第38話 竿ついてるクセに何ビビってんだ
「よう、ディン」
「お、ナワのアニキ」
【ジャンク】から降りてレイチェルを気にかけていたディンは近づいてきた作業員のナワといつもの挨拶をかわす。
「相変わらずリグは話が早ぇ。即座にお前らを派遣とはな」
「そう? 俺は普通だと思うけど」
「そもそも、【ジャンクC】でも無い機体でクライミング出来るのはお前とヴァンくらいだ。俺はてっきり、例の『スカイベース』からパクった機体で来ると思ってたけどな」
ナワは『飛行機関』を積んだ【ゼノス】がここに来るのだと思っていた。
「あれねー、姉ちゃんが外には出すなってさ。見た目が派手過ぎるから、あんまり目立たせるのはダメだって」
「出来るなら作業で使いたいよな。空輸できればかなり作業時間とコストが軽減できるぜ」
「そこんトコは俺はよくわかんねぇ。でも、姉ちゃんの事だから色々と考えてるんだと思うぞ!」
リグレットは第4区画の安定を優先して様々なプランニングを行なっている。無理な要望や、イレギュラーが発生したときの帳尻合わせは彼女しかできないとまで言われていた。
「【ゼノス】は後々、外部を覆う様に調整する予定ってリグレットさんは言ってたわよ」
落ち着いたレイチェルが二人の会話に参加する。そしてナワへ、
「レイチェル・アークライトです」
「ナワだ。一応、ワケ有りの身でね。偽名ってことを考慮して本名は勘弁な」
レイチェルはナワと握手を交わす。筋骨隆々の体格は鍛えただけではなく、それなりに整った食事を取っている証だ。
「『アンダー』の食生活はかなり良いみたいですね」
「いや、第4区画が特別なんだよ。この区画は殆どがレアメタルの採掘が主でな。労働に比例して食事と休息は厳守されてんのさ」
「リグレットさんの采配ですか?」
「ああ。こういう安全性が確実視出来ない場所で命を落とす要因は不注意だからな。ソレを少しでも無くすためにリグレットは作業員に身体の管理は徹底させてんのさ」
目的の鉱石を見つけたら取れなくなるまで掘り進む。その間に安全性など設けているコスト的な余裕は無い。
その為、リグレットは“人”を万全にする事で事故のリスクを減らす形を取っているのだ。
すると、ナワの後ろから更に筋骨隆々の男たちが現れた。
「あ、ガスパールとジョインとログルとエンターとケニンとムドーのアニキ」
「ガスパールだ」
「ジョインだ」
「ログルだ」
「エンターだ」
「ケニンだ」
「エンターだ」
「どうも、ガスパールさん、ジョインさん、ログルさん、エンターさん、ケニンさん、ムドーさん。レイチェルです」
レイチェルは微笑みながら順番に握手を交わす。
「「「「「「…………」」」」」」
レイチェルと握手し、離した手を六人はじっと見る。
「あの……なにか?」
「あー、気にするな。コイツらはアンタのファ――」
と、何か言おうとしたナワに六人は肩を組むとそのまま連れて行った。
ナワ、余計な事を言うなっ!
手ぇ……マジで柔けぇ……
ありゃ妖精の類いだ。
同じ人類には見えねぇな。
こりゃ第4区画のファンクラブ勢力が荒れるぜ!
サインとか書いてくれねぇかな……
お前ら言っとくけど、彼女は――
マジかよそれ! ヴァンのやつぅ!!×6
などと聞こえるが、レイチェルとディンは頭に?を浮かべる。
「レイチェルさん来てください。ディンは【ジャンク】を端に寄せて待機させて」
「今行きます」
「アニキ、レイ姉と先に行かないでよー!」
レイチェルはヴァンとボルスティンの元へ行き、ディンは【ジャンク】を動かす。
「……確かに駆動音ね。僅かに振動も感じるわ」
レイチェルは『戦艦』の中に入って明確に起動している旨を肌で感じ取る。
「そうか。やっぱり『ウォーターバック』の予兆かもな」
「ですね」
「『ウォーターバック』?」
「登りながら話し第2区画の話あったでしょ? アレで爆発した『戦艦』のこと!」
ヴァン、レイチェル、ディンは、開いた外装扉から明るい『艦内』を観察しつつ声を上げた。
「嬢ちゃん。さっき見取り図を見ただろ? お前さんはどう思う?」
「恐らく……この艦に使われている『エルギーバッテリー』は『パースロイド』の数百倍の出力があるでしょう。その分、臨界点までの猶予はあると思いますが……ギリギリでは止めようにも止められない可能性があります」
『ハイラウンダー』目線のレイチェルの分析にボルスティンは腕を組む。
「つまり、今なら止められるって事だな」
「管制室か、動力部室で直接止めるかの二択です」
「どっちが確実だ?」
「動力部室です。しかし……その分、厳重性は高くかなりの危険があると思います。恥ずかしながら『戦艦』の設計は専門外でして……すみません」
「いや、全然恥ずかしくねぇよ。むしろ、やる事が見えて何とかなりそうだ」
次にボルスティンはヴァンを見る。
「ヴァン、お前らはどっちに動く?」
「僕たちは管制室を目指します。もしも、防衛システムが動いていたらソレも止められるかも知れませんので」
「動力に関しましては何かしらの緊急停止措置があると思います」
「俺はアニキとレイ姉と一緒に行く!」
「ならワシらは動力部へ行く。おい! 野郎共!」
おっす!! とヘルメットを被り、ピッケル、バーナー、スコップ、ハンマー、回転ノコギリ、バール、『エルギーバッテリー』を持った作業員7人がボルスティンに応じる。
「道は作っとく。必要なら無線で指示を出し合うぞ」
「わかりました」
「おう!」
「気をつけてください」
無線機はディンが背負い、ヴァン達はブリッジへ向けて通路を進む。その反対方向――動力部へボルスティンと7人の男たちは進んで行った。
「キャプテン……なんか動いてますが……」
「あー、この音は……アレだな。『ウォーターバック』がぶっ飛んだ時と同じだ」
「ソレ、絶対にヤベーでしょ! 逃げましょうよ!」
「パルキ、おめー竿ついてるクセに何ビビってんだ。金目のモン見つけるまで帰るワケねーだろ」
「いやだって! 『ウォーターバック』ですよ! 普通に死にますって!」
「だからビビんなっつの! アタシが全部上手くやるから任せとけ」
「……キャプテン。根拠あります?」
「あー? そんなモン、勘に決まってんだろ。アタシは今日も死ぬ気はしねぇんだよ」
「俺、外で待ってますね。と言うか、『アンダー』から出てますんで」
「パルキ、テメェ! アタシを置いて一人逃げるたぁ! 遂にイカれやがったか!」
「船の修理資金調達に、こんな危険なトコに来る方がイカれてますよ!」
『IDノ提示ヲ……ネガ……ネガイィィィイイ』
「ギャァァ! 出たぁ!? キャプテン〜!」
「幸先が良いぜ! 修理費とは言わず、新造船を買うくらいに稼げそうじゃねぇか!」




