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第10話 緊迫の夕食

「起きて……」


 窓から夕陽の暖かな光が、部屋の中を微かに照らしている。冬香は、ベッドで眠っている拓也の体を揺すった。


「兄さん……起きて……」


 拓也は熟睡しているのだろう。目覚める気配がない。


「兄さん……起きて……」


 それでも彼女は、何度も拓也の体を揺すって起こそうとする。


「兄さん……起きて……」


 冬香は、拓也の体を小さく左右に揺らし続ける。

 

「兄さん……起きて……」


「ん? どうしたんだ冬香?」


 拓也が目覚めた。冬香が根気よく拓也を起こそうとしていた行為が、やっと報われたようだ。


「もうすぐ……夏香が帰って来る……」


「え? ああ、もうそんな時間か」


「お風呂を沸かしておかないと……夏香が怒るから……」


「ああ、そうだったな。すぐに風呂を沸かしておくよ。冬香、起こしてくれてサンキューな」


「うん……」


 彼女は頷き、部屋を出て行った。


「ベッドに横になって、眠っちまったんだな」


 ゆっくりと、ベッドから起き上がる。


「さて、まずは早く風呂を沸かしておかないとな。夏香が帰って来て風呂が沸いてなかったら、あいつ激怒するからな」


 お風呂を沸かし、自分の部屋へ戻る拓也。それから暫くして、玄関の扉が開く音。


「おっ、夏香が帰って来たな」


 拓也は部屋を出て、一階に降りる。玄関には疲れた顔をした夏香が、靴を脱いでいるところだった。


「お帰り、夏香」


「ただいま、お風呂沸いてる? 部活の練習で汗だくなんだもん」


「おお、もう沸かしてあるから、いつでも入れるぞ」


「ありがとう。それじゃあ、早速お風呂に入ろうっと」


「俺は晩飯の準備をしてるからな」


「うん、分かった」


 夏香は階段を上がって、自分の部屋へと向かった。拓也はダイニングに入り夕飯の準備に取り掛かる。それから一時間後、御堂家の三人は一緒にダイニングで夕食を摂っていた。家の中で食事をする時は、なるべくみんな一緒にと三人で話し合い決めていたのだ。


「ねえ冬香、ちょっと聞いてよ。今朝の事なんだけど、朝は時間がないっていうのになかなか起きて来ない兄貴を、わざわざ起こしに行ったらさ」


「起こしに行ったら……どうしたの?」


「ゴホッ、ゴホッ」


 拓也は急に咳き込み、顔に焦りが見える。


「急にあたしを抱きしめて、キスをしようと迫って来たんだよ」


「抱きしめて……キス?」


「そう、キスだよキス。妹にキスを迫るって、兄貴って普通じゃないよね? 冬香もそう思うでしょ?」


「ゲホッ、ゲホッ」


 拓也の額に、汗が滲む。


「それは良くない……」


「そうでしょ、冬香からもエロ兄貴に何か言ってやってよ」


「ゲフンッ、ゲフンッ」


 拓也の口から妙な咳が出る。かなり動揺しているのだろう。


「ねえ、兄さん……」


「は、はいっ! な、何でしょうか!?」


 拓也は素っ頓狂な声を出し、背筋を真っ直ぐに伸ばした。そして、半分涙目になって、冬香に無言で何かを訴えかけている。


「兄さんの……ド変態……」


「は、はいっ! 確かに冬香のおっしゃる通りです! 俺は、ド変態やろうです!」


「今度、夏香に……同じ事をしたら……」


 拓也は、ゴクリと唾を飲み込む。


「私は兄さんを……許さない……」


「わ、分かりました! もう二度と夏香にキスを迫ったりしません!」


「うん……」


「え? 冬香、もう終わりなの? もう少しエロ兄貴にお灸を据えて欲しかったんだけど」


「と、とりあえずこの一件は終了して、今は飯の時間なんだから美味しく食べようぜ」


「そ、そうだけど……。まあ、別にいいけどね」


 夏香は、まだ納得が出来ないといった感じではあったが、取り敢えず食欲を満たす事に専念する事にしたようだ。その後、夏香と冬香は学校での話で盛り上がる。拓也はというと、下手に夏香や冬香に話を振って、またさっきの危険な話題がぶり返さないように黙々と夕食を平らげていた。

 食事が終わると、夏香と冬香は食器を片付けて自分たちの部屋へと戻っていった。そして、拓也も食器を洗い終わったあと、自分の部屋へ戻りベッドに寝転がる。


「ふう、何だか今日は色々と疲れたなあ。今日のところは、風呂に入ってギャルゲーやって寝るとするかな」


 清彦ほどではないにしろ、拓也もギャルゲーは好きだった。棚の中には彼のお気に入りギャルゲーが数十本、所狭しと並べてある。十八禁の作品は一つもないのだが、何故か夏香にはエロ兄貴などと言われる始末。

 拓也はお風呂に入ったあとギャルゲ-を満喫し、ベッドに横になって眠りについた。


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