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第8話 冬香の好きな本

 午後の授業も終わり、今は放課後。部活に入っている生徒はそのまま学校に残り、入っていない生徒は帰宅する。そして、拓也はというと帰宅の部類だっだ。


「拓ちゃん、また明日ね」


 春奈は、笑顔で手を振る。


「ああ、部活がんばれよ」


「うん」


 茶道部に入部している春菜は、教室を出て部室へと向かった。


「前に一度、春菜に『何で茶道部なんかに入ったんだ?』って訊いたら、『わたし、お茶が大好きだから』って、笑顔で答えてたな。まあ、何だか春菜らしいなって思ったけどさ」


 拓也は小さな声で呟き、微笑む。


「御堂、明日の朝、春菜にエッチな事はするんじゃないわよ」


「するか! ボケ!」


 教室を出て行く優子の背中に向かって、拓也は否定の言葉を言い放った。


 優子は、バレーボール部に入部している。身長の高さと運動神経の良さでバレー部の中ではかなりの期待を集めていた。しかも、二年生の中で唯一レギュラーにも選ばれている。


「ねえ拓也、今日も来れないの?」


「ああ、わりいな。俺が帰らないと、冬香が一人寂しく家で待ってる事になっちまうからさ」


「いいよいいよ、気にしないで。それじゃあ拓也、また明日」


「おお、また明日な」


 清彦は、鞄を持って教室を出て行った。清彦も部活――というより同好会なのだが、一応活動はしていた。なぜ同好会かというと、ただ単に人数が少ないために部として生徒会に認可されていなかったのだ。そして、部として認可されなければ生徒会から部費が(もら)えない。そんな同好会に、拓也も幽霊部員として入っているのだが……。

 現在、この同好会には三人の部員が居る。一人は副部長の清彦、二人目は拓也、最後の一人は前島典子(まえじまのりこ)という二年C組の女の子だ。この同好会を作った張本人であり、部長でもある。前島とは高一の時に拓也と同じクラスで、入学当初は拓也の席の隣だったため、ちょくちょく話しをしているうちに仲良くなったというわけだ。

 前島は明るい性格で裏表がなく、いつも長い後ろ髪をリボンで結んだポニーテールが良く似合う可愛い女の子なのだが、ただ一つ問題があるとすれば……趣味が根っからのギャルゲー好きなところだ。その趣味が講じて、ゲーム研究同好会を作った。ゲーム研究という名前は付いているが、結局のところやってる事と言えばギャルゲーをやってその評価を言い合っているだけらしい。

 今は四月の下旬でもうすぐゴールデンウィークなのだが、各部がこぞって新入生の勧誘をしている。前島や清彦も例外ではなく、同好会から部に格上げするべくゲーム研究同好会に入部してもらうため必死になって新入生を勧誘しているのだが……。

 まだ、その努力は報われていないらしい。


「さーて、帰るか」


 拓也は、鞄を持って教室を後にした。


 家に帰り玄関の扉を開けると、綺麗に揃えられた一足の靴が拓也の目に入る。


「冬香のやつ、いつも帰って来るのが早いな」


 拓也は二階へ上がると、夏香と冬香の部屋の前で声をかけてから、扉を開けて部屋の中へと入った。中には、部屋着姿の冬香が勉強机の椅子に座って本を読んでいる。


「兄さん……お帰りなさい……」


「ただいま」


 拓也は冬香の傍まで近寄り、彼女が読んでいる本をそっと覗き込む。


「今日は、どんな本を読んでるんだ?」


 冬香は、本の表紙を拓也に見せた。


「なになに、『私の初恋は、お兄ちゃん』。な、なかなか面白そうな小説じゃないか」


「うん……面白い……」


 普段は感情を表に出さない彼女が、珍しく拓也に向かって微笑む。


「そ、そっか、それは良かったな」


「兄さん……何か用?」


「え? ああ、帰宅の途中でコンビニ寄ってケーキを買って来たから、あとで下に降りて来いよ。二人で一緒に食べようぜ」


「うん……分かった……」


 冬香の返事を聞き、拓也は部屋を後にした。


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