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崖っぷちの花は錆びれた聖剣のそばで咲く  作者: 夕山晴


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その手を振り払えない2

 

 見つめられた金の瞳にどくりと心臓が動いたのがわかった。

 どくどくと巡る血が、視界を綺麗にさせる。私にはできない考え方だ。


「で、ティアはこうしてついてきてくれたし、おれは今すごく嬉しいわけ。まあ、もしかしたら何かあるんじゃないかって勘づいてたからかもしれないけど。おれは理由、言わなかったんだから、だからいいんだ」

「……私のこと、ちょっと試したってことね」

「そういうわけじゃあないんだけどさ。でもそう思われても仕方ないかも。あ、ねえねえ、デザートは? 食べない?」

「〜〜食べるわ。アランの奢りなんでしょう?」

「もちろん」


 そう言って胸を叩くアランは輝いて見えた。


 私は、何かをするとき、理由をつけたくなる。

 成り行きでアランの護衛を引き受けてしまった時でさえ。

 彼はきっと冒険者ランクを上げたくて、でもランクアップできずに苦労していて、だから手助けできれば——なんてそんな理由をつけた。

 けれどそんな妄想に意味はなくて。アランは私とは違い、ランクには一切こだわりがなかった。

 本当に私とは違う人間だ。


 いつの間にか帰った客も多かった。店に人が少なくなったからか、注文したパフェはすぐに持ってきてくれた。

 一番上に乗ったアイスクリームは特大で、見るだけで顔がにやけそうになる。が、だらしない顔は見せられないので、もちろん涼しい顔をキープである。


「っふは! 美味しそうだよね」


 アランがそう笑うので、アイスクリームに喜んでいることはお見通しなのかもしれないが。

 むすっと顔を顰めつつ、スプーンでアイスクリームをすくった。


「早く食べないと溶けるわよ」

「ティアの言うとおりだ」


 笑いながらも頷いてくれるから、これ以上言うこともできずに、スプーンを咥えた。

 口の中で甘いアイスクリームが溶けて、バニラの香りが鼻を抜けていった。想像した以上に美味しかった。

 アランは変わらずにこにこと笑みを浮かべている。私と同じく甘くて美味しいアイスクリームを堪能しているのかもしれない。それとも考えたくもないが、もしかしたら私の顔が緩んでしまっているのかもしれない。





 パフェを半分ほど食べ終えた時だった。

 すでに食べ終えているアランが「あ」と声を出した。


「え?」


 視線の先を追うと、そこには馴染み深い黒髪の男がいる。フレッドだ。他にパーティ仲間も一緒だった。

 彼は私の食べかけのパフェグラスと隣の空のグラスをちらりと見て、舌打ちを鳴らした。


「ティア、まだそいつとつるんでるのか? いい加減、騙されていることに気づいたらどうなんだ」

「何なの。別に私は騙されてないし、あなたに言われることじゃないって言ってるでしょ」


 そういえば、フレッドとは久しぶりに顔を合わせた。アランと契約を交わしてから、数回すれ違った程度かもしれない。

 それなりに時間は経ったけれど、まだアランのことは気に食わないようだった。交流もないし当然のことかもしれないが。


「だってお前、他の男とはこんなところで飯も食わないのに、そいつとはパフェかよ!?」

「はあ、何が駄目なのよ。奢ってくれるって言うし」

「奢ると言えばお前はほいほいついていくってのか!?」

「何なのよ。そんなわけないでしょ。アランは、えーとそう、相棒だからね」

「っ」


 売り言葉に買い言葉よろしく言い合って、すぐ後悔した。これは、禁句だった。


「お前の相棒は……ブルーノ……だろ」


 フレッドの傷ついた顔は見たくなかった。

 過去に取り残されているのは自分だけではないのだと思い知らされる。

 ぐっと喉を引き締めるように、絞り出した。これ以上傷つけたくない。そんな思いでそっと話を逸らす。


「……そうよ。そういえば、ブルーノのお店に顔出してる? ブルーノが寂しがってたわよ」

「いや、俺はあの店には行かない。ブルーノが剣じゃなくてコーヒーカップを持つ姿なんか見たくねえし」


 重くなった空気に、周りのメンバーも所在なさげに眉を下げている。全員がフレッドの過去と私の過去を知っているのだ。


 唯一何も知らないアランが、あっけらかんと言い放つ。


「え、なになに、嫉妬?」


 この空気を壊すには十分な威力だった。

 発信源のアランを睨みつけてフレッドは声を荒げた。


「はあ!?」

「ティアが気に食わない男とご飯食べてるの、面白くないのかもしれないけどさあ。そんなことしたって何になるのさ。よく知らない男と二人でいるの、心配でたまらないってそう言えばいいのに」

「っ、うっせーよ!」

「それにブルーノ? 誰かは知らないけどさ、劣等感丸出しで言われたって、ティアも楽しいわけないでしょ。ブルーノより俺を見てってちゃんと言えばいいのにさあ、言葉足りなすぎでしょ、全く」


 やれやれ、と肩をすくめたアランだったが、私と目が合うと片目を瞑った。重苦しくなりそうな雰囲気を察してくれたのだろう。

 今にも掴みかからんとするフレッドを仲間達が必死に取り押さえていた。黒ランクでも重宝される小さい街だ。こんな風になじられることも——しかも自分より低ランクの人間に言われることは、これまでなかったことだろう。彼の憤りもわかる気はする。


 飄々としたアランと喚くフレッドに、それを羽交締める仲間たち。

 見慣れない組み合わせの、おかしな状況に、何だかおかしくなって笑ってしまった。

 お腹に手を当てて笑う私につられるようにアランも笑い、フレッドも抵抗をやめた。解かれたフレッドは気まずそうに頬を掻き、仲間たちに叩かれる背中を鬱陶しそうな様子で払っている。


 私の周りの人が——好きな人たちが心穏やかに過ごしている。笑って軽口を叩いてじゃれていて、その輪の中に私もいて。

 いつまでもこんな日が続けばいいのに、と思った。


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