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Мake the call  作者: 古河新後
1章 地下技術(アンダーラウンド)

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第27話 “妖精”みたいな感じの人だぁ

 『フードブック銭湯』は脱衣所こそ分かれているが大入浴所は一つしか無く、基本的には混浴である。

 程よい大きさの岩盤の窪みに湯が溜まっていた場所に建てられた銭湯であり、代々“フードブック家”が管理運営していた。

 巨大な浴槽には男女関係なく一度に大勢に入る事が可能であり、横100メートル奥行き20メートルの大きさだった。内部は緩やかな傾斜になっており、一番深い所で2メートル程になる。


 基本的には無制限で入り続ける事が出来るものの、のぼせた場合は裸で外に放り出される事が決まっている事もあり、客の大半は身体を洗って湯を堪能したらそそくさと帰っていくのだ。

 

 そんな『フードブック銭湯』は、より清潔な様を保つために営業時間は時間帯は12時から22時までと決められており、さっと浴びて、さっと上がる事でより多くの者が入れるように考慮するのが暗黙の了解となっている。


「あ〜くそぉ……終わらねぇ……」


 その大浴槽を洗うディンは一人でブラシをこすっていた。

 元々は三人でやってギリギリの作業なのだが、今は一人でやらされている。後にリグレットも手伝うといわれているがソレでも二人。相当ペースを上げないと間に合わない。


「そう言えば! アニキ帰ってきたんだよな! あっ……でも姉ちゃんにゲンコツ食らったって事は……戦力としては期待出来ないかぁ……」


 やっぱ鉄拳くらうじゃん。

 と、岩を落とした様な音を聞いていたディンは兄も姉の鉄拳制裁を免れなかった事を悟っていた。


「アンも今日は配給に行ってるしなぁ。せめて、コイツが動けば……」


 ディンは隅に片付けられた円柱状の『ボルック』に視線を向ける。

 それは浴室掃除用にリグレットが開発した『ボルック』なのだが、半年前に故障して停止。色々と調べた結果、パーツが足りないと言う結論が出ていた。


「ここかしら?」

「ん?」


 と、聞き覚えのない声に客がフライングしてきたのかと入り口を見る。


「あー、まだ清掃中だから入ったらダメ――ってウォ!?」


 ディンは思わず唸る。何故なら、『アンダー』には似つかわしくない気品を感じさせる雰囲気のレイチェルが、姉の普段着を着て入ってきたからだ。


 うわぁ……何この人、なんかスゲー。ペディ姉が“妖艶(よーえん)”だとしたら、“妖精(よーせー)”みたいな感じの人だぁ。髪の毛も2色だし。何食ったらそうなるんだろ?


 すると、レイチェルもディンに気がつく。


「私はレイチェル・アークライトと申します。リグレットさんにお風呂掃除を手伝う様に言われたのですが、貴女が妹さん?」

「え? あ、そ、そうだよ! 俺はディルディン・フードブックね! ディンって呼んでいーよ」

「宜しくお願いします、ディンさん」

「えっと……おたくは何歳?」

「20歳ですが……」

「あ、じゃあ呼び捨てでいいし、タメで喋っていいよー。俺18だし」


 と、レイチェルよりも頭半分身長の高いディンは後頭部に手を当てながら笑う。


「18歳? 随分と大人びてるわね」

「え!? そう見える? アニキと姉ちゃんからは、まだまだ子供って言われるけど……ありがと! レイ姉」

「レイ姉?」

「俺からすれば歳上の人は皆、姉とかアニキだからさ! おっさんとか爺さんとかも居るけど、レイ姉はレイ姉ね!」


 ディンの純粋な寄り添いにレイチェルも自然と笑みを返して応える。


「よろしくね、ディン」

「おう!」


 ここに来た経緯よりも、今の出会いを大切にするディンは、にしっ、と笑った。






「あー、目がぁ……星が……」


 格納庫のベンチ椅子の上に寝かされていたヴァンは目を覚ますもチカチカしていた。額を抑えて身体を起こす。


「私の【ジャンクS】を放置してきた罰よ」


 【ゼノス】を移動させて直立に立たせたリグレットは、ハンガーに固定した所から降りてきていた。


「ヴァン、機体からデータを出せないわ。OSを書き換えたいんだけど、アクセス権限が無いってうるさいの」

「それ、レイチェルさんじゃないと無理だよ。設計開発したの彼女らしいし」

「この機体を?」


 リグレットは【ゼノス】を見上げる。

 要所に合わせてカスタムする必要がある【ジャンク】シリーズよりも、単機であらゆる場面の攻略を想定している事が伺える【ゼノス】は、リグレットの目から見ても、かなりの神がかりなバランスの取れた機体だった。


「【ソルジャー】に代わる量産機になる予定だったんだって。それを盗んできた」

「最新機って事ね。脱出にはレイチェルが手を貸してくれたの?」

「いや内通者の人だよ。姉さんに“よろしく”って」

「そう。ヴァン、『スカイベース』で何があったのか話しなさい」

「あー、そうだね。色々とヤバい話も聞いたよ」


 ヴァンはディンと別れてから【ダークブルー】との戦いに加えて『機械同調計画マシンナリープロジェクト』の事もリグレットへ話す。


「健康診断もされたけど、変なチップとかの埋め込みは無かった。それで――」


 と、話してる途中でリグレットはヴァンを優しく抱きしめる。


「本当に、あんたが無事で良かったわ……本当に……」

「……うん。僕も少し軽率だったよ」


 リグレットを抱き締め返すヴァンは、ディンを確実に逃がす為に深入りし過ぎた事を謝った。

 姉は自分と妹のために人生を尽くしてくれている。そんな彼女にヴァンも応えたくて無茶をしたのだ。

 リグレットはゆっくり離れる。


「数年は『スカイベース』に行くのは無しよ。聞く限り、【ダークブルー】は“ノーマルスペック”だったみたいね。もし“アサルトスペック”だったら【ジャンク】シリーズじゃ瞬きの間にアンタらは堕とされてるわ」


 ヴァンの技量が『ナンバーズ01』に劣っているワケではない。搦め手で虚を突き続けた故に状況は拮抗したが、本来の機体性能差は歴然。あらゆる制限の無い【ダークブルー】は単機で一組織を壊滅させる程の性能を発揮する。


 かつて『サイフォスの月』と呼ばれた革命組織が技術を独占していると『ハイラウンダー』を人質にとって『スカイベース』へ宣戦布告した事があった。

 しかし、結果は『ナンバーズ01』単機によって人質は救助され、追撃してくる30機の『パースロイド』を地上戦の単機で全滅させたと伝わっている。噂では【ダークブルー】の装甲に傷一つ無かったとか。


「戦って見て解ったよ。アレに乗ってるのは“ヒト”じゃない。『機械同調計画マシンナリープロジェクト』を聞いて余計に確信した」

「ま、埃臭い『アンダー』じゃ『ハイラウンダー』は息をするのも苦労するわ。それに、ここで個人を見つける事は不可能よ」


 金銭の価値が低い『アンダー』ではあらゆるモノが取り引きの材料に使われ、軽々に他人の情報を話すような事はない。特に“4区画”に置いては一枚岩として機能している。


「だよねー。そう言えばレイチェルさんは?」

「彼女は風呂掃除をさせてるわ。アンタも仮眠を取ったら銭湯に手を貸しなさい」

「あ、やっぱり……」

「アンタもディンと同じで一週間の謹慎よ」

「ボルじぃには、なんて言えばいい?」

「ボルさん達には今、エレベーターを作らせてるわ。また“戦艦”が見つかったの」

「ホントに? ボロボロ出てくるね」

「ただでさえクソ忙しいってのに……だから『アリーナ』も出場はキャンセルよ」

「流石に……【ゼノス】じゃ出場()れないかぁ」


 ヴァンは佇む【ゼノス】へ視線を向けた。

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