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Мake the call  作者: 古河新後
1章 地下技術(アンダーラウンド)

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第28話 『オワタオワタ』

「……広いわね」

「でしょ?」


 レイチェルは水を抜いた大浴槽の中をブラシで擦りながら呟いた。ディンは壁を擦りながら器用に応じる。


「まぁ、12時までにお湯を入れてれば良いからさ」

「他にも……桶や入浴道具も洗わないといけないんじゃない?」

「あ、そうだった」

「お湯を戻すのはどれくらいかかるの?」

「うーん……30分くらいかな」

「30分……」


 レイチェルは入浴場内の壁にかけられているゼンマイ仕掛けの大時計を見る。

 10時……後1時間半で大きな浴槽と道具の清掃を終える? 素人目にも二人ではかなり厳しい。


「人手が足りないわね」

「後から姉ちゃん来るよ」

「三人力でも……不安ね」


 始めた時から三人であれば現実的に終わったかもしれないが、これでは……


「ん? ディン、これはなに?」


 ふと、隅で停止している円柱状の機械が目に止まる。


「それ『ボルック』だよ。浴室を掃除する手間を減らす為に姉ちゃんが造ったんだけど、半年前に死んだ」

「修理はしないの?」

「パーツが必要なんだってさ。何でも……キバンってのが古くてショートしたみたいで。戦艦から持ってきた機械だし、キバンに関しては姉ちゃんも分からないって」

「……」


 レイチェルはその『ボルック』に近づくと、しゃがんで状態を見る。


「これは……」


 薄っすら残る型番を見つけると、『スカイベース』の屋敷の庭を掃除するロボットの頭文字が入っていた。

 つまり……外側は違っても基本的な配線は同じ系列? 確か……庭清掃のロボットはもう基盤は使われてないモデルでスイッチのON/OFFをオートに頼らない限りはAIも必要なかったハズ。


「ディン、ドライバーはある?」

「あるけど。もしかして直せる?」

「私が始めて機械に触れたのが、このタイプを独学で直した事が始まりよ」


 その時の庭清掃ロボットは今も屋敷で現役に動いている。






「今回はペルディタへ色々と根回しが必要ね」


 ヴァンは寝室へ仮眠に向かい、リグレットは復唱しながらやるべき事を頭に刻む。手にはブラシを持ちながら身体は入浴場へ向かっていた。


 【ゼノス】が“4区画”に現れた事は“1区画”の彼女も把握しているハズ。『アンダー』のあちらこちらに“眼”を持つペルディタは情報を商品としている為、レイチェルを探しにくる『ノーマルラウンダー』や『ハイラウンダー』に、ソレを高値で売りつける可能性は十分にあるのだ。


「……今は掃除が先ね」


 通り過ぎざまに時間を見ると10時30分。ディンと不慣れなレイチェルではまず終わっていないだろう。

 あと1時間で終わらせて湯を張らねば。


「どんな感じ?」


 そう言いながら戸を開けて中に入ると、


「おお! すっげー! 前よりも強烈に動いてる!」

「強弱の設定も出来るようにしたわ。前までは“弱”で動いてたみたいだから」


 大浴槽を覗き込むディンとレイチェルは、ぶぃーん――とホバーして掃除する『ボルック』を上から見ていた。


「あ、姉ちゃん! 見て見て! 『ボルック』が動いてるっしょ! レイ姉が直したんだ!」

「貴女が?」

「直したと言うよりは基盤が壊れていたので配線を動くように組み替えただけです。今は壁を検知して方向を変えるセンサーしか機能していません」


 リグレットも二人と同じように覗くと『ボルック』は浴槽の半分ほどを丁寧に掃除していた。


「浴槽は『ボルック』に任せて、私達は上を掃除するわよ」

「おー!」

「はい」


 三人で上の掃除を開始。桶や座り所の掃除を終える頃には『ボルック』が上がってくる。


『オワタオワタ』

「あはは。そんな言葉入ってたのかよー」

「ボイスメモリーね。新しく登録し直せますが」

「いや、そのままで良いわ。それが、その子の個性だもの」


 リグレットでも音声を発する所までは修繕できなかった。上がってくる『ボルック』を手動操作で端まで誘導すると下側を洗い、入浴場から男側の脱衣所にて待機させる。


『オワタ』

「まだ言ってるよ。それにしても、この『ボルック』ってナニで動いてんだ?」

「配線を見る時に内部を開けた時に“エルギーバッテリー”を確認したわ」

「えるぎーばってりー?」

「僅かな初動エネルギーを循環させて無限にエネルギーを生み出すバッテリーよ。こんなに小型のモノは『スカイベース』でも稀ね。製造にかなりのコストがかかるから効率が悪いの」

「へー。よくわかんないけど、ゼンマイを回す必要はないんだ?」

「それは……かなり太古の手法ね」

「レイチェル」


 リグレットに呼ばれ、はい、と振り返る。


「貴女、私に技師として売り込みたいって最初に話したわね?」

「はい」

「明後日、ヴァンとディンと一緒に“戦艦”の調査に行ってもらうわ。それまでに格納庫の【ジャンク】に片腕を用意出来る?」

「……機体と道具を自由に使わせてもらえるなら期待に応えてみせます」

「やってみなさい」






「ってことでさー、レイ姉はずっと姉ちゃんと話してるよ」

「そう」


 開店した『フードブック銭湯』の番頭に座るディンは、客の入り様を見つつ起きて来たヴァンと会話していた。


「【ゼノス】は使わないみたいだね」

「あ、それ俺も思った! でも、ペディ姉と話を着けるまでは格納庫から出さないってさ」

「あー、ペルディタさんはそう言うのネタにするもんね」


“『アンダー』じゃ情報は極上の商品なのさ、ヴァンの坊や”


 『スカイベース』ではレイチェルさんを捜す動きが出ている頃だろう。しかし、この広大な『アンダー』で一人の人間を見つけるなど、砂漠の中で一つの粒を見つけるのと同じだ。

 となれば、頼るのは情報屋であるペルディタさんの所が有力だなぁ。


「ディン、明日。ペルディタさんのトコに行くよ。リグ姉さんが『アリーナ』の件もキャンセルに行けってさ」

「やっぱり『アリーナ』はキャンセルかぁ……久しぶりのランカー戦だったのになぁ」

「今、どっちが上なんだっけ?」

「“トリー”の方。俺は9位だからさ……今回でぶっ千切ってやろうと思ったのにぃ!」


 ディンは『アリーナ』で9位と8位を“トリー”と呼ばれる選手と実力が拮抗している。順位は絶えず入れ替わっていた。


「でもさ……ペディ姉ちゃんに色々頼むと高く付きそうじゃん? 大丈夫なの?」

「んー、ペルディタさんは前から僕に頼み事があるって言ってたから、ソレを聞こうかなって思ってる。“4区画”に支障が無い範囲でね」







「…………」

『どうした、トリエル』

「お父さん……『アリーナ』……」

『勉強謹慎よりも大事だと言うのなら好きにしなさい』

「…………ごめんなさい。勉強続ける」

『映像分析を見る限り、“ディル”よりも今の(・・)お前の方が強い。次の機会にソレを見せつけてやりなさい』

「うん……わかった」

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