スライムがピンチなのにこんなに冷静だなんて有り得ないわ
「勇者達は一体どこに……。そもそもアルベイルは」
周りを見渡して歩いていると、ギョッとした。
勇者パーティーに木に吊るされてるであろうアルベイルがいた。その下にはスライムが慌てているように全身を奮い立たせるように勇者達に威嚇しているが、効果はない。
さらにスライムの後ろにはスライム型の魔導具が粉々になっていた。
急にカメラの映像が見えなくなったのはそのせいかと納得した。
私は勇者達に気づかれないように物陰に隠れる。というよりも、木の影なのだが、腰近くまで雑草が生えているのでしゃがんで様子を伺う。
しゃがめば、雑草に隠れてしまって見えにくくなるからね。
飛竜は連れ歩くと目立ってしまうので着地した場所に置いてきた。勝手に飛び立ってしまうと大変だから木に繋ぐのも忘れずに。
エルドがしっかり者で助かるわ。ちゃんと繋げる用の縄が、飛竜の背中にぶら下がっている小さな鞄のような物に入っていたのだから。
「ねぇ、あのスライムって、見たことあるような気がするのよさ」
私の肩によじ登ったルーナが小声で話し出した。確かに見覚えがある。
私も声を潜めた。
「他人の空似じゃないの?」
スライムはかなり多く存在している。似ているからといって、魔王城にいるスライムとは限らない。
そもそも魔王城にいるスライムがこのダンジョンに居るとは思えない。
「だと良いのよさ。もし魔王城にいるスライムだったとしたら魔王様が黙ってない」
「だよねぇ……」
ヒェッとルーナは肩を震わしてが恐怖する。きっと怒り狂う魔王様を想像したんだろう。
ちなみに私も想像してしまい、呆れてしまった。
怖いと思う。クリムを本気で怒らせたら怖いと思うの。でもね、スライムのことになると我を忘れてしまうのを想像してしまったから呆れるしかない。
何せ、私にとってクリムはスライム好きな青年なのだから。
少しだけ……ほんのちょこっとだけ、スライムが羨ましいとか思ってたり。
「何故、スライムがこんな危険な場所に?? む? アルベイルが人間共に捕まっているではないか」
隣から……それも耳元で話しかけられてビクッと飛び跳ねたが、クリムの手によって口を塞がれてしまった。
「見つかっても私は構わんのだが、オリビアは嫌であろう?」
クリムの問い掛けに私は大きく首を縦に振った。フッと笑ったクリムにドキッと高鳴った。
ーー恋は厄介だ。
復讐に集中しなくちゃと頭では分かってるのに、身体は反応してしまってどうすればいいのか分からなくなってしまう。
「……私の許可なく城から出たことへの言い訳は後で聞くことにしよう。この状況をどうすればいい? 私は何をすれば良い?」
「え」
意外だなと思った。真っ先に突っ込みそうなのに、私に意見を求めるなんて。
だって、スライムがピンチなのに、こんなに冷静だなんて……有り得ないわ。
空から雹、もしくは槍が降ってくるんじゃないかしら。
その思考を否定するように首を左右に振った。
もぅ、考えるのはこのぐらいにしとこう。今は……、この状況をどう切り抜けるかってことだけに集中したい。




