第43話 女同士なんだ、触り合おうぜ〜
「そう、わかった。ボルさん達は引き続き警戒してて。こっちからは――」
「…………」
「A.Jを行かせるわ」
僕たちは無線機だけをディンが持ち、可能な限り身軽になってから走っていた。
『戦艦』の大雑把な見取り図は頭の中に入ってる。
全部で5層に分かれている『戦艦』内部で、僕たちが侵入したのが2層の動力部付近。そして――
「アニキ! レイ姉!」
「あった?」
「予想通りね」
道を進めば、壁には現在地が記された見取り図が存在していた。足を止めて皆で見る。
ボルスティンさんの見つけた見取り図とは違い、更に細かく要所の名前が記されていた。レイチェルは指でなぞる様に管制室の場所を調べる。
「あったわ。行きましょう」
僕とディンも確認してから、再び走る。目的地までの道順が明確にわかったのなら残りの懸念は――
「なんか……全然来なくね?」
「そうね」
「…………」
『アーミー・ドール』の襲撃が全く無い事だ。
僕とディンが倒した2機以降、現れる気配すら無い。
「管制室を固めてる可能性があります。角を曲がる時は慎重に行くよ」
「ええ」
「おう!」
考えられる最短距離を僕たちは駆けているが、速すぎて捉えられないと言う事は無いだろう。
僕とディンはほぼ生身で『アーミー・ドール』を倒した。ソレを脅威と見て盤石を敷いた? 少なくとも僕たちの動きは把握されていると考えて動くべきだ。
「それにしてもレイ姉ってメッチャ動けるねー」
ディンは僕たちの速度に難なくついてくるレイチェルさんを見る。
「最低限の体力はあるわ。アイツはメカだけだって言われたくないもの」
「あれだ! 意識高いケー、女子!」
「ふふ。自己管理をしっかりしてるだけよ」
すると目の前の角から滑るように『アーミー・ドール』が出てきた。
「っ!」
「な?!」
「うわっ!?」
先頭の僕は咄嗟に止まり、後ろから続いていたレイチェルさんとディンも急停止。
襲撃……と言うよりは何かにぶっ飛ばされた様な――
「バカが! アタシをぶっ殺したきゃ“ジャバウォック”でも連れて来い!」
「キャプテン、その名前だけは第4区画以外で口にしないでくださいよ……」
「ったく。なんで急にワラワラと――」
その『アーミー・ドール』をぶっ飛ばしたであろう人物が角から出てくる。すると僕たちの気配に気づき視線が合って――――
「後ろは知らん顔の11081だな。ほら来いよ」
彼女が笑う。僕は――
「僕の名前を呼びましたね?」
僕の矜持を果たす。
「ヴァン、知ってる人――」
「あ! ちょっ! アニキ!」
レイチェルとディンの言葉を振り切る様にヴァンは現れた女へ急接近。
「おいおいおい! 待て待て! ってキャプテン!?」
女は笑いながら、悠然と歩を進め――
「アホが!」
ヴァンの接近にタイミングを合わせて撃ち落とすようなフックを見舞う。しかしソレは、ブォン! と空振り。
動きを読んだヴァンは急停止したのだ。振り抜いた女の手首を掴む。
「女の子の手を掴んで笑うたぁ、この変態が!」
「いや、キャプテンにだけは言われたくないと思いますよ」
「パルキ! うっせぇぞ! 黙って見て――」
グンッ、とヴァンは体重を使って女の手首を持ったまま背後に回る様に動き、関節を極めようとして――
「遅せぇよ」
女が腕に力を入れると、鉄の棒の様に全く動かなくなった。
「ホントに厄介な身体ですね」
「女の身体触って何言ってやがる。このド変態が!」
下から掬い上げる様なアッパーがヴァンを襲う。咄嗟に手を離し、距離を開けた事で空を切るも、発生する風圧に前髪が浮く。
「チョロチョロ、小賢しい野郎だな」
「サクッと殺ります。時間が惜しいんで」
「殺ってみろや!」
ヴァンが接近。殴るでもなく、叩くでもない。“掴む”動きで女に迫る。
女はヴァンの意図を読むと、掴ませない様に細かく弾く。しかし、更にソレを読んだヴァンはフェイントを混ぜ、女の指を掴んだ。
「――――」
「――――」
パキッ……と静かに骨が割れる様な音が聞こえ、掴んだヴァンの肘関節が、ガゴっと外れる。
「! ヴァン!」
「大丈夫、レイ姉。あれ、アニキは自分で外したから」
ディンはヴァンが自ら骨を外すことで、腕の破壊を免れたことを説明する。
「――アッハッハ! 久しぶりだよ、指を折られたのはなぁ!」
ヴァンが掴んだ女の指はあらぬ方向に曲がっている。女はバキバキと指を強引に戻し、ヴァンもグボッと外れた肘関節をハメ直した。
「腕一本と指二本は割に合わないですよ」
「アタシのは折れてんだ! お前のは結果的に無傷だろうが! 手首も外そうとしやがってよ!」
女とヴァン。両者笑みが消えない。
互いに純粋な“遊び相手”として見ており、この殺し合いを楽しんでいた。
「二人とも止まって!」
その時、レイチェルが両者の間に割り込むと止まるように手の平を向けた。
「レイチェルさん……下がっててください。その人の前に立つと後悔しますよ」
「ヴァン、こんな事をしてる場合じゃないわ。貴女も! 今の状況を理解――」
すると、いつの間にか目の前に居た女は神妙な顔でおもむろに、もにゅん、とレイチェルの胸を掴む。
「――――〜〜〜〜!!!??」
レイチェルは唐突な女の行動に顔を赤くすると即座に胸を抑えて蹲る。
「な、な、何を……!」
「これはこれは――」
女はヴァンとの戦闘時よりも神妙な面持ちで、レイチェルの片乳を掴んだ手を見る。
「これまでに無い、整ったおっ◯いだな! お前、良いブラしてるだろー」
「ひぇっ」
「アッハッハ! 女同士なんだ、触り合おうぜ〜」
女のワキワキする指の動きにレイチェルはサッとヴァンの後ろに隠れる。そのやり取りにヴァンは、やれやれ、と溜飲を下げ、
「だから後悔するって言ったでしょう?」
腕を組んでレイチェルを見て笑う女――オーランドに呆れた息を吐いた。




