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負の連鎖

 部屋を出て、左奥に行くと他の部屋とは違う、なんとも異様な扉が見えてきた。


 何故異様なのかというと、スライムの形に彫られた扉があるからだ。


 他の部屋はどこにでもある扉だ。なのにこの部屋の扉だけが違う。


 それはこの部屋がクリムの寝室を表している。


 さて、今クリムが居るとなると寝室ではなく、執務室だろう。


 私が思う魔王のイメージはただ人と対立し、偉そうに指示するだけかと思ってた。けど違ってた。


 魔王なりに魔族にとって住みやすい環境にしようと努力していたんだ。


 冒険者の間で攻略難易度が高い毒沼や炎の山脈などもその一つ。


 魔族にとっては住みやすい一つの街だけど、人々にとっては危険で排除しなくてはいけない場所でもある。


 人はダンジョンと呼び、魔族は小さな街と呼ぶ。


 その(ダンジョン)を土足で荒らしているのは人だ。だから、魔の者は怒り人を殺す。


 モンスターは意思を持たないけど、本能のままに行動をする。喜怒哀楽はあるけど意思がない。


 子を殺されれば怒るし、哀しむ。勝手に街を荒らされれば復讐の鬼ともなるだろう。


 自分たちの街を荒らされたから人の街や人も襲う。何年、何十年、何百年とそんなことを続けていれば憎悪しか残らない

 。

 まるで負の連鎖ね。


 魔族はそれを理解しているから自分からは攻撃してはこない。


 だけど、やられればやり返す考え方が多いのは事実。


 それをなるべく穏便に済ませようと模索していたらいつの間にかこんな太陽の光が当たらないような湿った場所に追い詰められている。


 魔族の説得とモンスターたちをどうするか、また人の対処とかも含め執務室に籠っているのだろう。


 ーーどうしてこんなにも優しくて温かな方達が追い詰められなくてはいけないんだろう。


 理不尽過ぎると私は思う。人とは少し違うからって外見に惑わされ、本質を見ようとしないだなんて……人間は残酷だ。


 私も人として生まれてきたことが嫌になる。


 例外として、対立をしてるとはいえ、人間と共存する道を選んだ魔族もいるんだけどね。


 勿論、お互いに納得がいく形をとっての血の契約を結んでるけどね。


「どうした?」


 執務室に向かおうとしたら背後から声をかけられた。


 振り向くとクリムが眉間に皺を寄せて立っていた。


「丁度、探していました。実は……」


 早速本題に入ろうとしたらクリムが声を重ねてきた。


「むっ? 遂に髪を一束くれる覚悟が出来たのだな!?」

「違いま……あっ、いえ」


 否定をしようとした私は考えを巡らせる。以前にクリムは私の髪を一束欲しいと言ってきた時、私はそれを断った。


 何に使うのだと問いただしたら家宝にするのだと。


 私が好みな顔立ちじゃなかったらかなりドン引きしたわ。


 いくら私の髪の毛に興味があるとはいえ、それは行き過ぎてる思考だと思うのよね。


 スライムに似てるって言われても色だけだし。


 そもそもスライムっていうのは、『ホウ酸ナトリウム』と『ポリビニルアルコール』が水素結合という弱い力で結びついたものよ。


 この『弱い結合』のおかげで、スライムは自由に形を変えることが可能なの。


 それは日本の知識だけど、この世界のスライムはモンスターとして生きている。


 通常の水色のスライムには触ればヒンヤリと冷たく、伸びやすい。


 それのどこが私の髪の毛に似ているのか全く理解出来ない。


 変わり者すぎて困惑する。


 けど、クリムは諦めてはいないなら……髪の一束や二束なんて安いものだと思う。


 女は髪が命だというけれど、私は復讐を遂げられるまでオシャレを封印している。


 復讐のためならどんな事でもする。


 心に決めてある。


「良いですよ。私のお願い聞いてくれるなら一束でも二束でもあげます」


 私はクリムの目を見て、言い放つ。


 一本と言わず一束と言うあたり、余程私の髪が好きなんだなと改めて実感してしまう。


 だけど、クリムは眉間のシワをさらに寄せて不機嫌になる。


「そうか、いや……すまない。欲が暴走してしまった」


 口を抑えて謝罪され、私は首を傾げた。


 自分で言っといて何を言い出すんだろうと少しモヤッとする。


 推し活してる人達の中でたまに見掛けるなと日本で生きていた頃の記憶を思い出す。


「お前の髪は絵に収めることにしよう。だから、その美しい髪を切るな」


 クリムは私に近付き、髪を攫うとそっと唇を落とした。


 その仕草がとても綺麗でドキマギしてしまう。


 相手のペースにのまれないように距離を置き、話を戻す。


 ーー私の髪を綺麗だなんて……、やっぱりクリムは物好きだわ。


 欲に忠実だけど、どこか優しい。


 クリムは私の髪の毛から唇を放す間際、小声でブツブツと呟いていた。


「しまった。貰った方が良かったのか。いやしかし、女は髪は命だと聞いたことがあるぞ。綺麗すぎる髪の束が貰えるなら観賞用・保管用にも欲しい。ああ……どうすればいいのだ。最近、スライム不足だからわたしの気持ちは落ち着かないのか? スライムに触れる時間を作らねばなるまい」


 うん……優しい、のかな?


 私の髪の毛をスライム替わりに使わないでくださいと声を大にして言いたかった。


 けど、それを我慢した私は自分を褒めよう。












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