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Мake the call  作者: 古河新後
1章 地下技術(アンダーラウンド)

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第33話 『アンダー』に法律はありません

ジャバウォック

挿絵(By みてみん)

「……つ、強ぇ……」


 ディンは現状を目の当たりにして思わず息を呑んだ。

 筋骨隆々のマルザと少年体質のヴァン。二人の体格差は大人と子供。触るだけでも容易く捻ね殺せる筋力差において、人が簡単に人を壊せる(・・・・・)様を見るのはそう多くない。


 故にその光景は一般的に見慣れないモノ(・・・・・・・)だった。


「ア……アガ……」

「……『アンダー』に法律はありません。故に皆がモラルを守ってるんです」


 マルザは鼻を潰され、両手両足の関節を外された状態で仰向けにピクピクと震えていた。


「何故なら、追い詰められた者は自分の命を払ってでも“ジャバウォック”を呼ぶ。今回みたいに」


 見慣れない光景だった。倒れるのは血塗れの大人(マルザ)で、見下ろすのが子供(ヴァン)であると言う事に――


「アニキィー!」


 と、横からディンが歓喜のあまり、後ろから抱き抱えて来る。


「やっべ! 最高! 強すぎじゃんアニキ! 本気(ガチ)? 本気(ガチ)だったの!?」

「……コイツが勝手に転んだだけだよ。それよりもディン、僕を持ち上げるな」


 子供を捕まえた時みたいに抱えるディンにヴァンは怒りを滲ませてそう告げると、あ……ごめんなさい……と降された。


「アルバム貸して」

「はい」

「じゃ、僕はこの◯ァッカー野郎をA.Jさんと一緒にバッカスさんの所に届けるから、お前は先に帰ってなさい」

「えー? 俺もバッカスのじいちゃんに会いたい!」

「リグ姉さんに報告が必要だろ? ただでさえ、ここから“第4区画”まで片道4時間は掛かるし、ペルディタさんのトコに頼むと高くつくから」

「…………」

「ちょっと……なにさ、その眼は。僕はコイツが二度とバカやらない様に説明と釘を刺してくるだけだって!」






「お、親父……本当に俺が悪かッタ!」


 “第6区画”――『カバリエール統括工房』の一室のベッドで起きたマルザは涙目になりながら、その場に集まっている面子の中で一番頼れる人物である父に叫ぶ様に告げる。


「もう二度とあんなバカな事はシナイ! ダカラ……ダカラ……」

「……バッカス、俺と……この息子(バカ)の首を差し出す。だから俺の他のファミリーを“ジャバウォック”の対象から外す様に頼んでくれねぇか?」

「お、親父ィ!」

「お前は黙ってろ!!」


 ひぃ! と起き上がれないマルザは震える。


「だ、そうだ」

「…………」


 バッカスが視線を向けるのはヴァン――ではなく、名を呼ばれたので標的と遊び(・・)に来た“第3区画の『ジャバウォック』”だった。

 フードコートに顔を包帯で覆った長身は猫背の様に常に前かがみの姿勢である。首をコキと傾け、


「…………」


 場をじっ……と見ると次には踵を返し、扉の近くに背を預けて立つヴァンの頭に一度、ぽん、と手を置いて部屋から去って行く。


「どうやら“第4区画”の獲物だと判断したらしいな」


 バッカスの言葉に注目はヴァンに集まった。

 すると、マルザの父親はヴァンの前に膝をつき、


「俺と……息子の命で済ませてくれ……」

「まぁ、僕も殺すまでは無いと思ってます。責任は彼がこれから苦労して生きていく事で釣り合いが取れてますし」

「! ありがとう……本当にありがとう……」


 ヴァンは涙ながらに礼を言ってくる父親と、両足と右腕を切り落とされると言う制裁を受けたマルザを見て、やれやれ、と嘆息を吐いた。






「ヴァン、サンキューな」

「僕を呼んだのはペルディタさんの判断ですよ。あの人はこうなる事まで読んでたってことです」


 バッカスは建物の外へヴァンを見送りながら、今回の件を可能な限り良い形で収めてくれた事に礼を告げていた。


「お前以外の“奴ら”は基本的に意思の疎通が出来ねぇからよ」

「そうですか? “第3区画”の人は結構話せる人ですよ?」

「俺は声すら聞いたことねぇ」


 ジャバウォック同士にもそれなりの繋がりがある事に、とんでもねぇな、とバッカスは大口を開けて笑う。


「“第1区画”はA.Jが色々と根回するってよ。今回の件が変な噂になって他の区画の“ヤツ”がストリートチルドレンを皆殺しにしかねんしな」

「もし止められなかったらストリートチルドレンには“第4区画”に来るように言っててください。子供でも人手は欲しいので」

「ガッハッハ、そうだな! 風呂もあるしな!」


 “第4区画”は『アンダー』で唯一、“ジャバウォック”の名を口にしても何も起こらない区画だった。

 その為、“ジャバウォック”に狙われた者が流れ着く区画であり、そこを管理する“アンダーマダム”に逆らう事は区画から追い出される事を意味する為、ワケあり程、真面目に働く。


「帰るなら馬車を専用で出すぜ?」

「いえ、定期便で帰ります。今日は目立ち過ぎたのでしばらくは地味に過ごしますよ」

「ガッハッハ! 『アリーナ』2位が地味かよ!」

「対戦カードが中々決まらないんですよ。おかげでそっちでの稼ぎはあまり……」

「そういや、近々ディンの試合があるだろ? 俺はアイツに賭けてんだ」

「あー、それこっちが棄権しますから、今の内に賭け金の回収をしておいた方が良いですよ」

「ぬぁ!? マジかよ!」

「正式な手続きが終わったらペルディタさんから情報が行くと思います」

「そうか。じゃあ、若い奴らにも伝えとくわ」


 では、とヴァンは屋敷から出ると、トコトコ定期便の出ている乗り場へ歩いて行く。


「ヴァン、今度はリグとディンと三人で遊びに来い」

「リグ姉さんは“第4区画”から離れられないのでバッカスさんが来てください。ディンも会いたがってましたし」

「ガッハッハ、モテるジジイは辛いぜ! 近い内に風呂に入りに行くわ。土産を持ってな!」


 ペコリ、と頭を下げるヴァンを見送ったバッカスは葉巻を取り出し火をつけながら踵を返した。






 『洞窟格納庫』では【ゼノス】が動いていた。

 正確にはクレーン代わりに、片腕の無い【ジャンク】の近くに腕部パーツを寄せる為にレイチェルが動かしているのである。


「……」


 接続部へ丁寧に寄せるも、僅かにズレている。かなり精密な機体操作をしなければ上手い具合に角度が合わない。


「困り事ですか?」


 下からかかる声にアイカメラを合わせると、用事から帰ってきていたヴァンが見上げていた。


「ええ。腕の位置が中々合わないの」

「代わりますよ。機体を動かさないでください」


 そう言うと、ヴァンは片膝を着く【ゼノス】を簡単に登るとコックピットハッチをノック。レイチェルはハッチを開放し、ヴァンに席を譲った。


「レイチェルさんは【ジャンク】の方の作業台へ行ってください。パーツの高さは僕が合わせます」


 ヴァンは【ゼノス】の片手で足場を作ると、ソレを渡ってレイチェルは【ジャンク】側へ。


「近づけて……ゆっくり……もう少し下……そう……そのまま……止めて」


 ヴァンの操作技術はレイチェルの誘導通りにパーツを寄せる。

 そのまま、レイチェルは腕部の細かい箇所の接続を行い、最後に装甲板を持ち上げてもらい溶接した。


「……問題なく動くわね」


 そして、【ジャンク】のコックピットで動作を確認。腕部の稼働は問題なく、指部も機能も問題ない。


「完成ですか?」

「ええ。でも、負荷による損傷の検証は出来てないから……実際に作業する際には不具合の可能性があるかも……」


 流石に一日半ではそこまでの機能テストは出来なかった。


「形さえ何とか動けば後は僕とディンで何とか合わせますよ」

「今回はかなりの突貫だったから……明日の調査が終わったらきちんと仕上げるわ」

「ヴァン、おかえりなさい。レイチェル、完成した?」


 そこへ、リグレットがやってくると、ふむ、と両腕が揃っている【ジャンク】を見上げた。


「いい感じね。見てみるから、お風呂に入って来なさい」

「はい」

「じゃあ、僕はご飯を――」

「ヴァン、アンタもお風呂よ。そろそろお湯を抜くわ。明日は早くに出てもらうから今夜を逃すと丸一日入れないわよ」

「…………」

「…………」

「なにやってんのよ。二人ともさっさとお風呂に行きなさい」

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