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世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥


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第1章 11話 村は静かに動き出す

 その兆しは、音ではなく、静けさとして現れた。


 夕方に再度、森に入ってから、朝に入った時と比べて獣の気配が、妙に薄い。

 鳥の声も、遠くへ退いたまま戻ってこない。


「……来てるな」

 シャルルは、足を止めて周囲を見渡した。

 木々の隙間、踏み慣らされたはずの獣道。

 どれも変わらない。だが、変わらなさすぎる。


 シャルルが敢えて残していた痕跡が消えていた。シャルルの違和感は核心へと変わる。

 まだ姿は見えない。

 騎士団であればこうはいかない。


「偵察……か」

 森を荒らさず、痕跡を残さず、だが確実に近づく、シャルルはその“慣れている”動きから偵察専用の部隊だと判断した。

 木陰に身を寄せ、息を殺す。

 少しして、遠くで小枝が折れる音がした。

 

 見えない。

 だが、いる。

 このまま進めば――

 いずれ村に辿り着く。

 シャルルは、即座に判断した。

 そのまま村へ戻るのは危険だ。

 森を回り、遠回りで知らせる。

 

 村を見下ろす小高い丘から、シャルルは息を整えた。

 上から見る村は、いつもと変わらない。まだ偵察部隊は着いてはいないようだ。

 畑には人が出ているし、煙も立っている。

 

 シャルルが村へ戻ると、空気はすでに張り詰めていた。

 ジキルがすでに村長の家に関係者を集めていた。


「偵察が入った」

 シャルルは短く報告する。

「数は少ない。多分、三か四」

 ジキルが、即座に表情を変えた。

「思ったより早いな。予定では5日後のはずだが」

「本体じゃない。おそらく専門の……」

「森を知ってる動きだ」

 村長は、静かに頷く。

「分かった。次の段階に入る」

 視線が、シルフィへ向く。


「……時間じゃ」

 その言葉に、彼女は一瞬だけ唇を噛んだ。

 それから、ゆっくりと息を吐いて私の方を向く。

「レンさん」

「うん、手筈通りに」

 胸の鼓動が早まっているのを感じる。


 村は、静かに、しかし確実に動き出していた。

 何も知らない顔をして。

 何も失わないために。



 村外れの森。

 枝を揺らすはずの風が、途中で途切れる。

 その不自然さに、見張りの男は眉をひそめた。

「……?」

 次の瞬間、

 音もなく、影が消えた。

 ――いや、消えたのではない。

 いたことに、今気づいた。

 


「……大丈夫かな」

「大丈夫だよ」

 自分に言い聞かせるように、レンは答えた。

 

 色々考えた結果、レンとシルフィは村の外には出ず、村にある秘密の地下室で過ごすことになった。

 

 秘密の地下室と言っても、食料貯蔵用として昔に作られた、古い空間だ。

 村長以外その存在を覚えている住人もいないだろうとのことだった。


 板が戻され、上から光が消える。

 土と木の匂い。少し冷たい空気。


 砦の見張りが合図を送る。鐘は鳴らさない。煙も上げない。

 ただ静かに、関係者だけに分かる合図だった。


「合図……あったよね」

「……うんでも静かだね」

「だからこそ、怖い」

 レンの言葉に、シルフィは小さく笑った。

「レンさん、そういうこと言うようになったね」

「ごめん、ちょっと背伸びした」

「ううん。頼もしい」


「あ……今」

「うん」

 レンとシルフィが、同時に少しだけ顔を上げた。

 


 砦の外

「……ここか」

 四人いる偵察隊の一人が小さく囁いた。

 すぐさま森に潜み、次は堂々と道の真ん中を通って砦の方へ向かう。


 砦の前で鐘を鳴らす。矢倉の上の男は“いつも通り”対応をした。


「この辺では見ない顔だが、どちら様で?」

「はい、我々3人は冒険者の端くれでして」

「森の中を彷徨っておりましたらたまたま道を見つけましたもので」

「少しばかり休憩させていただきたいのと、森を抜ける道を教えていただきましたらすぐに帰らせていただきます」


「うむ、ただし、所持品の検査をさせてもらう」

「もちろんです」


「武器類はこちらで預からせてもらう」

「あと基本的に砦内でのスキルは使用禁止だ」

「ええ。こちらとしては少し休ませてもらえれば御の字でございますので」

 

 そう言ったやり取りの後、見張りは砦の扉を開けて、偵察隊を招き入れた。

 家の配置、倉庫の位置。彼らは、頭の中で村を地図として把握し始めていた。


 そして、ざっと村を見回った後は、早々に村に唯一ある小さな宿屋に入っていった。


「怪しい部分は無いな」

「ああ」

「ただ、警戒心が無さすぎる。」

「ああ、そうだな」

「こういった辺鄙な村に知らん人物が入るともう少し監視が入るものだ」


 偵察隊は外に漏れないような声で話をする。

「どうする?」

「バレても構わん、夜になれば少し強引に探ってみるか」

「どのみち明日の正午までに戻ると外のやつに言っている。我々に何かあっても問題ない」


 夜になった。

 音もなく、偵察隊は宿屋の外に出る。

 寝静まった村を一軒一軒、スキルを利用して極限まで気配を消し、

 影のように闇夜に紛れながら、堂々と探っていく。


「――どなたかな」

 影が村長の家に近づいた時、静かな声が、影を止めた。


 村長だった。

 影は、すぐには動かなかった。


 数拍遅れて、

「いや、私らは……」

「いや、もういいか」

 偵察隊の男は何かを観念したのか、緩ませていた表情を引き締めた。


「どのようなご用件で」

「ご老人こそこんな夜更けになぜ見回りのようなことを?」

「いや、見知らぬ旅人が村に入ったという連絡があったのでな」

「念のため警戒をと思っての」

「ほう」

「ほんで、そなたらは何者じゃ?ただの旅人じゃないのであろう?」

「そうだな、人探しを頼まれた便利屋のようなものだ。」


「ところでご老人、最近、この村を出た娘はいないか」

 

 地下では、村長の声に反応したシルフィとレンの肩がわずかに強張る。

 そしてレンは、思わず拳を握った。

 

 村長は、間を置いて答えた。

「娘は皆、ここにおる」

「出る理由のある子は、一人もおらん」


 影は、しばらく村長を見つめていた。

「……そうか分かった」


 男は一拍間をおいて続ける。

「神託の巫女がこの村にいるという情報があってな」

「神託の巫女?教会のか?ここは、ただの村じゃて、教会の関係者はおらんの」


「確かにそう見える」

 男は、淡々と答える。

「だから確認に来た」

「何をじゃ?」

「“いない”ことを」


 村長は、ふっと笑った。

「それは良かったの」

「ここには、普通の人しかおらん」

「畑を耕し、年を取り、死んでいく人間だけじゃ」

 

 影の男は、周囲を見回した。


 そしてそのまま、すっと、後ずさった。

「今日は、引く」

「だが」

 最後に、言い残す。

「“森の中で村を見つけた”ことは、報告する」

 そして、男たちはそのまま砦矢倉の方に姿を消した。


 しばらくして、ようやくシルフィが息を吐いた。

「……行った」

「本当に?」

「うん。でも」

 レンを見る。

「もう、“知られてない村”じゃない」

 レンは、頷いた。



「偵察隊が来たようじゃな」

「しかも、腕がいい」

 様子を見に行ったシャルルが、元の家に戻りジキルに報告した。

「とりあえずは偵察隊だけでどうこうしないじゃろう」


「ただ……。時間は、もう残っていない」

「そうじゃな、さて、どうするかのう」

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