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崖っぷちの花は錆びれた聖剣のそばで咲く  作者: 夕山晴


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ギルドからの召集

 

 そんな和やかな時間はすぐに終わりを告げた。

 勢いよく、食堂のドアが開かれたのだ。


「フレッド! 召集だ!!」


 そう言って飛び込んできたのは、フレッドの仲間内の一人、ビリーだった。筋骨隆々で体も大きく、盾役という言葉は好きではないが防御にめっぽう強くて、私も時々仕事で協力を依頼した。


「どうした?」

「わからん! ただ召集は赤ランク以上だ! 何かあったことは確かだ、行くぞ! っとティアもいたか。あんたもこい!」


 フレッドたちを連れ出す傍ら、私にも声を掛けてくれる。面倒見の良い男なのだ。


「ええ、わかったわ! じゃあ、アラン、また今度」

「……おれも、いく」

「駄目よ。あなたは緑でしょう、連れては行けないわ。じゃあね」


 手を伸ばすアランには、一方的に話を切った。

 冒険者である以上、ギルドからの召集には赴く義務がある。手が空いているなら行かなくては。物言いたげなアランを残して、ビリーの背を追った。




 ギルドへ行くと、私たちを含め、五十人ほどの人が集まっていた。その内の六人が黒ランク、十数名が白ランクで残りは赤だ。どうやら現在銀ランク以上の冒険者はこの街にはいないらしい。

 ギルド支部長が前で声を張り上げた。


「よくぞ召集に応じてくれた! 実は魔物の集団が森で暴れていると情報があった! 数が多く、これ以上やつらの好きにはさせられないからな、君たちには早急に集まってもらった」

「魔物が集団行動を……?」

「そうだ。ボアの集団が目撃されている。一体一体は君たちにとっては大したことはないだろう! が、数が多すぎる」

「ボアは元々、集団で行動したはずでは」

「ああ、よく五体前後で行動するが、今回は違う! 正確な数はわからないが、五十はいるようだ!」


 五十。思った以上の数にどよめきが走る。

 猪型の魔物ボアは、その巨体からなる突進を武器に真っ直ぐ突き進んでくる。身体を覆う瘴気が防護の役割を果たし、障害物はものともしないから、すでに森の木も倒されているだろうことは簡単に想像できた。

 手が震える。この召集に応じたのは——私の失態だ。


「正直、理由はわからん! だが、森が壊されるのを見過ごすわけにもいかん! しかも、いつ森から出て街に降りてくるかもわからんのだ。早急に対処したい! ぜひ力を貸してくれ!」


 各々武器を持ち、出発した。

 森に入るとすぐに異変を感じる。ボアは隠れる気もないようで、森中、大きな音が響き渡っていた。


 手の震えを感じながら、叱咤するように奥歯を噛み締めた。ぎゅっと杖を強く握りしめた私に声が降る。


「ティア! お前は俺と一緒に!」

「嫌よ」


 反射で答えて、声の主を見ると、やはりフレッドだった。


「っ、何でだよ。お前、この状況、耐えられるか?」

「問題ないわ」

「嘘つくなよ! 震えてるだろうが!」


 口の中で血の味がした。

 思い出すのは、ブルーノが怪我をしたあの時のこと。あの時も、こんな魔物の集団だった。大したことのない、倒し慣れている、その程度の魔物だと、きっと油断もあったのだ。


「震えてなんかない! それに私も強くなってる。人数もこんなに多い。あの時とは違う!」


 実際、あの時とは違った。

 あの時は、私とブルーノの二人だけで。私も状況が判断できないほどの子供だった。

 冷静に考えれば、あの時と同じ状況になるとは考えられない。だから本当に問題ないはずだった。けれど。


「だけど!」


 すぐ近くでフレッドの声がする。ブルーノによく似た青い目が見える。

 それが私の心臓を縮こまらせた。


「私は強い! フレッドが気にしなくたっていいのよ!」

「おい、いい加減に! 俺だってもう、黒だ。こんな時くらい俺を頼れって!」

「私は守られたくないんだって何度言えばわかるの」

「そんな話はしていないだろ! 一緒に、戦おうと言ってる!」

「——っお願いだから、私にかまわないで!」


 耳を塞いで逃げ出してしまおうかと思った時だった。


「んじゃあ、わしとティアでこっち。フレッドは向こうの指示を頼むわ。なんだかんだ黒は散らばっていた方がいいだろ」


 口を挟んでくれたビリーは、白ランク。フレッドのパーティに所属している。フレッドの扱いは手慣れていた。

 渋々ながらもフレッドは向こうの様子を見に行って、彼がいなくなったことにようやくほっと息を吐いた。


 フレッドを追い払ってくれたことに感謝していると、ビリーが私の肩を叩いた。


「あんたもさあ、もっと上手くやんな? あんたがあいつに対して先輩ぶるんならな。フレッドの考えそうなことくらいわかるだろ」

「そう、そうよね。わかってる。ちょっと今日は余裕がなかったみたい」


 今日は、ちょうど森で昔を思い出していたところだったから。

 つい引き摺られてしまったのは鍛錬不足。もっと精進しなければ。


「まあ、あんたの気持ちもわからんでもない。ブルーノの弟、だもんなあ。不安になるか?」


 音のする方へ足早に進みながら、雑談のようにビリーは言う。今はその気遣いがありがたかった。


「そう。不安よ。また同じことになったらどうしようって。もしフレッドも取り返しのつかない怪我をしてしまったらと思うと」

「でもな、あいつだって成長してる。あんたと同じで」


 森中に感じる殺気を逃すように、ゆったりと話す、その時間が好きだった。


「うちのパーティーに入ればいいじゃないか。それでそうならないように見守ればいい。強いんだろ? あんたが入ってくれれば、わしだって楽になるし。フレッドだってもう少し落ち着くってもんだろ」


 場違いなセリフには笑ってしまった。ビリビリとした殺気による緊張感は、上手く調整できたと思う。手の震えはすっかりと収まっていた。


「勧誘? こんなところで私を誘うなんて、笑っちゃうわ」

「いんや、あんたにはこんなところの方が、刺さるかと思ってさあ。で、どうだい?」

「お断りよ」


 お互いににやりと笑って、私は杖を構えた。

 目の前にはボアの大群、その一角が見えていた。


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