第9話 冬香の友達
冬香の部屋を出た拓也は一旦自分の部屋に戻り、学校の制服から部屋着に着替えてダイニングへと向かった。急須にお茶の葉を入れ、飲み物の準備をする。お茶の葉はお茶好きの春菜がいつも御堂家に持って来てくれる。お茶通の彼女だけあって複数の茶葉をブレンドした彼女オリジナルのお茶は、絶妙な渋みと旨さがあって拓也たち兄妹にはとても好評だった。
急須にお湯を注いでから三分ほど待って湯飲みに入れる。コンビニで買ったイチゴのショートケーキを冷蔵庫から出し、フォークと一緒に皿に乗せてテーブルに置いた。それから一分ほど経って、冬香がダイニングへとやって来る。
「冬香、お茶とケーキはもう準備してあるから、早速食べちまおうぜ」
「うん……」
拓也に頷くと椅子に座って、フォークを手に取りケーキを食べ始めた。そして、彼女がケーキを半分ほど食べ終えたところで、拓也は冬香に話し掛ける。
「なあ冬香、新しいクラスにはもう慣れたのか?」
「うん……」
「友達はどうだ? 仲の良い友達は出来たのか?」
「秋穂がいる……」
「ああ、秋穂ちゃんか――て、秋穂ちゃんは友達の前に幼馴染みじゃねえか」
「うん……そうだけど……」
「冬香、秋穂ちゃん以外に仲の良い友達はいないのか?」
「いない……」
拓也は、目を丸くする。秋穂以外の友達がいない事に、驚いたのだろう。
「そ、そうか。まあ、冬香がいないっていうなら仕方ないよな。秋穂ちゃんとは、ずっと同じクラスだったよな?」
「うん……」
「そうか、それならいいんだ」
「ねえ、兄さん……ケーキ食べ終わった……」
「あ、そ、そうか」
冬香の前に置かれた皿には、綺麗にケーキが無くなっていた。
「もう……部屋に戻っていい?」
「お、おう、いいぞ。食器は俺が片付けておくから」
「うん……分かった……」
冬香は、読みかけの本が気になっていたのだろう。直ぐに、自分の部屋へと戻って行った。拓也も食器を片付けたあと、自分の部屋に戻る。拓也は疲れていたのか、ベッドに横になるとそのまま眠ってしまった。