第1話 私が脳腫瘍!? ー下垂体腺腫と視野異常ー
【下垂体腺腫と視野異常】
私が最初に下垂体腺腫があることを知ったのは、今から7年前のことです。
正確には、その2年程前から「おかしいな?」と目に違和感を覚えていたのですがが、正式に「下垂体腺腫」と診断された時には違和感どころか視野が半分以上無くなってからのことでした。
「視野が半分なくなる」と聞くと、なんて深刻な状況なんだ、可哀そうに、と思われる方も多いでしょう。しかし、当の本人は呑気なものでその状況を楽しんでいました。というのも、「下垂体腺腫」ではなく「白内障」だと思っていたからです。
白内障はある程度の年齢(といってもおじいちゃん、おばあちゃん世代ですが)では珍しくもない疾患であり、目の中のレンズを取り変えれば症状が良くなることが分かっています。当時はまだ30代半ばだったため「白内障ですね」と言われた時には軽いショックを受けたものの、深刻になることも無く数カ月に一度の眼科受診で様子を見ていました。
最初の症状は「白い紙に書いた文字が眩しくて読めない」という程度で、これは確かに白内障の初期症状だと思います。その後、視野(目で見える領域)の所々が灰色のもやがかかったようになり、やがてそれが「片目で見た時の耳側半分」になっていきました。
右目で見ると、右半分が見えない感じです。スパッと半分、視野が灰色に塗りつぶされたようになります。左目だけで見ると、それと逆の現象になります。
ですが、両目で見ると右目と左目の見える部分が補い合って全部見えるので日常生活に問題はありませんでした。アイラインを引く時に困るくらいでしょうか。
しかしそれがいつしか「両目で見ると視野の真ん中がすっぽり抜ける」という状態になっていきました。
普通に歩いていて、電柱が認識できずに正面からぶつかるなんてこともありました。
最終的に、「10桁の数字を見た時に最初と最後の数字しか見えない」というところまで悪化しました。「0123456789」だと「09」にしか見えないのです。
片目ずつの見えない範囲が半分を超え、両目で見ても補いきれなくなったのでしょう。
とうぜん、仕事や日常生活に支障をきたしました。笑っている場合じゃありません。「ウケる!」とか言っていた当時の自分にパンチです。
しかし、その時もまだ「白内障」だと信じていたため、2~3か月に一度通っていた眼科で「白内障の手術がしたい」と申し出ました。その際、「手術する程ひどい白内障じゃないけど……」と首を傾げる先生に、「でも見えないんです! 道を歩くのも大変なんです!」と抗議したのを覚えています。しぶしぶ実施してもらった「視野検査」の結果、慌てたように脳神経外科を勧められ、言われるがままCTを撮りました。
そこでようやく私の症状が「白内障」から来るものではなく「脳の異常」であることが分かったのでした。
この時には腫瘍は5㎝ほどにまで膨れ上がっていました。この腫瘍が視神経を圧迫し、視野を狭めていたのです。
普通は、片目ずつが見えにくい時点で発覚するのでしょうが、白内障だと思い込んでいたがために発見が遅れました。
もちろん、軽度の白内障があるのは事実であり、先生が私の状態を理解できなかったのも仕方がないことなのですが、2年間も定期的に眼科に通っていた時間はなんだったのかと、残念な気もします。
私自身も、もう少しきちんと「片目で見ると耳側が見えない」と下垂体腺腫に特有の症状が言えれば良かったのでしょうが、突然そうなった訳ではなく、白内障と診断されてから、じわじわそうなっていったので上手く伝えられませんでした。もう少し知識があれば、1年以上は早く発覚していたと思います。
皆さんの中で、片目で見て視野が欠けている、あるいは灰色がかっている部分がある方はいらっしゃいませんか? いたら、脳外科に行くことをお勧めします。
何はともあれ、異常が見つかり、すぐに近所の大学病院を紹介されました。
あれよあれよと言う間に入院が決まり、外科手術により下垂体腫瘍は取り除かれました。
手術後、あれほど狭くなっていた私の視野はほぼ回復しました(片目ずつでみると耳側半分の色が薄いのですが、完全には回復しないようです)。それだけでなく、平熱も1℃上昇(手術前は35℃台でした)、生理不順まで改善する、といった嬉しいおまけまでついてきました。
これが1回目の下垂体腺腫除去手術の経緯です。
視野検査、大事です。
次の章からは、項目に分けて詳しく入院や手術後の経過について見ていきたいと思います。