだったから丁度いい。
「アタシの船と【ブレイズ】がぶっ壊されてな。リグに見てもらおうと思って攫いに来たんだ」
「いや……何しれっと『アンダー』に来てるんですか……死にますよ?」
「アッハッハ。アタシゃ死なねぇよ」
「ヴァン、彼女は何かやらかしたの?」
「オーランドさんは全区画の“ジャバウォック”に喧嘩売ってるんですよ」
「…………」
「『ノーマルラウンド』で鈍りかけた緊張感を戻してくれるから、重宝してるぜぇ」
「レイ姉、オーランドのおばちゃんは頭おかしいからあんまり近づかない方がいいよ」
「よく見たら後ろの11081はディンか? アタシの見立て通りに身長も胸も尻もデカくなったな! ウチの船に乗らねぇかぁ?」
「やだ。オーランドのおばちゃん胸とか尻とか急に触ってくるからびっくりするんだよ」
「お尻も……」
「安心しろ、レイちゃん。アタシはどっちかと言うと胸派だ。浮気はしねぇよ。ヴァン、お前いいなぁー、片方くれよー」
「最低な言葉しか口から出ないんですか? 全く意味のない会話なのでこの話題はもう止めましょう。オーランドさんは何で『戦艦』に?」
永遠に胸とか尻の事ばかり見る人なので、強引に話を戻す。
「金儲けとリグを攫おうと『アンダー』に来たんだ。第1区画で腕相撲チャレンジしてたら“ジャバウォック”が襲いかかって来てな。パルキがうるせぇんで第3区画方面に逃げたんだよ」
「フード着たヤツが急にケタケタ笑いながら、四つん這いで襲いかかってきら誰だって逃げるでしょ!」
フードにケタケタと四つん這い……第5区画の人だ。
「第3区画に逃げたら、今度は細長げーのが出てきてよ。始めてヤッたんだが、第3区画の“ジャバウォック”は強ぇな。一旦体勢を立て直そうと、逃げた先がこの『戦艦』だったってワケだ」
「ちょっと待って」
レイチェルさんが声を上げる。
「この『戦艦』は第3区画にも繋がってるって事?」
「まぁ、そう言う事になるな」
「……ヴァン、この『戦艦』は私たちの考えてる以上に大きいわ」
「ですね」
「お、なんだ? 情報持ってんのか? 師弟のよしみで共有してくれよ〜、ヴァン〜、なぁ〜」
「……師弟なの?」
「ああっ! レイチェルさん、違いますよ! 僕はこんな変態じゃありませんから!」
「レイ姉、アニキは違うから。誤解しないであげてくれ」
「アッハッハ! 何にせよ、元気そうでなによりだ。チビのままなのはびっくりしたが……アタシとの約束をちゃんと覚えてたみたいだな」
彼女の元で“暴力”を学び、別れ際に交わした約束は僕なりの敬意なのだ。
「『アンダー』で顔を合わせたら殺しに来い、でしたよね?」
「…………え?」
「そうびっくりするなよ、レイちゃん。『アンダー』で生きるってのは、そう言う事だぜ? まぁ、第4区画は比較的に安全だけどな♪」
と、後ろの道から無数の足音が近づいてくる。長話をし過ぎた様だ。オーランドさんが笑う。
「ヴァン、手を組まねぇか?」
「別に良いですけど。報酬は用意できませんよ?」
「レイちゃんの11081を前払いで貰ったからな。ここで壁をする分は働いてやるぜ?」
「それ以降は何か取るんでしょ?」
「リグに会わせるか……ここの格納庫にあるモンを一つよこせ。それで手を打ってやる」
「二人はどう?」
「……ヴァン、貴方の判断に任せるわ」
「おばちゃん強いし、壁してくれるなら楽でいいかなー」
「決まりだな。パルキ! お前はそいつらをと一緒に行け!」
「言われなくてもそうするっすよ。あ、どうも……ホントにウチのキャプテンがすみません……」
「あ、いえいえ」
すると、角から姿を見せた先頭の『アーミー・ドール』が火炎放射を放ってきた。
「バカが!」
オーランドさんは着ている厚手のコートを盾に、火炎を貫く様に『アーミー・ドール』に接近すると、前蹴りで吹き飛ばす。
『アーミー・ドール』は半壊しながら吹き飛び、後続の『アーミー・ドール』達はオーランドさんを囲い、顔部を逆Y字に開いた。
「キメェーんだよ! オラ!」
『アーミー・ドール』が次の動作に移る前にオーランドさんの正拳がその頭部をぶち抜く。そして、そいつの腕を掴むと、他の『アーミー・ドール』を蹴散らす様に振り回した。
「アッハッハ! どうした、どうしたぁ?!」
素手で『アーミー・ドール』を殴り、引ちぎり、そのパーツを振り回す。
「何アレ……」
その様子を後ろ目に見るレイチェルさんもドン引きである。
「見てわかる通り、後ろは気にする必要ありません。先を急ぎましょう」
「ヴァン、一つ聞いていい?」
「何ですか?」
「オーランドさんの言っていた11081って何かの暗号?」
「あー、聞かない方が良いですよ。すっごく、くだらないんで」
「くだらなくてもいいから教えて。気になるの」
「“いい◯っぱい”です」
「え?」
「だから“11081”です。オーランドさんの頭の中ってホントくだらないですから」
「…………そう」
ホントに、セクハラばっかりで師匠でスミマセン……




