第24話 ゴミを漁る場所へ
第14小隊――
【ソルジャー】(バルディア機)機能停止。
【ソルジャー】(シェル機)機能不全。
【ソルジャー】(ヨネハ機)正常。
【ソルジャー】(ジョエル機)機能不全。
【ソルジャー】(ベルギル機)機能不全。
「まぁ、こんなモノですね」
ヴァーミリオンは【ゼノス】を反転させると、振り切る様に『スカイベース』の下部を飛行。もはや追撃は無いモノとして認識していた。
「これが……『パースロイド』戦なのね……うっ……」
前後左右にぐるぐる回るコックピットで、後ろの福座に座って前の座席にしがみついていたレイチェルはヴァーミリオンの機体挙動に呷られて目眩を引き起こしていた。
「まだ落ち着けません。『スカイベース』の索敵範囲外へ抜けます」
ヴァーミリオンは『飛行機関』を加速。空気の輪を後方に作り、瞬時に音速へ達した。
「ふー……」
レイチェルは半ダウン状態で額を抑える。
その時、正面モニターの端にメッセージが届き、ヴァーミリオンだけがソレを見る。
“リグレットによろしくな”
それは返答を求めない一方的な通知。物資の内通者の事は姉が伏せていたが、やっぱり――
「姉さんも貴方からの手紙は毎回嬉しそうに見てますよ」
「……なにか言った?」
「いえ」
『スカイベース』の索敵範囲から【ゼノス】の反応が消失。積乱雲の中に入った事でロストしたのだ。
『スカイタワー』の軍部管制室では追跡部隊を遅れて出撃させるも夜の積乱雲は危険と判断し、第14小隊の機体救助を優先した。
『【ゼノス】はロストした。レイチェル・アークライトの消息は不明。『技術格納庫』へ通じる監視カメラの映像では、ヴァーミリオンと共に合ったそうだ。誘拐された可能性が高い』
「……今回の件、軍部の大きな落ち度だ。『スカイタワー』及び、中央首都は貴殿の管轄のハズだが?」
『ワタシは最低限の処置を取ったに過ぎない。なにより、この件は“アークライト”の主導だった。そちらの要望がない限りは、ワタシは干渉しないと告知したハズだが?』
「……レイチェルは無事に救助出来るのか?」
『不可能ではない。“アークライト”が許可を出せばレイチェル・アークライトの捜索を開始しよう』
「……無傷で連れ戻して欲しい。あの子は“アークライト”の宝だ」
『軍部にとっても得難い人材だ。最優先での捜査を開始する』
“アークライト”執務室で『侯爵』と通信を行なっていたデュークは疲れた様に椅子に体重を預けた。
「アナタ……レイチェルは大丈夫よ。あの子はとても強い子よ」
ルージュはそんな夫に寄り添うように手に触れる。
「申し訳ありません! 私が……レイチェルお嬢様の側を離れたばっかりに……!」
ロートスは心から二人に頭を下げる。
レイチェルの要望とは言え、ヴァーミリオンと二人にするべきではなかった。
「旦那様、奥様、私を“アークライト”より除名してくださいませ! 私がお嬢様を見つけ、連れ帰る事を最後の仕事と致しますゆえ!」
「その必要はない」
デュークの言葉にロートスは顔を上げる。
「不安は大きいが……何故かな。あの子は帰ってくると確信している」
「アナタ……」
「旦那様……」
“御父様、私は地上に降りてみたいのです。許可を頂けませんか?”
「あの子に世界を見るために必要な翼は生えそろっていた。ソレを抑えつけたままではレイチェルが起こすこれからの可能性を全てを潰してしまうだろう」
「……アナタの言うこともわかるけど……やっぱり心配よ」
父親として娘の歩みを見守りたいデュークに対して母親として娘の安否を第一に優先するルージュ。
そんな妻を安心させるようにデュークはロートスに告げた。
「ロートス、“アークライト”としてレイチェルを捜してきてくれ。捜索の目は多い方が良い」
「――お任せください! この身が砕けようともお嬢様を必ず……旦那様と奥様に再会させる事をお約束致します!」
「ああ。頼んだぞ」
ロートスは即座に行動するべく、一礼して執務室を出る。
デュークはレイチェルが提案してきた、最も新しい機体設計案の資料に目を向けた。
【スカイコール】開発計画――
「…………」
【ゼノス】は積乱雲を抜け、安全圏に入った所でコックピットを開けて対空していた。
開いたハッチの端に座るレイチェルは、酔いを冷ます様に冷たい空気を吸い込みながら、夜明けの光を見る。
水平線より世界を照らす光は神秘的な様を感じさせ、心にも澄んだ雰囲気を満たしていく。
「もう引き返しませんよ」
コックピットに座るヴァーミリオンは【ゼノス】と『スカイベース』が繋がる設定を全てオフラインにしていた。
地形や環境情報と言ったサポートも全て受けられないが、逃亡の身としてはそれらは必要ない。
「わかってるわ。行きましょう」
レイチェルはコックピットに戻ると副座へ戻り、ヴァーミリオンはハッチを閉める。
「これから行くのは『廃墟都市アンダー』です。僕の住んでる区画の管理者に貴女を引き合わせます。最低限の食と住は与えてくれるハズです」
【ゼノス】を故郷への進路を取らせながらヴァーミリオンはこれからの生活を説明する。
「ありがとうね」
「? なんのお礼ですか?」
「私が父と母と言い合いになる時に止めてくれたんでしょ?」
戦闘前にヴァーミリオンと打ち切る事になった会話をレイチェルは続ける。
「理解し合えない家族ならしょうがないですが。貴女たちは“良い人”でしたから。“良い人”が、偽ってる僕の為に争うのは気分が悪かったので」
ヴァーミリオンは“アークライト”が自分を騙して『機械同調計画』に参加させるつもりではない事を見抜いていた。
「それでも身体を機械にするのは御免ですが」
「人それぞれの価値観があるわ。ヴァーミリオンはそれでいいと思う」
「ヴァンで良いですよ。フルネームはあまり呼ばれ慣れてないので」
「――そう。なら私はレイチェルで良いわ」
「わかりました、レイチェルさん」
「敬称も必要ないわ」
「敵でも家族でもない人を呼び捨てには出来ませんよ」
【ゼノス】は早朝の空を飛行する。
ヴァンにとっては元の日常的へ、レイチェルにとっては別の一日へ。
この出会いが世界にどんな変化をもたらすのか。まだ、この時は誰も知らなかった。
『……ワタシ達を滅ぼしに来るか……“クオリア”』
世界が間もなく迎える危機を観測している『侯爵』を除いて――




