第4話 王子様のキス
拓也はもう一度、冬香の顔を覗く。彼女は静かな寝息を立てながら、気持ち良さそうに眠っていた。拓也は口元を尖らせ、冬香の口元へゆっくりと近づける……が、唇が触れる直前で止める。
拓也の心の中では、冬香にキスをする、しないという葛藤が起こっているのかもしれない。暫く、時が止まったような状態が続いていた。
「兄さん……顔が近い……」
今日は珍しく、拓也が起こす事なく彼女は自力で目を覚ました。
「あっ、ご、ごめん! い、いやっ、たった今、こ、声をかけて、ふ、冬香を起こそうと思ってさ」
拓也は、急いで冬香から離れた。
「嘘……。今、わたしにキスをしようとした……」
「ば、馬鹿だなあ、そ、そんな事、こ、この俺が可愛い妹にするわけないだろ。あははっ……」
拓也の目は泳いでいた。全く、動揺が隠せていない。
「ご、ごめんなさい……。確かに俺は、冬香にキスをしようとしました」
流石にこれ以上、彼女に対して何を言っても無駄だと観念したのだろう。拓也は土下座をして、素直に謝った。
「兄さんの……変態……」
妹から言われたくない一言を言われたのがショックだったのか、拓也は大きく肩を落とした。
「兄さん……どうしたの?」
うな垂れてる姿の拓也を見て、心配になったのだろう。冬香は、不安そうな顔をしている。
「いや、何でもないよ。朝飯、もう出来てるから、着替え終わったら下に降りて来いよ」
「うん……」
肩を落としたまま、拓也は静かに部屋を後にした。