表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥
第二章 歩き出す者たち
29/47

第2章 6話 冒険者登録

 冒険者ギルドの受付は、思ったよりも落ち着いた雰囲気だった。


 木製の長いカウンターの向こうで、数人の職員が淡々と手続きを進めている。

 壁一面に貼られた依頼書が、かすかな紙の擦れる音を立てて揺れていた。


「仕事の受注か?」

 受付にいた中年の女性が、顔を上げる。

 視線は鋭いが、敵意はない。


 ジキルが前に出た。

「新規登録と、確認を頼みたい者がおる」


「ああ、ジキルじゃないか」

 女性は一行を見回し、すぐに理解したように頷いた。


「既存登録者の確認と、新規登録だね」

 まず、ジキルが名を告げ首から下げたプレートを見せる。


「ジキルじゃ」


「知ってるよ」

 女性は一瞬だけ手を止め、奥の帳簿をめくった。


「……ああ、あったよ」

「ランクA、登録更新済み」


 ちらりと顔を上げる。

「まだ頑張るのかい?」

「年寄り扱いするでない」


 続いてシャルル。

「シャルルだ」

「Cランク、問題なし」


 グレンは、一拍置いてから名を告げて、手に持ったプレートを提示する。


「グレンです」

 女性の視線が、兜と体格に一瞬だけ留まる。

 だが、それ以上は触れなかった。


「Cランク、こちらも有効」


「あんたも、この町のギルドには何度も顔出してるね」

 グレンは軽く会釈した。


「じゃあ、新規二名だ」

 受付の女性が視線を向ける。


「名前は?」

 ハルが一歩前に出る。


「ハルです」

 本名だった。


 女性は何も言わず、紙に書き留める。


「了解」

「初期登録、Fランクね」

「先にこっちの坊やもするからちょっと待ってな」

 

「レンです」

 少しだけ緊張しているのが、自分でも分かった。


「レン……」

 女性は書き込みながら、淡々と続ける。


「同じくFランク」

 ここまでは、順調だった。


「じゃあ、簡易測定を」

 そう言って、受付の女性は”賢者の石板”を差し出す。


「手を置いて、魔力を流しな」

 ハルは、一瞬レンを見た後、言われるままに手を乗せた。


 一瞬。

 石板の表面に、淡い光が走る。

 文字が浮かび上がり――

 止まった。


 女性の眉が、わずかに動いた。

「ほう、優秀だね」


「次は……」

 その言葉を聞き、レンはジキルを見る。

 ジキルは頷いた。


 レンは石板を手に取り魔力を流す。

 石板の表面に、淡い光が走り、文字が浮かび上がった。


 女性は首を傾げる。

「狩人、神官、探求、契約、学者……」


 空気が、わずかに張る。

 レンの胸が、嫌な音を立てた。

 口を開きかけた、その時。


「問題ない」

 ジキルが、静かに言った。


 受付の女性が、視線を向ける。

「……あんたが言うならね」


 レンは、迷った。

 だが、ジキルの横顔は揺れていなかった。


「……俺」

 レンは、覚悟を決めて言った。


「この世界の生まれじゃありません」

「転移者です」

 受付の女性にだけ聞こえるように伝える。

 

「なるほど」

 受付の女性は、あっさりと頷く。


「なら納得だ」


「……それだけですか?」

 レンは拍子抜けしたように聞き返す。


「深く詮索する気はないよ」

「ここは冒険者ギルドだ」


「出自より、今の実力が大事さね」


 書類に一行、追記する。

「“測定値参考扱い”で登録しとく」


 ジキルが、満足そうに鼻を鳴らした。

「信用できる組織じゃろう?」


 レンは、胸の奥に溜まっていた息を、ようやく吐いた。


「登録、完了」

 受付の女性は、書類を整えながら続けた。


「それと、ランクの扱いについて説明しておくよ」

「あんたらは知ってると思うが」


「一応、ルールだからね」

 女性はジキル達の方を見て言った。


「全員Fランクから始まる」

 ハルとレンの名が、それぞれFの欄に記される。


「個人のランクは」

 女性は、指で机を軽く叩く。


「下からF、E、D、C、B、A、S」

「個人のランクが受けられる依頼だね」


「依頼のランクはSSまであって」

「上に行くほど、依頼の危険度と責任が増す」


 シャルルとグレンのカードに目をやり、

「この二人は、すでにCランク


「……そして」

 一瞬だけ、ジキルを見る。

「この人はAランクまで受けられる」


 女性は、今度は全員を見渡す。


「パーティを組む場合」

「基本のランクは“全員の平均”になる」

「端数は、切り上げ」


 指で簡単な円を描く。

「例えば」

「FとFとCとCとA」


「平均は、そうだね」

「だいたいDランクとちょっと」


「切り上げて――Cランク扱いだ」


 レンは、少し驚いた顔をする。

「意外と、上がるんですね」


「人数が多い分」

「役割分担ができるからね」


 さらに、付け加える。

「依頼の受注範囲も、人数で変わる」


「四人から七人のパーティなら」

「パーティランクより“一つ上”まで」


 女性は、レンとハルを見る。

「八人以上なら」

「二つ上まで受けられる」


 シャルルが、にやりと笑う。

「つまり」


「人数が揃ってれば、ちょっと背伸びもできるってわけだ」


「ただし」

 女性は、すぐに釘を刺す。


「無理はするな」

「依頼は、ランク相応」

「生きて帰ることを最優先に」


 レンは、胸の奥が少しだけ高鳴るのを感じた。


 数字ではなく、選択の幅として提示された“世界”。

「……分かりました」


「じゃあ」

 受付の女性は、依頼掲示板の方を指さす。


「さて――初仕事、探すかい?」


 女性の言葉を待たず、シャルルが、すでに掲示板の前に立っていた。


「まあ、とりあえず、ここからだな」


 指差す先には、一枚の依頼書。

――《街周辺の小型魔物掃討》

――受注制限:なし

――ランク:E

――証明:構成石の納入

――達成数:20体

――報酬:2銀


「とりあえず、連携の練習だな」

 グレンも頷く。


 依頼内容を確認し、登録に必要な書類に署名を終えたところで、

 一行は受付を離れようとした。


 その時だった。


「あ、あの」

 レンが、半歩だけ引き返す。

 受付の女性が、顔を上げた。


「なに?」

 一瞬、言葉を選ぶようにしてから、レンは言った。


「……名前、聞いてもいいですか」


 ほんの一拍。

 女性は、きょとんとしたあと、

 すぐに口の端をつり上げた。


「残念だけど」

「ナンパなら、もう間に合ってるよ」


「えっ」

「い、いや、そういうつもりじゃ――」

 慌てて手を振るレンを見て、

 シャルルが小さく吹き出す。


 ハルも、口元を押さえて視線を逸らした。

 女性は、書類をまとめながら、軽く肩をすくめる。


「冗談だよ」

 そして、視線を上げる。


「リディ」

「冒険者ギルド、受付担当」


「覚えておくと、また顔を合わせることになる」


「……リディさん」

 レンは、少し照れたように頷いた。


「ありがとうございました」

「色々、助かりました」


「どういたしまして」

 リディは、にやりと笑う。


「生きて帰ってきな」

「それが、一番の礼だ」


 一行が背を向け、歩き出す。

 扉の前で、レンが振り返った。


 リディは、すでに次の冒険者に向き直っている。

 ――だが。


「次に会う時は」

「もう少し、冒険者らしい顔で来なよ」

 その声に、レンは小さく笑った。


「はい」


 レンは、前を向いた。

 胸の奥が、少しだけ高鳴っていた。


「……最初の一歩、ですね」

「そうじゃ」


 ハルが、静かに微笑んだ。

「行きましょう」


 そう言って扉を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ