第8話「渡り鳥」
「羅生門の人か」
喫茶店から出てきた男女。その一方の制服を見て、虎太郎は、口笛を吹く。
羅生門男子高校。
そこは、喧嘩自慢の不良少年が集まる学校であり、5大列強と云えど、一目置いている。それも、羅生門男子高校の頂点。
最強の喧嘩屋の存在が大きい。
ワダツミ四天王の一角。
通称、ギガマキこと【ギガントマキア】。
「あんた、ギガマキの舎弟か何か?」
虎太郎の問いに、羅生門の制服の少年────鵺咫路は、首を横に振った。
「ギガマキ先輩は関係ない。たぶん、向こうは俺の事、知らねえだろうし」
アイビスの人数は、50人前後。その人数を前に、鵺咫路は余裕を崩さない。
「はっ。かんけーない?
かんけーねえって? ……バカにしてんのか、てめぇ」
だが、どうにもよろしくない。よろしくない反応だ、これは。
「【あいびす】嘗めてんのか」
それまでは……────虎太郎は、柔らかな。ともすれば、緩やかな空気を纏っていたのに。
表情に、怒りの色はない。だが、明らかに空気が変わった。
「怒らせちまったか」
鵺咫路の視線が、取り囲むアイビスのメンバー達の配置を視認していく。
「逃がさねえよ。ここまで暴れた人間を、逃がすわきゃねえだろ」
虎太郎は、素早くそれを察知して、鵺咫路が逃走を図っていると考えた。
だが、鵺咫路の答えは、虎太郎の怒りをさらに育てるもの。
「いやあ、さすがにこの人数の相手は厳しいなぁ」
「あ?」
瞬間。
パイプレンチを振り上げかけたが、それを理性で押し留める。
「……そうか。そうだな。
この人数で現れたから、リンチされると警戒したか。そりゃこっちの不手際だわな」
発火寸前。
だが、虎太郎の目に怒りがより濃く浮かぶ。もはや、空気云々ではない。
キレかけているのだ。
「安心しろよ、羅生門」
鵺咫路の名前を知らぬ虎太郎は、彼をそう呼ぶ。
どうせ、大した付き合いになるわけではないのだろうから。
「大人数で来たのは、万が一、お前にこれ以上、逃げられねえ為だ」
学生地区は渡り鳥の鳥籠。
そして、その鳥籠の王者が暴れ出さぬ為の檻。
「【あいびす】が頭領、風間 虎太郎」
名乗り。
王者は、爪を構えた。パイプレンチとモンキーレンチだが。
「…………下がってて、斎藤さん」
「鵺くん、気を付けて。彼、そうとう強い」
対して、鵺咫路は両手を開き構える。斎藤は、虎太郎の纏う雰囲気だけで彼が手練れであると、断言した。
「なるほど、強敵だな」と。薄く、鵺咫路は笑みを浮かべた。
「羅生門高校2年、探偵見習い。
十月 鵺咫路」
「?」
鵺咫路の名乗りに、虎太郎の怒りの中に混じる、一瞬の空白。
何故、探偵がそこに出てくるのか。虎太郎としては、意味が分からなかった。
羅生門高校の生徒が暴れていて、それが、アイビスのメンバーだけでは、手がつけられない。だから、自分が出張ってきたというのに。
鵺咫路の口から、探偵という言葉が出てきたのは、本当に意味が分からない。しかし、まあ。
男同士、すでに拳は握られた。引っ込みがつかないとも云うが。
「ケジメっつーの? ま、大事なんだわ」
「やんなきゃ納得しねえんでしょ? なら、やるしかねぇな」
互いに、軽口を吐いて。
鵺と虎が、ぶつかり合う。




