人の心は環境によって悪にも正義にもなる
「オリビアさん?」
ハッと我に返ると心配そうに顔を覗き込むアルベイルの姿があった。
痛そうに頭を抑えながらも私を心配してくれる。……優しい。
こんな優しい心を持っている魔族を恐れてるのは勿体ないと思う。
魔族が害悪だと小さい頃から言われていた。
ーーでも、私にとって害悪なのは人の黒い部分。人の心は環境で悪にも正義になる。けど、その正義もまた……考え方によっては悪にもなる。
けれど魔族は……どんなに人に酷い仕打ちをされようとこうして手を差し伸べてくれる。真っ白すぎる存在だと思う。
私は元冒険者で沢山の魔族の配下を殺してきたというのに。
それはお互い様だと許してくれた。
魔族は人よりも強い心の持ち主が多くて、人はその優しさに甘えてるだけなのだろうなとつくづく思い知らされる。
まぁ……例外はいるけど。
「アルシオン、大丈夫よ。ありがとう」
私が安心させるように微笑むとアルベイルは胸を撫で下ろした。
「オリビアさん。ご家族に会われますか?」
一息ついてからアルベイルはそんな提案をしてきた。
私が死刑になるということは、家族全員も死刑対象になる。実際に小説だと家族も殺されていたからね。
「まだ会えないわ」
首を横に振ると、意外そうにアルベイルは目を丸くしたが、すぐに元の表情へと戻る。
「そうですか。いつでも言ってくださいね。近くの洋館で保護してますので」
その言葉を聞いてクスッと笑ってしまった。
俯いて、黒い感情を必死に抑える。
出来ることなら気付きたくなかったな。と、悲しい気持ちも抑えた。
「うん、ありがとう。それはそうと明日の早朝から行きたいところがあるのだけど、付き合ってくれない?」
わざとらしかったかな?
強引に話を逸らしてしまった。
アルベイルがそんな私の不審な態度に気付いていないのが救いね。
私の行きたい場所を察したのか、アルベイルが口を開く。
「ドワーフに会いに行くんですよね。それなら私よりも魔王様にお願いした方が良いかと」
「流石、わかってるわね。んー……行かせてくれるかしら?」
クリムは私に……ではなく、私の『髪』を溺愛している。死刑になる前日まで説得に全集中しなくては納得させられなかった。
死刑になるなら、髪が汚れるだのわたしの髪が……など、髪のことしか気にしてくれなかったけど、それほど私の髪はクリムにとって貴重なのだろう。
溺愛してくれるのは嬉しいけど、私の髪なんだよなぁと、複雑な気持ちがある。
確かに私の髪は特別なんだけど、そこまで惹かれるほどではないと思う。それに、特別なのは髪だけじゃない。
「なんだかんだ言ってもオリビアさんに優しいので大丈夫かと。説得には時間かかりそうですが」
「だよねぇ」
もういっその事、私の髪を溺愛していることを利用して脅迫してみようか。
勇者達が魔王城に攻め入るまで、時間が無い。もうそれしか方法が無さそうだし、
と、私は覚悟を決めてアルベイルに「やってほしいことがある」と、その内容を伝え、部屋を出ていく。
昔から魔王は人々に恐れられていて、討伐のチャンスを狙っていた。
それが百年に一度の勇者の誕生と聖女召喚にも繋がる。
そのチャンスが今ならばもうじき、この魔王城は地獄と化すだろう。