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世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥


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第2章 9話 ゴブリンについて

 セルトゥールの外壁が、夕暮れの中に大きく迫ってくる。

 

 街道を行き交う商人の姿も増え、

 戦場の空気は、少しずつ日常へと溶けていった。

 

 それでも――

 レンの頭の中には、先ほどの光景が残っている。


 統率された動き。

 吼え声一つで変わる、群れの流れ。


「……モンスターって」

 レンは歩きながら、ぽつりと口を開いた。

「進化するって言ってましたよね」


「ホブゴブリン以外にも、いるんですか?」


 その問いに、シャルルが小さく頷いた。

「ゴブリンだけでも」

「代表的なのは、三種類いる」


 指を折りながら続ける。

「ホブゴブリン」

「レッドキャップ」

「グリーンベレー」


「……名前、急に洒落てません?」

 レンが思わず言うと、

 シャルルは肩をすくめた。


「見た目から来てるだけだ」


「レッドキャップはな」

「頭が赤く変色してる」


 グレンが補足する。

「進化の過程で、魔力が脳に集中する」

「その分、知能が非常に高い」


「罠を張る」

「指示を出す」

「人語を理解する個体もいます」


 レンは、無意識に背筋を伸ばした。

「……それ、かなり嫌ですね」

「嫌だな」

 シャルルが即答する。

「油断すると、殺される」


「グリーンベレーは逆じゃ」

 ジキルが続ける。

「頭以外の皮膚が黒ずむ」

「魔力が身体能力に回る個体じゃ」


「速い、強い、しぶとい」

「武器を持たせると」

「下手な傭兵より厄介になる」


 レンは、思わず息を飲んだ。

「……ゴブリンって」

「そんなに、幅があるんですね」


「色欲の系譜だからな」

 ジキルが、淡々と言う。


「……色欲?」

 レンは眉をひそめる。


 グレンが、静かに補足した。

「悪魔には、それぞれ“原罪”を源とする系譜があります」

「傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、暴食、強欲、そして――色欲」


「ゴブリンは、その中でも」

 シャルルが肩をすくめる。

「一番“増える”系統だ」


「“数を増やす”ために」

「役割ごとに進化する」


 ハルが、少しだけ表情を曇らせた。

「……それだけじゃないよ」

 全員の視線が、彼女に向く。


「ゴブリンには」

「“特殊進化”と呼ばれる個体がいる」


 レンは、嫌な予感を覚えながら聞いた。

「……特殊?」


「ゴブリンクイーン」

 ハルは、静かに言った。

「そして、ゴブリンキング」


 その場の空気が、わずかに重くなる。

「クイーンは」

 ハルは言葉を選びながら続ける。


「人族の女性を攫い」

「そして……」

 一瞬、唇を噛む。


 ハルが言葉に詰まった、その先を

 グレンが静かに引き取った。


「ゴブリンの子を、孕ませることができます」

 レンの足が、ほんの一瞬止まりかけた。


「その子供は」

「例外なく、すべて雌」

「クイーンになります」


「クイーンから生まれる子供は、すべて雄ですが」

「毎日、出産を続けます」

「数を、爆発的に増やす存在です」


 シャルルが、吐き捨てるように言った。

「だから、見つけたら即討伐だ」

「緊急クエストになる」


「キングは、また別じゃ」

 ジキルが、言う。


「クイーンが生まれ」

「大きくなった群れの“長”が」

「聖核を献上品として受け取ることがある」


「それを」

「取り込み続けた個体が、キングになる」


「……強いんですか?」

 レンが聞く。


「取り込んだ聖核の数にもよるが」

「かなり、強い」

 ジキルが答える。


「単体で、小規模な部隊を壊滅させる力を持つうえ」

「配下のゴブリンの指揮も行う」

「完全な、“軍隊”じゃ」

「もはや“雑魚”とは口が裂けても呼べん」


 レンは、街門を見上げた。

 今、目の前にある平穏が、

 どれほど多くの“未然”によって守られているか。


「……だから」

 レンは、静かに言った。

「今日みたいな掃討が、必要なんですね」


「そういうことじゃ」

 ジキルは、満足そうに頷く。


「英雄が魔王を倒す話は派手じゃが」

「世界を保っているのは、こういう仕事じゃ」


 セルトゥールの門が、ゆっくりと開く。

 夕暮れの中、人々の生活音が流れ込んでくる。

 レンは、一歩、街へ足を踏み入れた。



 門をくぐり、街の音に包まれたところで、

 レンはふと、腰の袋に入った魔石の重みを感じ、

 今日倒したモンスターの数を思い出す。

「そういえば」

 歩きながら、口にする。

「パーティで戦闘した場合の収受って」

「どう振り分けるんです?」


「今は、レンとハルで分けておきな」

 シャルルが軽く笑いながら言い、グレンも頷く。

「早く強くなってもらわないとな」


 冒険者ギルドへ到着する。

 リディの姿はなく、ジキルは受付にいる若い女性に依頼書を差し出す。

 

「Eランクの掃討依頼ですね……」


「ホブゴブリンの構成石は、別途買取でよろしいでしょうか?」


「うむ」

 ジキルが短く答える。


「残ったアルミラージ三体分はどうしますか?」

「また、同じ依頼を受ける」

「分かりました。では一旦お返しいたします」


 ジキルと受付の女性とのやり取りを聞きながら、

 壁に貼ってある“構成石の買取価格“と書いてある紙を確認する。

 どうやら、アルミラージやゴブリンは

 依頼の報酬として納品した方が得のようだ。


「えーと、これで依頼、完了です」


「報酬ですが」

「依頼達成分として、二銀」

「ホブゴブリンの構成石の買取で一大銀」

「……のお渡しです」


「貨幣でよろしいですか?」

「うむ」


「初依頼としては、上出来だな」

「宿の費用には、なったね」

 シャルルとハルが言う。

 報酬はとりあえずパーティの生活費として、ジキルが預かっておくことになった。


「今日はここまでじゃな」

 ジキルが言う。

「休もう」

「明日からが、本番じゃ」


 ギルドの灯りの下で、

 レンは自分の手を見下ろした。


 戦って、

 守られて、


 まだ未熟だ。

 だが、確かに前へ進んでいる。


「……次も、頑張ります」

 その言葉に、

 ジキルは静かに、満足そうに笑った。


「それでよい」

「そうやって積み上げるものじゃ」

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