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その手を振り払えない1

 

 街に戻るとさっそく山分け作業をした。

 山盛りのカゴをギルドに提出してもらった報酬を二つに分けた。指定のカゴ半分の量より大幅に多かったから、ほんの少し報酬を上乗せしてもらえていた。乾燥して使う薬草で、定期的にある依頼だから多くても困らないそうだ。


「じゃあ、今日はここで解散しましょう」


 いつものとおりそう言うと、アランは難色を示した。これもまたいつもどおりであるのだが。


「え〜〜〜〜。今日こそは一緒にご飯を、って思ってたのに」

「……どうしたのよ、今日は。いつもはそんなこと言わないでしょう」

「どうしたもこうしたもないよ。もう少し親睦を深めたいわけです、おれはね。せっかくの相棒だし」


 これまでしなかった反論をし、いつも以上にごね始めた。


「ねえ、いいでしょ? 一ヶ月以上一緒に依頼こなしてる仲だし、一度くらい付き合ってくれたって」

「ええ? 何、急に……?」

「急にじゃないよ、急にじゃない。前からずっと言ってたじゃない。そろそろ、いつも言ってるなこいつ、くらいには思ってたでしょ」


 呆れた。そう思いながらも誘い続けてたっていうことなの。

 細めた目でアランを見る。彼は全く悪びれなかった。


「自覚してたわけ?」

「そりゃあ。まあ。ティアはちょっとわかりやすいから」


 初めて言われた言葉に驚いた。むしろわかりにくいとすら言われるのに。

 一瞬戸惑った隙に手を引かれた。


「別に変わったところに行こうってわけじゃない。ほら、初めて会った食堂に一緒に行こうよ。あの時は酒だけだったから。ご飯も楽しみにしてたんだよね、実は」

「一人で行ったらいいじゃない」

「違うの。ティアと一緒に行きたいの」


 後退る私を無視して、ずんずんと力強く進む。掴まれた手が妙に暖かくて心地よくて上手く振り解けなかった。

 掠れた声で聞いた。


「どうして?」

「どうしてって、さっきも言ったでしょ。せっかくの相棒だし、親睦を深めたいんだよ。そのほうが楽しいでしょ」


 童顔の顔が子犬のような瞳で訴えかけていた。

 こんな目には弱いのよ。そう戸惑いながらも、認めたくなかった。そんな姿は見られたくなかったから、ふいっと顔を逸らす。


「相棒っていうか、雇用関係でしょ」

「わあ、相変わらずの毒! 冷た!」


 そう言いながらも引くのをやめないアランの手を、結局振り解くことはできなかった。




 食堂はまあまあの賑わいだった。

 お昼のピークは過ぎたようで、遅れた昼食を取っている人や食後にゆっくり雑談をしている人が座っているようだ。

 空いている席に腰を下ろして、立てかけてあったメニュー表を手に取った。アランが覗き込んできたので、渡してあげる。どうせ頼むメニューはいつも一緒だ。


「ね、ティアはどれが好きなの?」

「……そうね、私は、これかこれかしら。昼時にはね」


 そう言って、「日替わりランチセット」と「お手軽ランチセット(パンとサラダとスープのセット)」を指差した。


「え。これ?」

「何よ、悪い?」

「いやあ、悪くはないけど。予想外だっただけで……いやティアらしいといえばそうなのかもしれないけどさあ」


 食堂にはセットメニューだけではなくて、単品メニューも多くある。人気の肉料理やサイドメニューもあって、何が出てくるかわからないセットメニューよりは、好みのメニューを選んで食べる人の方が多かった。アランもきっとそのつもりだったのだろうが。

 アランは、んー、と悩む素振りを見せつつ、日替わりランチセットを注文している。「それをもう一つ」と付け足すと、給仕は「はいよ!」と元気な声で戻っていった。


 出してくれた冷水で喉を潤すと、アランとは、今日の依頼の話、明日の依頼の話——そんな変わり映えのしない話をした。そんな話でも、アランは楽しく過ごしているように見える。

 作り置きがあったのだろう、すぐに運ばれてきたランチセットもすぐに平らげてしまった。そのあとはぼんやりと私の食べる姿を眺めだしたから、どうにも食べにくかった。


 しばらくそのまま頬張っていたけれど、とうとう持っていたフォークを置いた。皿にはまだ残っている。

 じっと見つめても彼はへらりと笑うだけだった。仕方がないので口火を切ってあげる。どうやら自分から言うつもりはないらしい。


「——それで、今日はどうしたのよ、一体。本当は、何かあったんでしょう」


 挙動がおかしかった。いつもとは比べられないほど強引だった。振り切れなかった私も悪いとは言えど、だ。


「私をここまで連れてきたんだから、理由くらい言いなさいよ」


 アランは驚かなかった。そう言われることもお見通しだったというように、曖昧に笑いながら大仰に手を振っていた。


「ありがと、でもなんでもないんだ。ちょっと嫌なことを思い出しちゃっただけ。だから付き合ってもらって、紛らわせたらなって思った。ティアも鋭いねえ、さすが」

「それを先に言えばよかったじゃないの」


 ちゃんと理解できれば、私だって無下に断ったりはしなかった。はずだ。

 雇用関係とは言え、相棒である自覚はある。その相棒が困っていたなら、手は差し伸べたい。どんなに慣れないことだとしてもだ。


「言っちゃったら、ティアは来てくれるでしょ?」

「だからそう言ってる」

「うん、だから違くて。理由がなくても一緒に来てくれたらなって思ったんだよ」


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