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【戦線都市ワダツミ・カプリッチオ】  作者: 幾多野 数多
【序ノ章】
6/22

第6話「悪辣悪童魑魅魍魎跳梁跋扈」

 


 その少年は、吊り目だった。仲間内からも、そう呼ばれている。

 『吊り目』と。



「────そっちの首尾は?」



 アーケード街に呻き声をあげて横たわる不良少年達。吊り目は、そんな彼等を見下ろしながら、スマホで連絡を取る。



「あ、そ。……その規模でいいから、もう何回か襲撃かけてくれる?」



 通話相手に指示を出し、吊り目は、地面に転がる金属バットを、爪先で玩ぶ。



「すげえのがいたもんだ」



 スマホをジャケットのポケットに入れると、反対側のポケットで、別のスマホに着信あり。

 爪先でひしゃげた金属バットを突っつきながら、吊り目は電話に出る。



「ああ、うん。そーね、手筈通りにお願い」



 吊り目は、自身の掌に視線を落とす。

 金属バットで、適当になぶって隅に転がしておくつもりだった。だが、しかし。

 吊り目は、見誤ってしまったのだ。鵺咫路の戦闘能力を。

 その結果、30人だった手駒は、10人まで減っていた。手駒が半分になったところで、無傷の数人を残し撤退したわけだが、この惨状を見る限り、退いて正解だったらしい。



「あのニット帽…………この街に、まだ俺の知らない手練れがいたのか」



 こーん、と。爪先で金属バットの先を蹴ると、カラカラと回りながら金属バットは地面を滑る。



「…………ありゃ確か、羅生門の制服だったな」



 吊り目は呟きながら、巨漢の頭を爪先で小突く。



「…………あ、吊り目、さん」


「おう、起きろ起きろ。撤収すんぞ」


「うす」



 鵺咫路の楯無を食らった巨漢は、辛そうに立ち上がると、倒されている他のメンバーを起こし始める。



「……機嫌よさそうっすね」



 腹をさすりながら吊り目に話し掛ける巨漢に、吊り目は鼻で笑う。



「俺がか? そう見えるかよ」


「……すんません」


「謝んなって。べつに頭にきたとかじゃねえから」



 云いながらも、吊り目は、気分の高揚を自覚していた。


 これから、面白い事が起きる。

 或いは、面白い事が起こせる。


 そんな、予感。



「あ、お前等、忘れずちゃんと剥いでおけよ」





 吊り目は、ジャケットの小鳥のシルエットが描かれたワッペンを剥ぎ取る。



「よそのシマでハネるから、小細工してきたが、案外、役に立ったか」




             ●




「いたぞ」


「こっちだ」


「捕まえろ」


「囲め囲め」


「…………大人気だな」



 斎藤を肩に担いで街中を走る鵺咫路が、ガードレールを飛び越える。

 すでに、アイビスからの襲撃は、10回近付く。2~3人程だった襲撃の人数も、今や10人前後。

 さすがに、終わりの見えない作業はストレスがでかすぎだ。アイビスのメンバーが、この場で倒して退く様なムードでもない。

 一度、足を止めて相手をしてしまうと、どんどん人数を膨らませてくるだろう。アイビスが、何故、斎藤を狙っていたのかは分からないまま。

 だが、今は、どうにもアイビスの矛先は、鵺咫路に向けられている様だ。



「見付けたっ! ニット帽」


「────…………」



 斎藤からの無言の圧力。


 「お前が狙われてないか?」と。そんな、空気。

 鵺咫路のトレードマークたるニット帽に、こんなに注目されるとは。



「中学生の頃を思い出すね全く」



 とはいえ。


 物思いに耽っているわけにもいかない。現在、山賊に拐われた村娘の様な格好の斎藤が、追ってくるアイビスを観察しながら呟く。



「…………妙だと思わない?」


「何が?」



 斎藤は、アイビスの面々を見ながら疑問点を口にした。



「最初、私を追っていた連中は、もっと粗野だった。しかし、今はどうだろう。

 品がよくなったというか、なんというか」



 それは、鵺咫路としても、少し気になってはいたところ。



「それに、何故か私ではなく、君を狙っている。正直、私を置き去りにしても、連中は君を追っていくんじゃないかな」


「……バカ云え」



 一瞬、それも考えた様な間。だが、鵺咫路は彼女を手放す選択をしない。

 実際、吊り目としては、そうしてくれると助かるという話だったのだろう。斎藤1人なら、確保も容易だ。



「ああ、君はそう云うだろうとも。そう答えると、知っていた。

 分かっていたさ」



 斎藤の声が少し弾む。



「では、方針を変えよう」



 どうせ、このまま逃げていても、何も解決しないのだ。



「へえ、どんな?」



 鵺咫路の問いに、斎藤は答える。



「アイビスの責任者に、会いに行こう」


 

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