魔王様はマイペース
「魔王様……貴方は何をやってるんですか!?」
浴室の出入口で仁王立ちしているツインテールをした可愛らしいメイド服を着ている少女、アルベイルはスっと青色の瞳を細め、苛立っているのかその場で足踏みし、クリムに一喝する。
その怒声は浴室にこだまする。
クリムは、その怒声には気にも止めない様子で私の髪の毛を丁寧に洗い流している。
「うむ。やっと汚らしいものが落ちた。不覚だ……、お前を汚されてしまうなんて」
「だから誤解を生みますって」
「ムッキー!! 私を無視しないでください!!!」
洗い終わってから私の髪の毛をまじまじと見たクリムは安堵しているが、私はクリムの誤解を生む台詞に呆れていた。
そんな私とクリムを見て、気に入らないのかアルベイルは更に苛ついている。
「魔王様!! いい加減にしてくださ……っ!!」
浴室内に足を踏み入れ、ズカズカと歩き出した時だった。
そこら中に泡をぶちまけていたせいで床が滑りやすくなっていたんだ。
アルベイルは泡に足を取られ、滑ってしまった。しかもそのまま頭を打ってしまった。
強打してしまったせいか頭には大きなタンコブが……。
目が渦を巻いていて、気絶しているようだった。
「大変!!!」
私は立ち上がるとザバーッという水飛沫が音を上げた。その拍子にクリムの全身にお湯がかかってしまった。
普通ならば立ち上がっただけで全身にお湯はかからない。でも私は物心ついた時から特別な能力が備わっているらしく水を自由に操ることが出来る。
それが時に私の感情で暴走してしまうから困りものだ。多分、私が特別な能力を使いこなせてないだけなのだろうけど。
その証拠に今のように、少し動揺してしまえば水が反応してしまった。
クリムがお湯で髪が湿っている前髪のせいで今がどんな表情しているのか分からない。
自分が未熟のせいなんだけど、いくら変人とはいえ魔族の頂点に君臨している王にお湯をかけてしまった。これが人間の王ならば即死刑になる。
「あ……あの……申し訳ありません」
「…………」
恐る恐る声をかけるとクリムは前髪を掻き上げ、頬が赤く染っていた。
お湯で火照ったのかもって思ったけどどうやら違うらしい。
「お前の髪と同じように……いや、もっとか。よし! もっと濡らしてくれ!! お前と同じぐらいの濡れぐらいが丁度良い! ああ……、なぜわたしの髪はスライムみたいな色をしてないのだ。羨ましい。……いっそのこと、髪を交換するのはどうだ!?」
ガシッと勢いよく両肩を掴まれ、早口で捲し立てられた。
私は呆れて顔を引きづってしまった。
このクリムは怒ることはあまりしないぐらい心が広い……いや、マイペースなのだ。
なんとかなるが口癖で魔王様の配下達は皆、頭を悩ませている。
そんなクリムに幹部の一人、獣人族のアルベイルがクルムの暴走を注意しに行ったら、頭をぶつけて気絶してしまった。
本来ならば、私よりもアルベイルを気にしないとならないのだが、クリムはアルベイルに気付いてないのか、私の髪に夢中だ。
「……その件は一旦保留にしましょう」
興奮気味なクリムに対し、私はため息をすると、ビシッと気絶しているアルベイルを指差した。
「まずは、アルベイルの介護が先です!」
クリムがようやくアルベイルの方を向く。
「??? アルベイルはなぜこんなところで寝ているのだ?」
「……はぁ」
アルベイルの存在にさっき気付いたのか、クリムは眉間にシワを寄せている。
私は額に手を当てて呆れていた。
念の為に言うが、クリムはかなり強い。
本気を出せば世界を滅ぼすほどの実力者。
但し、スライムに関わることとなると周りが見えなくなる以外は性格もまともな……はずなのだ。
なので、スライムみたいな私の髪の色に惚れ込んでいて、時々周りが見えなくなってしまうのはなんとかしたい。