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Мake the call  作者: 古河新後
1章 地下技術(アンダーラウンド)

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第31話 マザー・◯ァッカー

「ヴァンの坊やも『サイフォスの月』がたった一人の『ナンバーズ』に潰された事は知っているだろう?」


 ペルディタは隣にトーイを座らせ、マルザの写真を見ながら内訳を語り出す。すると、ディンが元気に声を挙げた。


「俺も知ってる! 確か……『ナンバーズ01』だろ!」

「そうさ。人質を取った『サイフォスの月』は『スカイベース』へ、多くの技術を求めた。応じない場合は人質を殺すと脅してね」

「その後に潰されたんでしょ?」

「そうさ。人質救出に『ナンバーズ01』は深夜の静かな時間に単独で『サイフォスの月』本部に侵入した」


 まるで見てきた様なペルディタの情報は、彼女の収集能力の高さが伺える。


「人質を一人も損なう事なく助け出した。そのまま、構成員を殲滅しようと動いたらしいだけど、マルザに止められて『パースロイド』戦になったそうよ」

「つまり……マルザは白兵戦において『ナンバーズ01』と互角以上って事ですか?」


 『ナンバーズ01』は『パースロイド』乗りの間では有名な存在だ。専用機【ダークブルー】も然ることながら、パイロットも人外に片足を突っ込んでいるという噂もある。

 それは単身で『サイフォスの月』を潰した様を見れば誇張ではないのだろう。


「私もマルザが戦ってる所を映像で見たけどね。白兵戦は殆ど拮抗してたよ。騒ぎを聞きつけた他の構成員が来たことで『ナンバーズ01』が退却して決着はつかなかったみたいだけどね」

「…………それで、そのマザー・◯ァッカーが何をしたんですか?」

「マルザよ。それは――」

「アイツ……俺の家族を殺したんだ……」


 トーイが目を伏せながら、膝の上で拳を握りつつ呟いた。

 悔しさか、怒りか、震えるトーイの代わりにペルディタが説明を続ける。


「マルザは小児性愛者で加虐思考だったんだよ。『サイフォスの月』に入ったのも、他のコミュニティの道徳的なルールに嫌気がさしての事さ」

「……」

「しょうにせいあいしゃ? かぎゃくしこう?」


 難しい言葉を知らないディンにペルディタが説明する。


「要するに幼い少年や少女に対して保護する様な素振りを見せる一方で暴力行為を振るうのさ」

「はぁ!? どう言う事だ!?」

「ディン、黙って聞いてなって」


 思わず立ち上がった妹をヴァンは諌める。ペルディタは続けた。


「『サイフォスの月』が壊滅後、ヤツは『アンダー』に来た。そしてストリートチルドレンに目をつけたんだよ」

「最初の頃はいい奴だと思った……食べ物をくれたり、服をくれたり……でも、少しずつ他のグループの奴らを見なくなったんだ」


 最初は養子に拾われたり、“第1区画”から出て行ったのだと思った。トーイはその事を信用していたマルザに相談した。するとマルザは子供でも出来る働き方口があると、言葉巧みにトーイのグループを人気のない倉庫へ誘ったのだ。


「アイツに……聞いたんだ。皆はどこに行ったのか、って……そしたら……」


 連れられた倉庫では、居なくなったと思われたストリートチルドレン達が居た。全員が傷だらけで明らかな暴行を受けていたらしい。


 トーイは瞬時に悟り、家族を逃がそうとしたが倉庫の扉は閉まってしまい、マルザによる暴力行為が彼とその家族にも振るわれた。


「まだ動ける俺は何とか逃げ出して……」


 その事を思い出してか、トーイは小さく震える。

 そんな彼の様子を見つつ、ヴァンは特に感情を出すこともなく、


「まぁ……同情はしますけど別に珍しい事じゃありませんよ。ストリートチルドレンとして『アンダー』で生きるなら、そのリスクは常に付きまといます」


 そう、良くある事なのだ。『アンダー』に法律はない。庇護の無い者、弱い者は、ちょっとしたミスで廃墟の隙間に飲み込まれる。

 故に今回の件はマルザの甘言に引っかかったトーイ達の責任だろう。


「ヴァンの坊や。私も最初はそう思ったんだけどね」


 ペルディタはテーブルにアルバムの様な冊子を置く。


「トーイが倉庫から逃げる時に持ってきたんだよ」


 ヴァンは冊子を手によりページを開く。ディンも横から覗くが、中身を見た次の瞬間――


「はぁ!? ちょ……これ! アニキ!」


 そこに綴られていた写真は少年少女達に性的暴行をした記録だった。まるで、自分の戦果の様に記録を残している様で、中には既に目に光りが宿らない少女も写っていた。

 ヴァンは冊子を開いた時と特に表情を変える事なく閉じる。


「捕まった子供達は人としての尊厳をマルザの快楽のために奪われた。もう、二度と大人は信用出来ないだろうね」


 トーイは震える。彼が“逃げ出す”と言う選択が取れたのは、まだ暴行だけ(・・・・)だったからだろう。


「ヴァンの坊や。これらの状況を踏まえた上で、この依頼を受けてくれないかい?」

「アニキ……!」

「トーイ」


 名前を呼ばれトーイは視線を上げる。


「君が決めろ。君はコイツをどうして欲しい?」


 ヴァンは冊子の横に置かれたマルザの写真を、とん、と人差し指で叩く。


「――コイツを……」


 トーイはハッキリとヴァンにそう言った。






「アニキ、ホントに今からやるの?」

「まぁ、後回しにしても面倒だし、“第1区画”に丁度来てるし効率良くやった方が良いでしょ」


 ヴァンとディンは『砂埃の館』を出て“第1区画”の繁華街を歩いていた。飲食店などが立ち並び、人の往来が絶えない場所の一つである。


「俺もマルザの事は許せねぇけど……アニキ……さ」

「なに?」

「トーイが言った通りに……ホントにヤツを殺るの?」


 コイツを……殺してくれ!


 先程、『砂埃の館』でトーイから言われた事をディンは気にかける。

 そんな妹に視線を合わせる事なく、ヴァンは冷徹な眼で考える様に一瞬間を置くと次には、ぷっ、と笑った。


(バラ)さないよ。もし、殺るなら『パースロイド』を一機くらい貰わないとワリに合わないって」

「だ、だよなー!」


 時折、見せるヴァンの冷徹な眼。それが無くなった様子にディンはほっと胸を撫で下ろす。


「それに、ストリートチルドレンで生きる事を選んだのはトーイ達だよ。そう言うリスクを見極められないのも自己責任。自分たちで報復するならまだしも、他人に頼むのはお門違いだ」


 どこの組織にも庇護にも収まらず『アンダー』で生きて行くのならば、信用できる人を見極めるのは最低限の能力だ。


「それに“ジャバウォック”の噂が先行し過ぎだって。僕は人を殺した事なんて無いのに“殺人鬼(ジャバウォック)”みたいに言ってさぁ。リングネームを(あやか)ってるだけだっての」

「…………」


 ディンは、じとー、と目を向けるがもう兄にそんな気が無い様子に気持ちを切り替える。


「あのさ、アニキ。今回は俺にも戦らせてくれよ」

「ん?」

「よくわかんないけど……ムカついてしょうがねぇんだ」


 トーイ達がマルザから受けた様を思い返し、ディンは心に抑えきれない怒りが湧いている様を感じる。


「駄目。お前はいつも通り、雑用と見張り」

「え!? だっ……そんっ……アニキィ!」

「明日はレイチェルさんと戦艦の調査に行くんだろ? もし僕とお前の両方が怪我をしたら誰が『パースロイド』を操縦するんだ?」

「それは……そうだけどさ……」

「ま、ヤバくなったらフォロー頼むからさ。それまではね」


 いつもの調子で歩く兄。ディンはふと尋ねる。


「アニキ……マルザに勝てるよな?」


 その言葉にヴァンは足を止めると、ディンの鼻を摘む。


「誰に向かって、そんな疑問を投げかけてるんだー?」

()ひゃい! ()ひゃい!」


 ヴァンは手を離すと、まったく……と踵を返して歩き出す。


「まぁ、そもそも負け様もないんだよ。“ジャバウォック”はね」

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