二人の相棒2
一番、心に刺さったのは、ブルーノの一言だった。
「ティアだって、俺の心配をしたいだろう?」
言われてつい目をやってしまったのは、左足の義足。
私はここへくるのは、自分への戒めと、それからもちろんブルーノの様子を見るためだ。少しでも何かできることはないかと思って、日用品を買って持ち込んでいる。少しでも困りごとが減ればいいのに、と願っていた。
なぜなら、コーヒーショップは冒険者とは全然違う仕事で、彼にできるのか、仕事に慣れるのか、心配をしていたからだ。
これまでとは違う職種、慣れない義足で、不便なのではないかと考えたからだった。
今でこそ現役だった頃のブルーノと同じランクだが、冒険者時代はよく自分のために怪我をするブルーノを心配したものだ。私とは比べられないほど、経験豊富で、力もある彼のことをだ。
彼はそんな私を鬱陶しく思っていただろうか。
「俺は、ティアに心配されて嬉しかったねえ。……相棒って感じがしてさ」
ブルーノの顔を見れば、杞憂だとすぐにわかった。相棒だったことも、伊達じゃないのだ。
「そ、そう?」
「そうだよ」
ブルーノの足がなくなったあの日、私は息ができなくなった。苦しくて悲しくて、胸が潰れそうだった。そんな日が来なければ良かったとは思うけれど、あの時の私をなかったことにしたいとは思わない。
口元が緩みそうになるのを隠すようにコーヒーカップに口をつけた。
苦くて温かい。鼻を抜ける香りが優しくて、このお店のようだと思った。
くすりと笑って余韻に浸って。
やられっぱなしは性に合わないと口を開いた。
「ねえブルーノ、聞いてくれる? アランは大事なところを話していないの。私が怪我をしたり、この前の召集みたいにアランを置いて行ったり、そういうことが心配になりすぎて負担になるようなら、って言ったのよ」
「ええ? それは聞いていないな?」
ぐるりと首を回してアランを見れば、彼特有のへらりとした笑顔——憎めない顔で笑っていた。
「わあ。待って待って。ブルーノさんはおれの味方だったはずじゃあ」
「いいや、ティアの話が一番に決まってるだろう」
そう掛け合う二人は私がよく知っている、穏やかな二人で、安心したのだ。
クッキーをつまみながらアランは話し続けた。ブルーノは私の横でずっと微笑んでいた。アランの話はすべて、私の話だったからだ。
私がお店にくる準備時間には、いつも客はいない。邪魔にならないようにしているからだが、だからブルーノが私以外の誰かと話している姿をあまり見たことがない。
けれど不思議と違和感はなかった。
「まさかティアが相棒を連れてくるとはねえ」
「ブルーノが連れてこいって言ったんでしょ!?」
「そうなんだけどなぁ。相棒ができるとは思わなかったからな。見ておきたくなったんだ、どんなやつなのかって」
目元を緩ませているブルーノを見ると、私もまた随分と心配をかけているのだろう。今もまだ。
「どうです? ブルーノさんから見て、おれは」
「んー。まあ、思っていたよりおかしなやつではなかった、かな」
元相棒からの及第点はもらえたようだから、少し心配は減っただろうか。減っていたらいいと思う。
「よかった。ブルーノさんからそう言われれば安心ですね。ね、ティア」
「……ブルーノのことは信用しているし、信じているけど……本当にそうかしら?」
「え!? 待って、何の話?」
「わかってるでしょ、あなたの話よ。だって守ってほしいっていう男なのよ?」
「そんな! そんな男がいいって言ってたじゃないか……!」
「言ってないでしょ!」
醜く言い合う私たちを、ブルーノは止めることはせず、微笑を浮かべて聞いているだけだった。この時間がとても幸せであると、噛み締めているようにも見えて。
慌てていくつもクッキーを口に運んだ。
くすくすと笑うブルーノは、言い合いが終わる頃を見計らって口を開いた。
「……次に相棒になるとしたら、フレッドなのかと思っていたんだ、勝手にな」
「え……どうして?」
「いやあ、元相棒の勘というか、兄の贔屓目というか」
首を捻った私にブルーノが片目を瞑る。どきっとした。
「——駄目だよ。あげないよティア」
アランが食い気味でそう言うのでブルーノと二人、苦笑した。
どこまで本気なのかさっぱりとわからない顔だ。それが本当に私には居心地がよくて。
「うん、まあ、アランもちゃんとティアのことを大事にしてくれそう。助けてくれそうな気がするよ」
ブルーノが微笑ましげにそう言った。




