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世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥


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第1章 12話 サイードの策略

 森が、騒がしくなった。

 隠す気のない足音。

「……来たな」

 シャルルが吐き捨てるように言う。

 約束の一か月後の今日、ジキルとシャルルは自宅でサイードを待ち構えていた。


 ジキルは、静かに前へ出た。

 木々の間から現れたのは、整った隊列。前より少し数が多い。

 その中央で、ひときわ余裕のある足取りの男が立ち止まる。


「おや」

 軽い声だった。

「オーネスト様、ご在宅でしたか」

 視線が、値踏みするようにジキルをなぞる。

「あらためまして、騎士団副長、サイードと申します」

「……何の用じゃ?村への案内はせんと言ったはずじゃが」

「ええ、存じております」

 くすり、と笑う。


「では用件は?」

「ええ、簡単です」

 サイードは、まるで世間話のように言った。

「神託の巫女の元へ、案内していただきたい」


「断る」

 ジキルの声は短く、鋭い。

 サイードは、肩をすくめた。

「即答とは。嫌われましたか?」

「最初からだ」

「はは、光栄です」


 サイードは一歩、距離を詰める。

「本当に良いんですね」

 その言葉にシャルルが眉をひそめる。

「……?」


「分かりました。案内は結構」

 サイードは、さらりと言った。

「すでに“見つけ方”はありますから」

 ジキルは拳を握る。


「神託の巫女」

 その言葉を、わざと噛みしめるように口にした。

「彼女は便利ですね」

「悪魔の居場所が分かる」


 シャルルが低く唸る。

「……それが騎士団のやり方か」

「ええ」

 サイードは否定せず、にこやかに言う。

「我々は使えるものは使う」


一拍置いてサイードは続けた。

「悪魔を、その村に呼び寄せる」

「巫女は悪魔が近づけば、巫女は動かざるを得ない。隠れてはいられないでしょうね」


 ジキルは、目を閉じた。

「……村が、どうなるか分かって言っておるのか」

「もちろん」

「その村に巫女がいなかったらどうするつもりじゃ?」

「悪魔に村が滅ぼされるのは、“よくある”話じゃないですか」

「外道め」

「サイード、おまえ、正気か!」

 シャルルが叫ぶ。

「悪魔なんて呼んだら……巫女も助からないぞ」


 サイードは、楽しげに微笑んだ。

「英雄、ジキル殿がいらっしゃるじゃないですか」

「巫女と我々が逃げる時間くらい稼いでくれるでしょう?巫女を護るために」


「おまえ、どこまで……腐ってやがる」

「おぬしは悪魔を甘く見ておる」


「ははは、だから何度も言っているじゃないですか。我々は“殲滅”が目的ではない」

「必要なのは、巫女だけです。悪魔を呼び寄せたいわけではありません」

「それでも、案内は拒否しますか?」


 ジキルが、再び目を閉じる。

「……巫女の場所は知らん」

「ただその策を実行させるわけにはいかん」

「ええ」


「少し、時間をくれ」

一瞬の間があく。


「分かりました。明日の朝にまた来ます」

 サイードはそう言って踵を返し、部下に合図を送ると、そのまま来た道を帰っていった。


 残された空気は、冷え切っていた。

「……最低だな」

 シャルルが吐き捨てる。

「ああ」

 ジキルは、静かに頷いた。


「いっそのこと、あの騎士団のやつらを……」

「それをしたらフェレルとバロン、国同士の戦争になるじゃろうな」

「くそっ」


「明日の朝か。往復する時間は無いの」

「シャルよ。とりあえず、おまえは村に行け」

 シャルルは黙って頷く。


 選択肢も時間も、ほとんど残っていなかった。

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