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Мake the call  作者: 古河新後
1章 地下技術(アンダーラウンド)

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第36話 全員、必ず無傷で帰りなさい

「おっはよー、俺の愛機〜」


 ディンは【ジャンク】のコックピットハッチを開けるとそのまま席に座った。いつもの手順で起動すると低出力状態のエルギーバッテリーは即座に火が着いた様に駆動し、コックピットに光が灯る。


「お、今日は一発か〜。ははん、さてはレイ姉が着けた腕が嬉しいな? コイツ」


 いつもは中々起動しない【ジャンク】にディンは、のほほん、と笑うと機体を動かす。

 固定具台から一歩前に出ると、片膝をつきモニターにはヴァンとレイチェルとリグレットが映った。


「一発で着いたんだ」

「今日はメッチャ調子良いみたいだよ」

「回路が一部接触不良を起こしてたから、昨日少し綺麗にしておいたの」

「マジで? レイ姉がやっててくれたんだ! あんがとー」

「ヴァン、ディン、レイチェル」


 荷物を持った三人はリグレットの声に彼女を見る。


「はい。コレお弁当」

「ありがと、姉さん」

「ありがとうございます」

「姉ちゃんありがと!」


 ヴァンとレイチェルは弁当箱一つだが、ディンには五段の重箱が渡された。全員受け取った様子を確認したリグレットは続ける。


「調査はかなり時間がかかると思うわ。それに『戦艦』内部はかなりの“未知”よ。ブリッジか格納庫。このどちらかを今日は抑えたら一旦引き上げなさい。理由はヴァンが一番良く知ってるわよね?」

「わかってるよ」


 ヴァンはディンに、行こうか、と告げるとコックピットハッチが閉まる。


 ヴァンとレイチェルは昨晩にリグレットが【ジャンク】の肩部に取り付けた手摺に捕まると、機体はゆっくりと起き上がる。

 その様に腕を組みながら見上げていたリグレットは命令を下す。


「全員、必ず無傷で帰りなさい」

「任せてよ」

「わかりました」

『はーい』






 【ジャンク】シリーズが第4区画を横断する様に歩く様は区画の人間からしたら見慣れたモノだった。

 時折、真下を通過する者たちから手を振られたり、声をかけられたりして三人は各々応じる。特にレイチェルは、


「新入りのお嬢ちゃーん!」

「名前教えてくれー!」

「機械に強いって聞いたぞー!」

「笑顔ちょうだい! 笑顔ぉ!」


 そんな声にレイチェルは【ジャンク】の揺れに少し強張りしながらも向けられる声には手を振って返す。


「真面目に取り合わなくて良いですよ」


 揺れる【ジャンク】の上で平然とするヴァンがレイチェルに少し屈むと楽になるとアドバイスする。


「近い内に“労い会”があるので、リグ姉さんはそこでレイチェルさんの事を紹介すると思います」

「労い会?」

『第4区画で作業する人が皆集まる宴会だぜ! ご飯食べ放題なんだよね〜』


 機体を操作しかながら、ディンも会話を参加する。


「半年に一回あるんです。時間は決められてますけど、自由参加で別の区画の人も来て第4区画のクオリティを見たり、相談なんかをしたりします」

「作業環境とか、重機の有無とか?」

「主に『パースロイド』関係ですね。区画事に必要な性能が異なるので、求める能力が変わってくるんですよ」

『第6区画の【ヘドロ】はヤバいよねー』

「へ、ヘドロ?」


 そのネーミングに思わずレイチェルは聞き返した。


「“第6区画”は『アンダー』で発生する溜まる汚物の集積区画です。その汚物を処理して肥料にしたり、廃材とかに分けて汚水は綺麗にしてから地下水に流されます」

「処理はきちんとされているのね」

『けどメッチャ臭いよ。俺、一回行った事あるけどガスマスク無しじゃ息できねー』

「リグ姉さんが、何度か相談を受けて【ヘドロ】を設計して現地でも組み上げられる様に指導したんです。その見返りに廃材を第4区画は優遇して貰う様に交渉してます」


 『アンダー』内での取引は基本的に金銭では行われない。技術と物質などを交換する取引が主だ。


「お互いに助け合ってるのね」

「助け合ってるってよりも、利用し合ってる、と言った方が正しいですね」

『無料でなんかやろうか? とか言ってくるヤツ疑っちゃうよねー』


 むしろ、互いに求めているモノがある方が対等の条件で物事を円滑に進める事が出来るのだ。


「どんなに優しい言葉をかけられても、“家族”以外は信用しない。『アンダー』で生きる鉄則ですよ」

「なら、私の立場は貴方たちから見てどんな立ち位置かしら?」


 レイチェルは【ジャンク】の進む先を見ながら二人に尋ねた。


『俺はレイ姉のことは――』

「この調査でリグ姉さんはレイチェルさんの立場を最終確認すると思います」


 ディンの言葉を遮るようにヴァンが告げる。


僕たち(アンダーラウンダー)からすれば天上人(ハイラウンダー)地上人(ノーマルラウンダー)よりも得体が知れません。価値観も、行動原理も、世界の捉え方も、全く異なると思ってます」

「……やっぱり妬まれてるのかしら」


 レイチェルは自分が招かれざる存在であるのではと呟く。

 今の世界模様を作ったのは『ハイラウンダー』であり、その関係で生まれる悲劇も多々起こってるとレイチェルは考えた。


「別に妬むとかそんな事は無いですよ」

『そーそー。そもそも、上の奴らってあんまり『アンダー』には来ないし』

「そうなの?」


 少し深刻に考えたレイチェルは、二人の言葉に、きょとん、とする。


「さっき少し言いましたけど『アンダー』じゃ基本的に物々交換で通貨は動いてないんですよ。だから地上でどんなに資産を持ってても『アンダー』じゃ何も価値はありません」

『たまーに、くっそ偉そうなヤツ見るけど大半は、第1区画から出ないみたい』


 地上との直通エレベーターのある第1区画は僅かながら金線のやり取りがある。しかし、『アンダー』の物資を個人的に手に入れるにはそれなりの伝手が無ければ不可能だった。


「だから『ハイラウンド』は『アンダーラウンド』から見て得体が知れないんです。特にリグ姉さんは区画の統括者ですし、軽々に判断は出来ません」

「それは仕方ない事ね」


 責任者の立場を経験している者としてレイチェルもリグレットの気持ちは理解できる。


『大丈夫! 俺もアニキも姉ちゃんも、レイ姉が良い人ってのは分かってるからさ! 皆を納得させる“実績”が欲しいんだと思う!』

「この『戦艦』調査はその査定みたいなモノです」

「それなら全力で頑張るわ」


 微笑むレイチェルが無駄に気を背負っていない様子を見るヴァンも自然と笑う。


 そんな会話をしていると【ジャンク】は『戦艦』の眠る穴が見える崖下に到着した。

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