第3話 リスク判断
【ダークブルー】
『ナンバーズ01』の専用機にして多変換装機である。
『ハイラウンド』が使う飛行機関『ジャナフ』を搭載し、蒼色の装甲は使われている装甲材質の効果によってカメレオンの様に変換する。今は海の色を忠実に再現していた。
任務に合わせて装備を換装する事で真価を発揮する“柔軟性”が売りな機体であるが、今回は緊急的な出撃であった為に換装装備は無い。武装はシンプルに『頭部バルカン』『エネルギーライフル』と『ビームセイバー』のみである。
【ジャンクS】の突貫に近い弾幕生成は【ダークブルー】の逃げ道を塞ぐように展開されたが――
『…………』
【ダークブルー】のフェイスが展開され、割れるような口部からも“赤の軌跡”が漏れ出る。すると、斜め上に急加速。弾幕が広がり切る前に【ジャンクS】の上部と下部でスレ違う様に――
『お前、今停止してただろ!』
『技術と知識の差だ』
【ダークブルー】は移動の際に『エネルギーライフル』の“溜め”を終えており、【ジャンクS】へ一射。
光が【ジャンクS】を貫き、『ガトリング』を持つ右腕部を破壊する。
『くそったれ!』
…………コックピットを狙ったのだが。反れた?
【ダークブルー】は進みながらバランスを整える【ジャンクS】に対して『エネルギーライフル』を構えつつ分析。
パージした装甲板に“反射生地シート”が使われている。これは『エネルギー兵器』への対策か。
【ダークブルー】は冷静だった。
冷静であるが故に、機密である『エネルギー兵器』の情報が流されていると言う事実にも動揺はない。
パイロット、もしくは機体を鹵獲してから調べてれば何らかの情報が出てくるだろう。今は――
【ジャンクS】の『飛行機関』へ『エネルギーライフル』を構える。
『残すのは一機で十分だ』
音も反動もない『エネルギーライフル』の一射が【ジャンクS】の『飛行機関』を正確に――
『それって僕のこと?』
撃ち抜く寸前、レーダーに引っかからない装甲板の飛来によって、『エネルギーライフル』の銃口が僅かにズラされ【ジャンクS】を外す。
『ほう……』
装甲板を投げたか。熱源と高速物を捉えるレーダーには映らない。
更に近づく後方の【ジャンクS】の弾幕に対して身を倒すように後方へスゥ……と移動する。
【ジャンクS】は【ダークブルー】の前方を通過すると、大きく旋回しながら絶えず弾幕を生み牽制を始めた。
【ダークブルー】は不自然にカクついた後退にて弾幕の隙間を動き、躱し続ける。
『うわ……その動き、気持ちわる……』
『アニキ!』
実兄からの援護に通信を送る。
『ディン、先に帰ってなよ』
『いや、まだまだイケるって! このクソみたいな重心操作にも慣れたからさ!』
『約束したろ? 先にダメージを負った方が帰ってそうじゃない方が残るって』
『いや、こっからだって! 『アリーナ』でも――』
『ディン。ここは『アリーナ』じゃないよ』
『わかってる! わかってるよ! だから――』
『リグ姉さん。怒ると思うなぁ』
『う゛……』
『【ジャンクS】を無傷で帰す事を条件にしてたから、怒ると思うなぁ』
『……この『戦利品』で許してくれっかな?』
『少なくとも、頭ぐりぐりは無くなると思う』
『じゃあ帰る! アイス作る本は絶対ね!』
『第一優先で持って帰るよ』
【ジャンクS】は大きく旋回しつつ退却する方角へ直進を始めた。その先は雲が存在し、『スカイベース』のレーダー索敵から大きく乱れる為、逃亡を許してしまう。
【ダークブルー】は牽制してくる弾幕を回避しつつ退却する【ジャンクS】へ『エネルギーライフル』を構える。
回避補正完了――
速度計算完了――
落下による海面への被害最小――
命中率100%――
チャージ……完了――
『あ、僕上に行きますね』
そんな通信が入り、いつの間にか弾幕が止まっていた事から【ジャンクS】の動向を再度索敵。
すると、『スカイベース』の内部へ続く、通気シャフトへ向かっていた。
『…………』
【ダークブルー】は即座にどちらを逃せば技術的リスクが高いかを判断し……
退却する【ジャンクS】から銃口を外し、『スカイベース』へアクセスしようとする【ジャンクS】へ『エネルギーライフル』を向ける。
『…………』
撃てない。射角上『エネルギーライフル』の貫通性から『スカイベース』へも当たってしまう。
【ダークブルー】は『飛行機関』を高速機動モードへ移行し、空気の輪を生むと『スカイベース』へ近づく【ジャンクS】を追うように加速した。
それと同時に退却する【ジャンクS】は雲の中へ入る。
『バランサー最悪だ』
搭乗者は『飛行機関』を適切な出力に調整。更に操作性が劣悪になった【ジャンクS】の操縦桿を握りつつ、
『アニキと戦うアイツ、ホントご愁傷さまだね』
相手が嫌がる事が得意な実兄との相対する【ダークブルー】を憐れみながら家族の待つ『アンダーラウンド』へ帰還する。