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崖っぷちの花は錆びれた聖剣のそばで咲く  作者: 夕山晴


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お揃いのブレスレット

 

 街道の両脇に立ち並ぶ露店を眺めながら、アランが指を差す。


「あ! ほらほら、これなんて、ティアに似合うんじゃない」


 その露店は革製品を扱っているようで、魔法で染色したカラフルな色味の皮が目を引いた。

 細めの皮を編んで作られたブレスレットをアランは指でつつく。茶色と山吹色の二色で編まれたそれは肌馴染みも良さそうだったが。


「おい、それ……!」


 勢いよく肩を掴んでくるフレッドを無視して、私に見せつけるように持ち上げた。三重に巻ける長さのブレスレット。その端につけられた飾りの石がぶらりと揺れる。


「ほら見て、留め具の石は青色だし。ティアの魔法石とおんなじ色。どう? 可愛くない?」

「……そうねえ、確かに可愛い、かしら」


 魔法使いの装具はアクセサリーが多く、能力を高める補助具以外のアクセサリーはほとんど持っていない。指輪やネックレスとは違い、戦闘時にも気にならなさそうだ。何より、飾りの石が気に入った。杖の魔法石と同じ深い青色。ブルーノにもらったその魔法石は、ブルーノと——そしてフレッドの瞳と同じ色、だ。


「——駄目だ。ティアはこっちの方が似合う」


 フレッドが不機嫌を隠そうともせず、遮るように伸ばしてきた手のひらの上には、これまたブレスレットが乗せられていた。アランと色違いのそれは、黒色と青色の二色で作られている。


「ぶはっ!」


 口元を押さえるアランが堪えきれずに指の間から笑い声を漏らした。それで私もわかってしまう。にやにやしたアランは憎らしくて、真面目に張り合ってくれるフレッドが愛おしくて……嬉しいと思ってしまう自分には心底呆れたけれど。


 その色味はどう見ても、フレッドの色だ。


「それ、フレッドの髪と眼の色じゃん。おかし……っ」

「な……! お前が自分の色を贈ろうとするから! お前の色よりいいだろうが」


 ああそうか。アランが勧めてくれたブレスレットがアランの髪と瞳の色だったことにようやく気づく。あからさまに目を丸くしてしまったが、アランが笑ってくれて、救われた。


「ティアったら、そんな想像もしてなかったみたいな顔をして。さすがのおれだって傷ついちゃうー。喜んでくれる子、多いけどなあ?」

「ごめんって。ただ綺麗だとしか思ってなかったのよ」

「ティア、絶対にやめとけよ? こんなやつのブレスレット身につけてたっていい事ないって」

「うーん、まるでフレッドの色だとご利益あるような言い方して……嘘つき」


 そんな不毛な言い争いを聞いていた店主が気を利かせてくれた。両腕にジャラリとつけたブレスレットが手を振るたびに揺れている。


「おいおい、俺の店で喧嘩なんてやめてくれよ。みんな笑顔で帰ってくんなきゃ、店の評判が下がるだろ?」

「……すみません」

「いや、いいさ。ところで提案なんだがな。色なら、好きな色にしてやれるぞ。三人仲良くってことで三色にするのはどうだ? 革紐を三つにして作ってやろう。髪の色だったか? 黒と黄と茶で。石も好きな色を嵌めるといい。で、三人お揃いにすればいいじゃないか。な? いい考えだとは思わないか?」


 もちろんオーダーメイドになるわけだから、多少値段は上がるがな。

 そう付け加えた店の主人の顔は、せっかくの客を逃してなるものかとばかりにニッコニコで。笑顔の圧に押し切られるように、いや欲しいと思ったからではあるけれど、せっかくの提案を受けることにした。


 アランとフレッドは互いに忌避を示してはいたが、私の顔を見るなりすっかりと受け入れてくれた。仲間の証のようで少し浮かれた心を見抜かれてしまったのかもしれないし、私が買ってプレゼントすると言ったから自分たちの懐は痛まないと思ったのかもしれないけれど。


 石だけは自分の好きなものを選び、私は青、フレッドは金、アランは黒で作ってもらった。店主の魔法で色を変えたお揃いのブレスレットは、手首に巻くだけで、心に灯がともる気がした。






 ひとしきり遊んだ後、陽が傾き始めた頃だ。

 ちょうど目に入ったのは、ギルド本部の位置を指し示す看板だった。それを見た私は、当初の目的を思い出す。思い出してしまえば、居ても立っても居られず、宿に戻る前にギルド本部に寄ろうと提案した。


「え〜、明日で良くない?」

「駄目よ。せっかくここまで出てきたんだもの、初志貫徹。銀への昇格を目指してやってきたことを忘れないためにも、手続きくらいはやっておかないと」


 今のままでは昇格試験の受験資格があるだけだ。試験三日前までにはギルド本部での受験手続きが必要で、今日行かなくとも近々必ず手続きには行かなければならない。といってもそう難しいことはなく、身分証明の石を見せ、受験書類にサインをするだけ。


「まあすぐ終わるもんだしな。俺とティアで行ってくるわ。なんならお前は帰ってていいんだぞ」

「はー、フレッドのくせにそういうこと言う? おれはギルドに用はないからね、仕方ないから待ってるさ。おれだってティアと一緒に帰りたいし。ああ、そこの食堂で休んでるから、終わったら飯食って帰ろ。すぐに戻ってきてよ」

「はいはい。じゃあまた後で」


 そんなやりとりをして、看板の矢印通りにギルド本部へ向かえば迷うことなく辿り着く。

 いつものギルド支部とは違って大きな建物だったが、受付もあり、依頼の貼り出し板もあり、目立って変わるものはない。ただ全ての規模が大きいだけ。それから天井がとても高く、描かれた天使の絵が美しかった。

 大きなホールの中にはたくさんの人がいたが、これから依頼受注や完了報告にきた冒険者のようだった。きょろきょろとしながらも向かった依頼受注用とは別の手続き用の窓口で、すんなりと受験手続きは完了した。


「さあ、待たせてるのも悪いから、早く戻りましょう」


 受付のお姉さんがサイン済みの受験票を受け取ったのを確認して、踵を返そうとした私たちを遮るように。


「銀昇格試験受験希望の方は、別室でギルド長よりお話がありますので少々お待ちいただけますか? ああ、そこまで時間をお掛けすることはございませんのでご安心ください」


 にこりと、あくまでも業務的に。

 お姉さんのお仕事用スマイルを向けられたのだ。


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