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世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥


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第2章 11話 静かな侵入

 冒険者ギルドの奥。

 簡素な会議用の卓の上に、羊皮紙の地図が広げられていた。


「現在、ギルドが把握しているゴブリンの巣穴は一つ」

 受付の女性が、指で地点を示す。


「森の北側、古い坑道跡です」

「坑道、か」

 シャルルが、低く呟く。


「ええ。もともとは人の掘った小規模な坑道で」

「放棄されてから、ゴブリンが入り込んだようです」


 そこで、別の冒険者が口を挟んだ。

 顔に浅い傷のある、ベテランらしい男だった。

「一昨日にオレらが発見し、調査した巣穴だ」

「見張りなしで、巣穴の大きさから小規模と判断したが」

「少し気になることがあってな」


「気になること?」

シャルルが男に質問する。

「妙な動きをしてた」


 全員の視線が集まる。

「狩りが荒い」

「周囲の魔物を、必要以上に襲ってる」


「……巣穴を“育てよう”としてる動きじゃな」

 ジキルが、目を細めた。


 男は、重く頷く。

「だが、中規模以上にしないと、クイーンは安定しない」

「まだ、その準備段階だろうと思っていた」

「母体を攫うところまで来てるのであれば」

「準備は終わったのかもしれん」


「そんな、早すぎます!」

 ギルドの職員は声を上げる。

「通常であれば半年以上かかるはず……」

 空気が、はっきりと重くなる。


「異常事態……ってわけだな」

 シャルルが言った。

 本来なら、偵察、増援、装備の整備。

 段階を踏む案件だ。


「……じゃが」

 ジキルは、地図を指でなぞる。

「今回は、人質がおるかもしれん」

 ナナが、ぎゅっと拳を握る。

 フーリーの尻尾も、ぴんと張り詰めていた。


「急ぐ」

「最低限の準備で行く」

 ジキルの声に、迷いはなかった。


「おい、あんたら」

 ベテランの冒険者が引き留める。

「今の依頼が終わったら」

「オレらもすぐに駆け付ける」


「ああ、よろしく頼む」

ジキルはそう言った。


 森の奥。

 地形は次第に荒れ、踏み固められた獣道が現れる。


 その途中で――


「……あっ」

 ナナが、立ち止まった。

「……ここ」

 ナナが、木の幹を指差す。

 

 低めの位置に、浅い引っかき傷。

 そして、その根元に――

 不自然に落ちている青みがかった灰色の体毛。


「間違いない」

 フーリーが、即座に言った。

「ルゥのだ」


 胸が締めつけられる。

 レン自身も、無意識に歩調を速めていた


 地図どおりの場所に、それはあった。

 崖に穿たれた、黒い口。

 坑道跡の巣穴。


「……見張りがいる」

 シャルルが、即座に見つける。


 入口付近。

 二体のゴブリンが、粗末な槍を持って立っていた。


「小規模じゃない」

「中規模に移行している」

 シャルルの声が、低くなる。


「確かに進行が早いな」

 ジキルが言う。


 ナナが、思わず一歩踏み出しかける。

「ルゥが……!」


 だが、その肩を、シャルルが静かに掴んだ。

「待て」

「今、突っ込めば終わりだ」

 その意味は、全員が理解していた。


「囚われている前提で動く」

 シャルルが、淡々と続ける。


「助けに来たと悟られたら」


「母体にするのを諦める」

 ハルが、息を呑む。


「殺して」

 ジキルが補足する。

「聖核を食う」

「そういう判断を、平然とする連中じゃ」


 だからこそ。

 気づかれてはいけない。


 入口近くまで来た。

 よく見れば、地面に――

「……毛」

 ナナが、囁いた。

 灰色の、短い体毛。

 入口付近に、はっきりと残っている。


「……ここにいる」

 ナナの声が、震えた。


「シャルル」

 ジキルが言う。

 シャルルは、無言で頷いた。

  

 シャルルの気配が薄くなり――

 しばらくすると、


 一体目。

 背後から首元を押さえ、

 刃が入る前に、喉を潰す。

 二体目。

 振り向く暇もなく、

 口を塞がれ、地面に倒れ伏す。


 倒れる音すら、地面に吸われた。


「……いけるぞ」

 死体は、入口脇の影へ引きずり込まれる。

 巣穴は、まだ何も知らない。


「二手に分かれる」

 ジキルが告げた。


「ルゥの顔を知っているのは」

 ナナとフーリーを見て言う。

「お前たちだけじゃ」

「念のため、分ける」

 合理的な判断だった。


「ワシ、グレン、フーリーは」

「囚われている前提で、奥へ行く」

「ゴブリンの性質上、“重要なもの“は深部にある」


「ルゥは……賢い子です」

「捕まっても、きっと、逃げて」

「隠れてる」

「精霊もいる。だからきっとそう」

 自分に言い聞かせるように言う。


シャルルは頷き言葉を続けた。

「ハル、レン、ナナは」

「敵に見つからないよう、道中を捜索しろ」

 ナナは、強く頷いた。


「オレは“連絡役”をする」

「異変があれば、すぐ合流する」


 巣穴の中に入ろうとした時、ジキルが声をかけた。

「レンよ」


「……入る前にスキルを使え」

 ほんの少し考える。

「帰還への道標……!」

「そうじゃ」


 レンは、静かに魔力を流した。

「《帰還への道標》」

 自分の足元が光る。

 自分の歩いた跡が、軌跡となって光っていた。

(これで……迷わない)


「念のために言っておくが」

「“それ”、おまえしか見えないからな」

「帰りは頼むぞ」

 シャルルが少し笑って言った。


 ハルが、そっと隣に立つ。

「行こう」

 レンは、低く言った。


 二つの班が、

 それぞれ別の闇へと、足を踏み入れる。

 ――気づかれる前に。

 ――まだ希望があるうちに。

 静かな救出が、始まった。

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