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世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥
第一章
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第1章 13話 シルフィの決意

 夜が完全に明ける前、シャルルは静かに村へ戻ってきた。

 

 床板の下、地下の空間で、レンとシルフィは息を潜めたまま待っている。

 板越しに、足音が止まった。


「……いるな」

 シャルルの声だ。

 すぐに、村長の低い声が返る。


「話せ」

「騎士団本隊だ。副長のサイードが来た」

 短く、しかし要点を外さず、シャルルは説明した。

 ――案内を拒んだこと。

 ――巫女を使った策を、あっさり口にしたこと。

 ――村に悪魔を呼び寄せ、巫女を炙り出すつもりであること。

 ――悪魔の後始末にジキルを利用するつもりであること。


 地下で、シルフィは無意識に手を握りしめていた。


「……時間は?」

「明日の朝まで猶予をくれと言った」

「だが、あまり意味はない」

 村長が、静かに息を吐く。

「分かった。村人を集める」

 足音が遠ざかり、やがて村長の家の前に人が集まり、ざわめきが聞こえてきた。



 村長の声は、いつもより少しだけ重かった。

「前にも言った通り、騎士団が動いておる」

「隠れ通すのは、難しい」


 村人たちの顔色が変わる。

「バレたのか?」

「なんで……?」

「いや、バレたわけではない。あやつらは巫女を探すことから、炙り出すことに切り替えた」

「……奴らは、悪魔を呼び寄せるつもりじゃ」


 一瞬の沈黙のあと、ざわめきが広がった。

「そんな……」

「村を、滅ぼすつもりか」

「冗談じゃない!」

 怒りと恐怖が、入り混じる。

 だが、その中に。

「……でもよ」

 誰かが、ぽつりと漏らした。

「このままだと、全員やられる」

 その言葉に、何人かが黙り込む。


「シルフィを、差し出せってのか?」

「そうは言っていない!」

 声が荒くなる。


「静かに」

 村長のその一言で、場が静まる。

「この村は、誰かを差し出して生き延びる場所ではない」

「それが通るなら、この村の意味がない」

「でも……」

「村を滅ぼすつもりもないが、今は時間がない」

「だから、全員で知恵を出し合うのじゃ」


 地下で、シルフィは目を閉じた。

(……やっぱり)

 分かっていた。

 誰も悪くない。守りたいものが、違うだけだ。

(私がいなければ、この村は、助かる)


 その考えは、もう迷いではなかった。

 受け入れるしかない現実として、胸に落ちてきた。

 シルフィは、ゆっくりと息を整える。

 泣かない。取り乱さない。

 ただ、決めた。


(……捕まればいい)

(私が、騎士団に行けばいい)

 地下は暗い。だから、シルフィの表情が、わずかに変わったことを誰にも見られない。

 ――レンを除いて。


 彼は、ずっと隣を見ていた。

 シルフィの呼吸が、ほんの少し整いすぎたこと。

 肩の力が抜けたこと。

 それは、諦めた、いや、覚悟を決めた人間の仕草だった。


「……シルフィ」

 小さく名を呼ぶ。

「何?」

 彼女は、いつも通りの声で答えた。

 だが、目を合わせない。

 レンは、それ以上何も言わなかった。

 確信してしまったからだ。

 彼女は、まだ何も口にしていない。

 それでも、この村のために、自分を切り離す覚悟をした。


 レンは、拳を握りしめた。

(それだけは)

(それだけは絶対に、させない)


 地上では、議論が続いている。

 地下では、二人だけが、同じ未来を見ていた。

 ――ただ、向いている方向は、正反対だった。

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