第13話 人を超える計画
『スカイタワー』医療ベースにて、最上級の身体検査が行われていた。
身体測定は勿論、血液検査から、CT、МRAに至り、ヴァーミリオンのあらゆる身体能力を『スカイベース』へと登録して行く。
「……」
「レイチェルさん」
ヴァーミリオンの検診をマジックミラー越しに見ていたレイチェルへ、スーツを身を包んだ女性が歩いてくる。
「御母様」
ロートスは道を開けるように横に立ち頭を下げ、レイチェルは胸に手を当てて、丁寧にお辞儀をする。
「あの子が例の?」
「はい」
レイチェルの母――ルージュ・アークライトは娘と並んでヴァーミリオンの様子を見る。
「年齢は16歳前後ね。随分と都合が良いことで」
「……本当に彼を“アークライト”からの『機械同調計画』への被検体にするの?」
「魅力的に映っているのはどの『主席』も同じなのよ。“トリエル”を見てみれば」
トリエルは『機械同調計画』よって身体の約90%を機械化しており、それに伴う成果を最も発揮している被検体だった。
そして、『機械同調計画』こそが技術の最先端であると疑わない者は後を絶たない。
「研究が進めば、本来なら助からない命も助けられる様になるわ。そして、更に研究が進めば不老不死さえも手が届く可能性があると言う噂よ」
「…………私は魅力的とは思わない」
「私もよ。勿論、お父さんもね。でも、今の『ハイラウンド』の技術が先に進まず止まっている事は事実なの。レイチェルさんもソレがどれ程危険な事か分かるでしょう?」
今、『ハイラウンダー』は『ノーマルラウンド』に対する技術を大きく制限している。これは、過去に世界を破壊しかけた『終末戦争』を再び発生させない為なのだ。
人々が生きながら、世界を滅ぼさせない様に技術を調整する。そして、『スカイベース』に住まう『ハイラウンダー』の数が『ノーマル』『アンダー』に比べて圧倒的に少ないのは自らを管理できるギリギリの人数だからだ。
その少ない人口で『ノーマル』と『アンダー』を管理する。今は『パースロイド』の性能で牽制しているものの、現在は頭打ちとされている『ハイラウンド』にいずれ『ノーマル』は追いついてくると言われている。
故に次に明暗を分けるのは“人”。
技術が並んでしまえば次は“人”がソレを抑えつけねばならない。それが『機械同調計画』だった。
「……」
「レイチェルさん、あの子に関しては完全に対応が浮いている状況なの。その上、無条件に“アークライト”に受け入れる事は出来ない。あの子が“アークライト”が提供する被検体として『機械同調計画』に加わるのはあの子自身を“アークライト”で護る為なの」
ヴァーミリオンが記憶を思い出すまで待つのはあまりにも非現実的だ。
彼が診断をしている間に【ダークブルー】との交戦記録を音声で聞いたが彼は明らかにこちらに対して反目の様子がある。
記憶を取り戻したとしても『機械同調計画』を受けさせてしまえば、その類稀なる操作技量を手に入れつつ、こちらの制御下に置けるのだ。
“アークライト”に危険もリスクも何一つない。この『スカイタワー』に入った時点でヴァーミリオンの未来はほぼ決まった様なモノだった。
「御母様……私達は他人の人生を決めるほどに偉い存在なの?」
「私もあの人もあの子の意思を無下にする事はしないわ」
すると、検査が終わったのか診察ルームからヴァーミリオンが出てくる。
「レイチェルさん、なんかチクッて血を抜かれて――わ、綺麗な人……」
「こんばんは。私はルージュ・アークライト。レイチェルのお母さんよ」
「えっと……僕は……ヴァー……ミリオン? って言います」
「ヴァーミリオンね。ふふ、カッコいい名前じゃない」
「え、そ、そうですかね」
ルージュに褒められて照れるヴァーミリオンを見ていると、レイチェルはどこか居た堪れない気になった。
「レイチェルさん? どうかしたんですか?」
「……何でもないわ」
「レイチェルさん、ヴァーミリオンの事は私が引き継いでもいい?」
母はこれからの決断が辛いなら帰っても良いと遠回しに言っていた。その際に不安そうなヴァーミリオンの視線に気づく。
「……ヴァーミリオンを助けたのは私だから、最後まで付き合うわ」
「そう……」
レイチェルの言葉にヴァーミリオンは、パァ、と明るくなる。
「診断結果が出るのに少しかかるから、先にあの人に会いに行きましょうか」
「あの人?」
ヴァーミリオンは首を傾げ、レイチェルが説明する。
「アークライト家の当主であり、私の父親でもあるデューク・アークライトよ」
「私の最愛の夫♪」
「あ゛~、疲れた身体にきぐぅ〜」
『フードブック銭湯』では閉店時間後に終わり湯を堪能するディンが肩まで温泉に浸かっていた。
「全く、アンタはヴァンが戻るまで私の目の届かないトコに行くんじゃないわよ」
「は〜い」
長い髪を結い上げて、同じ温泉に浸かるリグレットは心地よさから溶ける妹に嘆息を吐いた。
「今頃、アニキはどうしてるかなぁ」
「少なくとも堕とされたでしょうね」
「ええ!? アニキが!?」
ディンは思わず立ち上がる。
「座ってなさい。別に変な事じゃないわ。現れた【ダークブルー】は『ナンバーズ01』の専用機。機体性能じゃ絶対に勝てないわ」
「姉ちゃん! すぐに【ジャンクS】を直してくれよ! 俺が助けに――」
「アンタは1週間銭湯勤務でしょうが」
凄みのあるその言葉と睨みに、ディンは萎れる様に湯槽に戻る。
「でも……アニキ……」
「あの子は大丈夫よ。身体の事もあるし世渡りは誰よりも上手い。特に人の心を読む能力にかけては超一流よ。本能で突っ込むアンタよりもリードを手放せるわ」
「お、俺だって何も考えてないワケじゃ……」
「あぁ?」
「ごめんなさい……」
萎縮してぶくぶくするディンにリグレットも少し言い過ぎたと横に移動すると頭を撫でる。
「ヴァンは大丈夫よ。一番近くに居たアンタが一番良く知ってるでしょ?」
ディンの世話は殆どヴァンがやっていたのだ。誰よりも近くで兄の背中を見てきた。
「……うん。アニキは最強だ!」
「ええ。だから、気兼ねなく銭湯勤務をやって帰ってくるのを待ちなさい」
「わかった!」
妹が明日の仕事に対してやる気が出た所で、リグレットも少しだけヴァンの事を想う。
まぁ、アイツも何かしらアプローチすると思うし堕とされても何とかなるでしょ。
“記憶喪失”にでもなってない限り。




