路地裏の呼び出し
連れ込まれた路地裏で、私は辟易していた。またか。
女の嫉妬は怖いもので、自分が想っている相手に別の女が近づくと牽制するものらしい。しかも共通の敵がいると、敵同士でも手を取り合うようになるようだ。
数人の年若い女の子に囲まれながら、これがお友達ならいいのにね、と心にも無いことを独り言ちた。
「ちょっと、あなた。少し目立つからって、馴れ馴れしくしすぎなんじゃないの」
目立つフレッドのそばにいると、頻繁にこうして呼び出された。女の場合、ランクは関係ないらしい。
私の何が気に入らないのか、彼女たちの気持ちはわかるから、呼び出しは断らなかった。力で負けることはないし、少しでも捌け口になれるのならまぁ、と思っていたが。
これは想定外だった。
「黒のフレッドだけじゃ飽き足らず、最近はアランを連れ回してるんですって!?」
「は!?」
いつもの呼び出しは彼女たちの怒りを受け止めるつもりで臨んでいたが、今回ばかりは、開始早々、動揺してしまった。
アランってあのアラン?
「フレッドはランクも黒で、強くて格好良くて、みんなの憧れでしょう。でも誰の誘いにも乗らないって有名なのよ」
「……え、はあ」
「何よ、図々しいわね! 私にぞっこんだからねとでも思ってるのかしら! 忌々しいのよ!」
「そんなことは思ってませんけど」
「本当に腹立つわね! だからそろそろ憧れに留めとかないといけないかしら、ってみんな諦めかけてて」
だから最近呼び出しが少なかったのか、と納得していると、そんな態度が気に食わなかったのか女の子の一人が声を荒げた。
「あんたのせいよ! どんなにアプローチしても全然相手にされないのは!!」
「ちょっと、落ち着いて……」
「こんなの落ち着いてらんないってのよ! せっかく、せっかく、諦められそうで。そんなタイミングで別の格好いい男の人が現れたと思ったのに!」
キッと睨まれると、やはり首を傾げてしまう。
「……アラン?」
「そうよ! 何その自覚ありません、興味もありませんって感じ! 本当に嫌い!」
喚く女の子を別の女の子が押さえている。
こんな状況で、私の言葉は耳に届くだろうか。
「いや、アランとは、ただの仕事仲間というか。そういった関係でもないので」
「じゃあフレッドとはそういう関係なの!?」
「……いえ、フレッドともそういう関係ではなく、幼馴染なので……」
自分で言っていて頭が痛くなってしまった。こんな話、事実だとしても煽るだけではないだろうか。
案の定、女の子は怒りを通り越して泣いてしまった。
「うっ! そんなの信じられるわけないじゃない! 何なの! フレッドもだめ、アランもあんたに聞いてみてってそんなのひどい!」
「は?」
飾り一つもないシンプルなハンカチを渡しながら、最後の一文を拾う。
「私に聞いてみてってどういうこと?」
◆
いつもの集合場所に行くと、アランが待っていた。
少し待ち合わせ時間には遅れてしまったが、さして気にした様子もない。
「あ、ティア〜〜。きたきた。今日はどんな依頼にする?」
普段通りの姿が癇にさわった。
アランは、ギルド——その建物を囲む塀に寄りかかり腕を組んでいた。
バランスの良い身体、長い手足、優しそうな垂れ目は、色素の薄い髪も相まって、女の子たちに好かれるのだろう。こうして見ると確かに様になっているような。
「ちょっと、アランに聞きたいことがあるのだけど」
「なあに?」
きょとんとした顔があざとかった。
思わず眉を顰めてしまったが、言うべきことは言わなければ。
「あなたって女の子にモテる方なの?」
「え、急に!? しかもそんなに驚くことかな。信じられないって顔、ひどくない?」
「で?」
「いや、そう改めて聞かれると女の子からはたまに話しかけられるかな? って程度というか……ティアの方がモテるよ! 絶対!」
「お世辞はいいから。最近、女の子に告白されたり、した?」
わざとらしく目を見開くことさえ、忌々しい。
「あれえ? 知ってた? もしかして嫉妬とか?」
「まったく、そういうのはいいから。その時に私の名前出したわね?」
「えー、ティアってばつれない……。うん、ティアの名前出しちゃった」
「どうしてよ」
その結果、どうなるか彼にはわかっていたはずだ。どこから知ったのか、アランは気にならないようだから。
謝りもせず、申し訳なさそうにするでもなく。
「だって、守ってほしいって言ったでしょ。全部って」
笑顔のまま、さも当然といったようにそう言うものだから、開いた口が塞がらない。
「え、全部ってこれ? こういうやつ?」
「うんうん。全部」
「これが、全部!? ちょっとそれはおかしいでしょう」
「え、おかしくないよ。困ってるんだよ。守ってよ、怖いもん」
「もん、じゃないの。もん、じゃないのよ……! 良い歳の男が!!」
どうしてフレッドだけじゃなく、アランの分も引き受けなくちゃいけないの。
頭痛がした。
「知ってると思うけど、それ、女の子たちから呼び出されるんだからね」
「うん。お願い」
「怒られたり泣かれたりするんだからね」
「うん。頼りにしてる。ティアは強いから心配はいらないかなって思ってる」
澄ました顔で頼られているが、納得はできない。
「こういう時こそ心配したらどうなの!」
頭痛は酷くなる一方で、今日の依頼は、あまり動かなくて済む、畑の見張り番をすることにした。




