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世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥


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第2章 3話 初めての場所

 やがて、石造りの門が見えてくる。

 外からは町の大きさは分からないが、城壁は低くとも堅実で、門番が二人立っていた。


「止まれ」

 一人が手を上げる。


「用向きは?」

 ジキルが一歩前に出る。

「旅の途中じゃ」

「しばし滞在する」


 門番の視線が、順に一行をなぞる。

 鎧を着たジキル。

 軽装のレンとシャルル。

 ローブのハル。

 そして――最後に、グレンで一瞬、止まった。


「兜を外せ」


 グレンは黙って従う。


「……オーク、か」


 声に警戒が混じる。

 だが、拒絶ではない。

 町としては、よくある反応だった。


 グレンは何も言わず、再び兜を被る。


 ジキルが、あえて淡々と言った。

「問題があるかの」

「この者が、道中で魔物を討ち、そこの商隊を助けた」

「ワシらは、何もしとらん」


 門番は一瞬、商隊の方を見る。

 商人の男が慌てて頷いた。

「え、ええ!」

「本当です」

「命を助けられました」


 しばらく考え、門番は手を下ろす。

「……よし」

「問題ない」

「町では揉め事を起こすな」


 門が開く。

 町の中へ、一行は足を踏み入れた。


 町に入ると、夕刻前だというのに人の往来は多かった。

 行商人、冒険者、地元の住民が入り混じり、村とはまるで違う空気が流れている。


 商隊は門を抜けたところで立ち止まり、安堵したように深く息を吐いた。

 長と思しき男が、ジキルに近づく。


「本当に……ありがとうございました」

「おかげで、無事に町まで辿り着けました」


 革袋を差し出そうとする手を、ジキルはやんわりと制する。

 そのまま、視線だけで隣を示した。


「礼を言う相手が違う」


 男が戸惑う。


「助けたのは、ワシではない」


 商人の視線が、鎧姿のグレンへ向かう。

 一瞬、怯えが混じる。


「……失礼しました」

 深く頭を下げる。

「ありがとうございました、グレン殿」


 グレンは一拍置き、低く答えた。

「いえ」

「無事で何よりです」


 革袋が、改めて差し出される。

 グレンは小さく首を振った。


「お気遣いなく――」


「グレンよ」

 ジキルが静かに言う。


「命を張ったのはお主じゃ」

「なかったことにしてはならん」


 商人の男は、もう一度深く頭を下げ、袋を差し出した。

 グレンは一瞬迷い、それから受け取る。


「……感謝を」


 やがて商隊が去り、残ったのは五人だけになった。


「さて」

 ジキルが町の方へ視線を向ける。

「ワシらは宿を取る」

「グレンよ」

「今夜はどうするつもりじゃ」


グレンが、わずかに首を傾ける。

「泊まる場所は、決まっております」


「そうか」


「ただ、もしよろしければ」

「食事をご馳走させていただけませんでしょうか」


「決まりだな」

 シャルルが指を鳴らす。


「酒場の個室を抑えておく」

「このあとすぐでええか」


「ええ、ぜひ」

 グレンの声に、わずかな柔らかさが混じった。


 宿は、町でも比較的落ち着いた場所にあった。

 ジキルが手早く話をつけ、部屋を取り、さらに酒場の個室を一つ頼む。

「人目を避けたい」

 宿主は、余計なことは聞かなかった。


 しばらくして、再び一階へ降りる。

 賑わう酒場の奥、扉付きの個室に案内される。


 扉が閉まり、喧騒が遠のいた。


「……ここなら」

 シャルルが息を吐く。

「落ち着けるな」


 その時になって、グレンが動いた。

 兜を外し、鎧を外し、静かに壁際へ立てかける


 現れた猪の顔に、誰も言葉を挟まない。


「改めて」

 ジキルが腰を下ろす。

「歓迎する」

「同じ卓を囲む以上、遠慮はいらん」


 グレンは深く一礼した。

「……ありがとうございます」


 レンが自然に右手を差し出す。

「あらためて、レンです」


 一瞬の間のあと、グレンはその手を握った。


「こちらこそ」

「グレンと申します」


「ハルです」

「ご一緒できて、心強いです」


「シャルルだ」

「気楽に呼んでくれ」


 酒と料理が運ばれ、杯が並ぶ。

 個室の空気が、ようやく和らいだ。


「ここが、一つの区切りじゃな」

 ジキルが低く言う。


「この町で」

「力をつける」

「知るべきことを知る」


 レンは杯を見つめ、小さく息を吐いた。


「……正直」

「まだ、何が始まったのか」

「よく分かってないです」


 ハルが、静かに笑う。


「私も」

「でも」

「だからこそ、歩くしかない」


 グレンは黙って聞いていた。

 兜を外しても、その背筋は変わらずまっすぐだった。

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