表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/40

第1章 8話 神託の巫女

「どうぞ中へ」

 男に招かれ、門をくぐる。

 中は、思っていたよりも広かった。


 門を入ってすぐの場所は、簡単な広場のようになっており、門の横には矢倉へと続く階段が設えられている。反対側には、倉庫か詰所のような大きめの建物が建っていた。


 さらに奥へ進むと、通路の両脇にいくつかの店が並んでいるのが見える。

 野菜や果物に似た作物、元の姿が想像しづらい肉の塊。反対側には、武器や農具、生活用品を扱う店が続いていた。


「お、ジキルさんじゃないか」

「今日はシャル坊も一緒かい?」

 店先に立つ人々が、次々と声をかけてくる。

 どうやら、この村の中では、ジキルとシャルルはよく知られた存在らしい。

「相変わらず賑やかじゃの」

 ジキルが軽く手を振りながら歩く。

「活気がありますね」

「まあ、そうじゃの」


 そのとき、野菜と果物を並べた店の奥から、甲高い声が聞こえた。

「ジキルさん!」

 店の奥から出てきたのは、動物の耳を頭に持つ獣人の少女だった。耳の形からすると狼だろうか。

 年の頃は、十歳前後に見える。小柄な体に、少し大きめの前掛けをしている。


「ああ、リョコか」

 シャルルが先に声をかける。

「シャルルも一緒なのね」

 リョコと呼ばれた少女は、次に私の方へと視線を向けた。

「その人は?」

 

 私はその場でしゃがみ、目線を合わせる。

「レンって言うんだ。シャルルに助けてもらって、今は一緒に行動してる」

「ふーん」

 短く返事をすると、リョコはじっと私の顔を見つめ、それからジキルの方へ視線を移した。

 ジキルは、何も言わずに穏やかに微笑んでいる。


「リョコ、村長は家かな?」ジキルは一拍だけ間を置いて声をかける。

「家だと思う。シルフィさんも今日は見てないから」

「それはちょうどいい」とジキルは言い、村長の家と思われる方向に目を向けた。


「もう行っちゃうの?」

「ちょっと急ぎでな。また来るよ」

「……分かった。待ってるね」

 ジキルとリョコのやり取りが終わるのを見計らって、シャルルは歩き出した。

 私も立ち上がりシャルルの後に続く。


 木や石で建てられた家を横目に通りをまっすぐに進む。

 集落と聞いていたので、もう少し小さい集まりだと思っていたが、案外そうでもないらしい。


「この集落ってどれくらいの人が?」

「100人くらいじゃの。まあ、辺境にしたら多いほうじゃな」

「もっと少ないと思ってたから、びっくりしました」

「ここはちょっと特殊での。あまり人が増えはせんが、減ることも少ないの」


「なるほど」と相槌を打ちながら歩いていると、他より少しだけ立派に見える建物の前に着いた。

 入り口が二つある。おそらく村長の家なのであろう。


 ジキルが片方の戸を叩いた音が、建物の中に響いた。


「はーい、ちょっと待ってくださーい」

 少し慌てた声と、ぱたぱたという足音。

 それから、勢いよく戸が開いた。


「あ、ジキルさん」

 相手はぱっと表情を明るくする。

 年は十八くらい。簡素な服装に奇麗な黒く長い髪を一つにまとめた、目鼻立ちがはっきりとしていて整った顔をしているが、女性が立っていた。

 巫女と聞いて想像していた教会のシスターような雰囲気は、正直あまりない。


「久しぶりですね。今日はどうしたんです?」

「少し顔を見にな」

「それ、絶対“ついで”じゃないやつですよね」

 くすっと笑いながら言う。

 そのまま視線をずらし――次の瞬間、声がほんの少しだけ低くなった。


「え、シャルル?」

「よう」

「なに、まだ生きてたの?」

「第一声がそれかよ」

「だって前に会ったとき、『ちょっと危ない仕事でさ』とか言ってたじゃん」

「まあ、危なかったな?」

「でしょ。ほらー」

 肩をすくめてから、安心したように息を吐く。


「でもよかった。無事で」

「心配してたのか?」

「一応ね。一応」

 そう言ってから、私の方に視線を向けた。


「あれ? ……もしかして、初めて見る人?」

「レンって言う。まあ、色々あって一緒に行動してる」

 私の代わりにシャルルが紹介してくれる。


「へえ」

 興味深そうに私を見る。

「レンさん?」

「あ、はい」

「私は――」


 一瞬だけ言葉を切り、周囲を気にするように視線を動かしてから、にっと笑った。


「シルフィ、って名乗ってます。よろしく」

 その言い方があまりに軽くて、ついこちらも力が抜ける。

「名乗ってって……うん、よろしく」


「ま、立ち話もなんだし。中どうぞ」

 そう言って、当たり前のように戸を開け放った。

 室内は質素だが、生活感がある。

 棚には本が並び、机の上には使いかけの紙とペン。神聖さは欠片もなく、ただの私室に近い。


「適当に座ってください。今お茶入れますね」

「気を遣わんでいい」

ジキルがそう言ったが、シルフィは首を振った。


「いいんです。どうせ暇してたので」

そう言いながら手際よく準備を始める。


「……で」

 湯を注ぎながら、ちらっと私を見る。


「レンさん、ここ来るまで大変じゃなかったです?」

「まあ、少し」

「ですよね。この辺、道も分かりづらいし」

 何気ない会話をする。

 本当に、どこにでもいそうな女の子だ。


「あ、そうだ」

 急に思い出したように言う。

「シャルル、何かあった?」

「ああー」

 急に話を振られてシャルルは言葉を探している。


「やっぱり」

 シルフィは特に深刻そうでもなく、軽く頷く。


「なんかね、ちょっと騒がしかった気がして。気のせいかもだけど」

 そう言って笑い、湯呑みを差し出した。

 その視線が、一瞬だけ私に留まる。


 ジキルが、そこで静かに口を開いた。

「この子が、神託の巫女じゃ」


「ちょっと、急に言わないでくださいよ」

「レンさんをどうやってびっくりさせようか考えていたのに」

 シルフィはそう笑顔で返す。


「一応そういうスキルを持っている、ってだけですよ」

 肩をすくめるその姿は、“特別な存在”には見えなかった。

 ただ可愛らしい女の子という印象だ。


「村長は?」というジキルの声にシルフィは反応する。

「ああ、あっちの家」ともう一つの扉があった方向を指さした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ