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【戦線都市ワダツミ・カプリッチオ】  作者: 幾多野 数多
【鳥籠ノ章】
13/22

第1話「ギガントマキア」

 

「調子はどうよ?」


「お前が訊く?」



 喫茶パズルの片隅に置かれた2つの筐体。そこで、鵺咫路と虎太郎が格ゲーを嗜んでいた。

 カウンターでは、蕪戯と左面枝が将棋を。夜奈國は、小説の構想を練っている最中で、2時間程、角の席で唸っている。

 時折、解読不能の夜奈國の呪詛らしき声を聴きながら、虎太郎の投げキャラが、鵺咫路のネタキャラを吸い込みスクリューパイルドライバーでKOした。



「そのキャラ掴み範囲えぐない?」


「ネタキャラ使っておいて、キャラ性能の文句云うのはどうかと思うんだ」



 対戦を終えて。



「ダメージの大半は、俺のスピードのせいだ」



 虎太郎は、本調子ではない。日常生活に支障をきたしてはいないが。

 兜割りは止めの一撃にはなった。しかし、喧嘩が終わり、尾を引くダメージは、肩に受けたもの。

 上下運動がなく。そして、攻撃と方向転換の起点となる肩。

 スピードに乗った虎太郎のエネルギーを、全て彼の肩に返したのだ。



「自滅、みたいなもんだな」



 こればかりは、虎太郎の耐久力が特別低いというのもあるが、それ以上に彼がスピードタイプであるが故の。

 彼自身、あまり、筋肉という重り(・・)は付けていない。筋肉は、全てスピードに振っている。

 故に、ただでさえ耐久力低いのに、そのスピードでぶつかったら事故るよね。みたいな。


 2戦目のキャラクターセレクト。鵺咫路が選んだのは、主人公だった。

 飛び道具・対空・突進一通り揃ったバランスのいいタイプ。鵺咫路は山本と呼んでいる。

 このゲームの主人公は、決してそんな名前ではないが。虎太郎は、隠しキャラの前作ラスボスを選ぶ。

 時系列的に、今作のストーリーに登場しない筈のキャラではあるが、そのあたりはファンサービスといったところ。



「だから、まあ、べつにお前の事も恨んじゃいねえよ」



 虎太郎は、そう呟く。

 顔は、ゲーム画面に向いており、その胸中は窺い知れない。しかし、こうして一緒に対戦しているあたり、わだかまりはないのだろう。



「そんで、お前の所の探偵さん……騙部さんは?」



 主人公の背後にワープする前作ラスボス。首を掴まれレバガチャを強いられる鵺咫路は、「根性見せろ山本ォ!」と叫んでいた。



「話、聞いてる? お前んとこの、偉い人、今日いねえの?

 ……って、訊いてんの」



 しかし、体力が赤点滅まで減ってから、超必ゲージ3本消費して発動する、主人公固有の超強化モードになってからの巻き返しがえぐい。なんで、そこから逆転出来るんだよ。

 格ゲーなのに、体力ちょとずつ回復してるのは、無法と云わざるを得ない。

 体力回復に比べたら、技が全部強化された、最早、別物化物性能になるなんて、お可愛いものだ。

 ゲームの主人公キャラだから、使いやすい様に技構成やら体力やら当たり判定やら火力を設定されたと思われるのだが。だが、しかし、である。

 蓋を開ければ、バランスのいいキャラの筈が、ゲームのバランスを崩壊させたブッ壊れ。



「騙部社長でしたら、今は浮気調査をしてます」



 虎太郎の質問に答えたのは、蕪戯だ。



「いねえのか……そっか。吊り目の男の話を聞きたかったんだけど」



 本日、虎太郎が、喫茶パズルを訪ねてきていたのは、騙部が戦闘したという、吊り目の男について。前回、ちょっとした不幸な行き違いにより、揉めてしまった相手であった故に、虎太郎は単身、鵺咫路と一緒にカツカレーを食べた。

 仲直りの儀式だ。そもそも、友達には、今なったというのが、正しい。

 なんにせよ、アイビスのメンバーを引き連れて来なかった為、比較的穏やかな入店となった。虎太郎の目的の一つは、果たされない様ではあるが。



「吊り目って、所長がやり合ったってやつ?」



 鵺咫路に問われ、虎太郎は「そそ」と、返事を返す。



「お前……と、斎籐っつったか? あれから姿を見せなくなったっつう、依頼人な。

 お前等2人をはめたであろう吊り目。そのせいで、俺がお前とタイマン張る事になったし、まあ、アイビスもはめられた事になんのか。

 手下を引き連れて指揮してたらしいから、たぶん、そいつの手下の中から、それなりに背格好がお前に近い奴に、ニット帽被せてアイビスを襲わせた…………のだろうな」



 虎太郎は、佐助から聞いた情報から、チーム内で話し合って、そういった仮説をたてた。そして、喫茶パズル────というか、騙部探偵社とは、友好関係を築く方針にしたのだ。

 治安維持を主な活動としているアイビスとしては、お互いにいい協力関係を築けるのではと、見越してのこと。



「で、たぶんなんだけどな。その吊り目」



 まずは、虎太郎は鵺咫路から懐柔する事にしたのだった。建前であり、口実でしかないが。

 虎太郎も、鵺咫路も、お互いを気に入っている。

 虎太郎は、自身を負かした男が、他の5大列強や四天王の所属ではない以上、可能な限り味片側に引き込みたい。鵺咫路は、本気で戦える相手だし、一緒にゲームの対戦相手にもなってくれるし、騙部とはまた違った(ツテ)を持った情報通だ。

 仲良くしておいて、損はない。お互いに。

 アイビスとしても、活動拠点が増えるのは、有難いのだから。



「たぶん、毒蛇(ヴィーペラ)の幹部だな。大物だぞ、この学園都市じゃな」



 鵺咫路は、「へえ」と、呟く。大物だと云われたところで、鵺咫路は彼の顔すら知らないのだ。

 分かっているのは、吊り目(・・・)なのだろうなというくらいで。ほぼ、何も知らない。



「ツッキーはさ」



 鵺咫路の名字である十月から取ったのであろうニックネームで、虎太郎は、鵺咫路を呼ぶ。いつまでもお前呼ばわりでは、距離は縮まないのだから。



「ワダツミの勢力図とか、なんも知らねえんだよな?」


「たぶんそう。部分的にそう」


「ランプの魔神かな」



 「まあいいや」と、虎太郎は、鵺咫路をカウンター席へと促す。少し、長い話になるのだ。

 いつまでも、筐体越しにするような話ではない。



「大雑把にざっくり説明するとだな。この、学園都市ワダツミでは、9つの地区に、それぞれ、王様(・・)がいるわけだ」


「王様?」


「喩えな。ものの喩え」



 「ふうん、続けて」と、続きを鵺咫路が促す。

 それを受けて、虎太郎は、カウンターの偽話に、「アッポォジュース」と、イントネーションに癖のある注文をしていた。それを受けた偽話は、黙って頷くと、コップにウサギさんリンゴをぶち込んで、虎太郎に差し出す。



「わ、わぁ……」



 さしも、虎太郎、言葉を失う。



「ああ、で、その王様っつってもさ、2つのタイプに分かれててさ。所謂、ツッキーみたいにどっかの学校に通ってて、そこで一番強え奴と────特に学校に通ってないで、チームを結成してそれぞれの地区に根付いてる奴……ま、俺だわな」



 虎太郎は、なるべくワダツミ初心者である鵺咫路でも理解しやすいよう言葉を選ぶ。



「基本的に全部敵対関係みたいなもんだと思え。中には、中立組織もいるが、あんなもんは、例外だ例外」



 9つの勢力による、勢力争いは、とッ散らかり過ぎではないだろうか。そりゃ中には、どっち付かずも出てくるだろうに。



「俺達アイビスは、この、喫茶パズルのある学生地区が縄張りだ。四天王連中と、別に仲良しじゃねえけれど、他の5大列強チームとの小競り合いの方が多いな。

 他のところも、だいたいそうだと思うぜ」



 ふむふむ、と、鵺咫路は相槌をうつ。



「で、だ……吊り目ってのは、アイビスと同じ、5大列強の一つ、ヴィーペラの副リーダーだ。本名は分かってねえ。

 ヴィーペラの連中は、あまり本名で呼び合うような真似をしねえからな。だから、そいつは仲間内からも吊り目さんと呼ばれてる」



 ウサギさんリンゴを齧りながら、虎太郎は話を続けた。



「ヴィーペラってのは、半グレに近いか。ヤンキーと半グレの中間みたいな。

 恐喝とか、カツアゲだとか。強盗なんかもそうか。

 そういった犯罪行為をやりまくる集団だ」



 「駄目じゃん」と、鵺咫路は云う。



「ガチの犯罪のやつじゃん」


「ガチの犯罪のやつなんだよ」


「滅ぼさなきゃ」


「お。いいね、治安がよくなる明るい話だ。

 是非ともやってくれ」


「人類を滅ぼさなきゃ」


「風向きが変わってきたぞ。AIか?

 進化したAIなのか?」



 こほん、と、咳払い。



「犯罪者集団であり、武闘派集団だ。関わらずに済むのなら、それが一番いい。

 それに越した事はねえんだ。トラウマにストマックブレーンバスターするならば、ジャングルジムの青椒肉絲(チンジャオロース)って昔からよく云うだろ?」


「ごめん。なんて?」



 良いことを、云おうとしていたのかも知れない。たぶん。

 たぶん、そう。云えてないってだけで。

 何も伝わっていないという。それだけ。

 現状、虎太郎が奇声を発したに等しい。



「とは云え、だ。ツッキーは、俺にタイマン勝っちゃったからなぁ」



 虎太郎は、後頭部を搔く。



「向こうがほっとかねえだろうよ。ツッキーの意思に関係なくな」



 それは、騙部が危惧していた事でもある。騙部は、鵺咫路の強さに誰より早く目を付けた。

 同時に、利用価値よりも、それに見合ったリスクに気付いた。いつ爆発するのか分からない、不発弾のような男。

 運用すれば、利益は見込めるだろう。しかし、大いなるトラブルを呼び込みもするだろう。



「ヴィーペラ連中が接触してきたら、すぐに報せろよ? 俺達アイビスが、今度は手を貸してやる」



 虎太郎は、鵺咫路に負けはした。敗れはしたが、やり返すつもりはない。

 あれはあれで、負けたからもう一回は、筋が通らないのだ。リーダーとして、タイマンを張った。

 それでいいではないか。

 そういった、価値観で生きているのだ。彼等は。

 だから、後腐れなく、友人関係だって結べる。

 打算もある。下心だって。

 しかし、人間的に、好きか嫌いかで云えば、少なくとも、虎太郎は、鵺咫路が好きだった。



「特に、吊り目には気を付けろよ。執拗でしつこく粘着質って話だ。

 ツッキーが目ぇ付けられてるなら、どんな手を使ってくるか、分かったもんじゃねえ」


「そんなに?」


「ああ、喩えるなら、五目ご飯の川流れって感じだ」


「なんて?」



 なんて?

 あと、ご飯は大切にしろ。



「……キレたら何するか分からねえ奴っているだろ? 吊り目の場合、普通に会話は成立したまま、人間の頭をレンガでぶん殴るような奴らしい。

 人間と同じ言語を吐く、怪物っつーか、昆虫っつーか」



 キレたから、(たが)が外れたのではなく。平然と、明日の天気の話をしながら、拷問をするかのような。

 異常者。

 まともではない。



「育ちが悪いとかじゃ片付けらんねえなそりゃ」



 鵺咫路の、率直な感想に、虎太郎は、咎めるような視線を寄越す。



「ツッキー、それ、今の一言」



 鵺咫路は、首を傾げる。



「あいつ等……ヴィーペラの前では、云うなよ」


「なんで?」



 鵺咫路は、何故、そんな事を云われたのか、意図を掴みかねる。

 先程まで、ヴィーペラは、加害者だと。関り合いになるべき相手ではないのだと、そう云っていたではないか。



「本人の努力で変えられる問題と、そうじゃねえ問題がある。同情なんてしてやる必要のない奴等だとしても、そういった云い方が、好きじゃねえんだ」


「ふうん」



 腕を組み、唸る。視線は、天井へ。



「そんなもんか」


「好き嫌いの話だし、別にあいつ等が気にしちゃいねえかも知れねえけどな」



 「一応、訊くんだけど」と、鵺咫路は前置いて。



「同情してんの?」


「まさか」



 「そんなんじゃねえよ」と、虎太郎は、寂しそうに笑う。



「……ふーん」



 何か、あるのかも知れない。何か、あるのだろう。

 だが、鵺咫路は、そこに踏み込もうとは思わない。思えない。

 話したければ、催促せずとも、自分から語り出すのだろうし、本人が今、語らないのであれば、今はまだ喋りたくはないというだけ。そんな時は、鵺咫路は踏み込まない。

 それは、彼の処世術のようなもの。



「ツッキーはさ」



 じ、と。


 虎太郎は、鵺咫路に目を合わせる。



「良くも悪くも、この街の均衡をぶっ壊した張本人だ。それまでは、穏やかとは言い難いなりに、各勢力同士が、それなりに牽制し合って、そして、暗黙の了解でお互いに不干渉なところがあった。

 それをまあ、本当に、よくもやってくれたなって感じだよ」



 その笑い方は、苦笑いに見えた。虎太郎は、苦笑いを浮かべていたのだろう。



「俺も、散歩してて久しぶりに喧嘩を売られたっけな」



 虎太郎が、新参者に負けた事で、我こそはと野心を抱く輩が、彼に次々と続々と挑戦してきたのだ。彼は、その全てを退けてきた。

 彼ならば、『堕ちた王』などと、軽んじて、見くびられた評価なんて、簡単にひっくり返してしまうだろう。

 この島らしく、この街らしく。

 そのあたり、鵺咫路は少しは、物事を弁えているのか、間違っても「もしかして俺のせいだったりする?」なんて口にする事はない。



「ツッキーは、大変だぞ。これからな」



 虎太郎の力は健在。ならば、より、その新参者に注目が集まろうというもの。

 虎太郎は、店内にいる蕪戯や夜奈國へと、視線を移ろわせて口を開く。



「その制服、高天ヶ原だろ? 君らのところの生徒会長(王様)さんはどうよ?」



 虎太郎の、何気ない質問に、蕪戯は、左面枝との対局の手を止め「あー」と、間延びした声で間を誤魔化す。



「あいつは……どーだろ。そういうの、気にしたりするのかな……あんまり、そのイメージはないけど」



 鵺咫路としては、これは、意外というか、予想外というか。

 蕪戯達の事は、よその学校の生徒で、同じバイトの仲間くらいの認識だったのに。なんと、9つの勢力の1つらしい。



「あれ……その反応の感じ……もしかして、知りませんでした?」



 蕪戯は、鵺咫路の反応を、見逃さない。



高天ヶ原(うち)の学校ってか学園の生徒会長は、ワダツミ四天王の1人なんですよ。

 名前は、鞍梯(クラハシ) 故龍(コタツ)

 通り名は【昇り龍】。

 羅生門高校の生徒、30人に囲まれても、たった1人で壊滅させてしまったらしく……喧嘩がバカ強いのですが、全国模試の成績で5本指に入る頭をしている意味の分からない奴です」


「通り名とか、そんなんあるんだ」


「ちなみに俺のは【虎落笛】な」



 虎太郎が、口を挟む。



「昇り龍は、なぁ」



 虎太郎は、ぎしり、と、椅子を軋ませた。



「ヴィーペラとは、別の意味で関り合いにならねえ方がいい奴ではあるかな」


「風間さん、風間さん、そりゃあいつの()について云ってんですか? あいつは、たしかにああいった()の人間ですけど」


「なんだよ。蕪戯君……だっけ」



 虎太郎の言葉に、蕪戯が食い付く。



「君は、昇り龍と友達か? だけどな、君が、彼を危険人物ではないと思っているからと云って、彼は危なくないよと、彼の背景について語らないのは、そりゃちょっと違うんじゃねえの?」



 虎太郎は、横目で鵺咫路を見ながら、云う。



「ツッキーは、なんも知らねえんだぞ。だから、下手打って、全勢力から目を付けられちまう事態に陥った」



 それ自体は、本人の予備知識不足や、不注意だったとしても。



「知らないと、分からないだろうが」



 虎太郎の言葉は、善意からの言葉である。しかし、同時に、それは、蕪戯の言葉もまた。

 今回のやり取りに、学ぶべき教訓があるとするのならば、それは、善意が無害なものとは限らないという事。



「昇り龍はな、バックに鏖神会(オオカミカイ)が付いている」


「っ! 鞍梯ってまさか……おいおい、マジか」



 これには、さすがの鵺咫路も顔に出た(・・・・)。まあ、ニット帽のせいで口元の動きくらいしか分からないのだが。

 それを差し引きしたとしても、彼の驚きは伝わる。

 日本最大規模の暴力組織────鏖神会。

 その、会長である鞍梯 竜蔵(リュウゾウ)の、1人息子。70代という高齢ながら、日本最大規模の暴力組織のトップに立つ、王の中の王。

 その息子が、四天王という座に着くという。なるほど、虎太郎が、関わるなというわけだ。

 ワダツミの情勢を知らない鵺咫路でも、その組織の名前と、そのトップの名前は知っている。

 しかし、まさか、その1人息子が、学園都市の学園に通っていたとは。しかも、生徒会長まで務めて。

 高天ヶ原学園は、所謂、海上の人工島学園都市ワダツミで一番、頭のいい学校というやつだ。偏差値で云えば、60台がごろごろいる様な。

 偏差値40以下がごろごろいる学校に通う鵺咫路からしたら、人外魔境の様な存在だ。



「勘違いしちゃいけねえのが、鞍梯 故龍という男が、普通にとんでもねえ強さってこったな。化物だよ、あれは」



 暴力組織の、地位のあるポジションだとして。

 彼はそれを頼りにしない。一個人として、王の座に着いたのだ。

 虎太郎ですら、彼を化物と云わしめる程に。


 彼は強い。



「本人の喧嘩を、遠くから見た事があるけどよ」



 虎太郎が珍しく、真剣な面持ちで云う。



「喧嘩を始める前から、抜き身の日本刀みたいな鋭さの雰囲気みたいな……かと思えば、喧嘩が始まればありゃまさにドラゴンだな」



 故に龍。

 というわけだ。



「いや、戦闘民族みたいな紹介されてますが、あいつ自身、自分から喧嘩売るなんて事ないですって」



 蕪戯が、鞍梯の弁明を始めた。



「生徒会長としての仕事ぶりは、学園の教師陣も認めているところですし、学校周辺の治安が悪い所に1人で出向いて、相手が説得に応じなければ実力行使ってだけで、誰彼構わず殴り倒してるわけじゃないんですよ」



 意外な事というか、なんと云うか。ちゃんとした生徒会長であると。

 そう云うのだ。



「異例過ぎる特例の1年にして生徒会長……────────そして、最年少の四天王です」



 鵺咫路は、ここで初めて、彼が年下なのだと気付く。

 改めて考えてみれば、蕪戯は彼と友人関係であるかの様な口振り。そして、蕪戯は、高天ヶ原学園の1年生だと判明している。



「なんてっこった。1個下かよ」



 云ってみたものの、学年が1つ下だからといって、何か不都合でもあるのかと訊かれれば、そうでもないだが。ただ、まあ。

 なんと云うか。負けた感がすごい。



「…………ま、ツッキーが今、一番警戒しなくちゃいけねえのは、そっちじゃねえ」



 鵺咫路の精神的敗北感を知ってか知らずか、虎太郎は話を変える。奥では、未来の文豪を目指す夜奈國の悲鳴めいた奇声を響かせていた。



「王手」



 蕪戯が盤上に目を戻すと、左面枝が桂馬で王手を掛けていた。



「うぐ」



 数秒後、彼は左面枝に頭を下げるのであった。



「まいりました」



 詰んでいたのか。はたまた、蕪戯が諦めたんだか、読みが浅いのか。

 もしかしたら、生き筋はあったのかも知れない。



「ツッキーは、ギガントマキアに気ぃつけろな」



 ギガントマキア。


 それは、鵺咫路も知っている。名前だけなら。

 羅生門男子高校最強にして番長。ワダツミの9つの勢力の中でも、最強なのではと云われている羅生門。

 その、力の世界の頂点に君臨した王。


 ギガントマキア。

 或いは、ギガマキ。



「今日は何より、ツッキーに、それを注意しとこうと思って、ここへ来たんだ」



 虎太郎が、わざわざ釘を差す人物。



「本名は牛雄(ウシオ) 動乱(ドウラン)。羅生門男子高校の3年生だな。

 牛魔王って呼ばれてた時期もあったが、今はギガントマキアで通っている」



 虎太郎は、最初、鵺咫路が羅生門男子高校の制服を着ていると聞いた時、ギガントマキア率いる羅生門が、ついに喧嘩を売ってきたのかと思った。

 まさか、自分が通っている学校のボスの許可なく、5大列強に喧嘩を売る馬鹿がいるとは思わなかったから。



「ツッキーは、新参者の転校生じゃん? その転校生が、勝手に5大列強と揉めるわ、しかも、俺に勝つとかさ」



 穏やかじゃいられないだろう。そういう話。

 実は、虎太郎が喫茶パズルに着くまでに絡んできた輩で、一番多かったのが、羅生門高校の生徒だった。

 本当に、馬の骨の新参者に負けたのか。まさか、喧嘩の腕が錆び付いてしまっているのではないのか。

 そういった、確認作業なのだろう。



「ギガマキは、ツッキーを自分の下に着かせたいんじゃねえかな。立場的には」



 そうすれば、実質、アイビスは羅生門の傘下。羅生門高校周辺と、学生地区は、羅生門の縄張りだ。

 他の四天王や5大列強が、学生地区で好き勝手、幅を利かせる事がなかったのは、アイビスの存在があったからこそ。

 他の勢力もまた、鵺咫路を狙うだろうが、ギガントマキアの存在が、ある種の防波堤にもなっている。羅生門の生徒に手を出せば、武闘派も武闘派。

 ゴリッゴリに超絶超級の武闘派な羅生門が、黙ってはいないだろう。同時に、悠長に待ってもいられない。

 早く鵺咫路を抑えなければ、他の勢力に横取りされてしまうのだから。



「ヴィーペラは何してくるか分かんねえところあるけど、羅生門は強引な手段を取ってくるだろうからな。マジ気を付けろ」


「お、おう」



 どうやら、車のかもしれない運転並みに、気を付けなくてはならないらしい。







           ●













「十月ってお前?」



 その翌日。学校帰り。

 羅生門高校の校門にて。鵺咫路は、数人の生徒に囲まれた。


 4月9日の事である。

 5大列強アイビスのリーダー風間 虎太郎とのタイマンから、3日目。


 同じ、羅生門の制服を着崩している者もいれば、制服すら着ていない者もいるが。しかし、状況から察するに、羅生門高校の不良生徒なのだろう。

 所謂、ヤンキーだ。あまりにゴリッゴリなヤンキーのビジュアルに、ちょっと感動しそうになる。

 まさか、実在していたとは。



「ツラ貸せ」



 話し掛けてきた生徒は、端的に用件を伝えると、背を向けてさっさと歩き出す。

 どうせ、逃げられない。その為の人数だ。

 鵺咫路の呼び出しに出向いた人数は、10人。多過ぎやしないだろうかと思われる人数だ。

 普通、萎縮して黙って従ってしまうだろう。普通なら。



「…………」



 話し掛けられ、さっさと歩いていく生徒に、数秒だけ視線をやっていた鵺咫路が、元々の進行方向へと視線を戻す。彼の正面に立っていた不良生徒は「は?」と、声をあげた。

 歩き出す鵺咫路。思わず、彼を避けてしまった不良生徒。



「あ、おい、何やって」


「え、あ、いや、すまん。つい」



 それを他の不良生徒から咎められた不良生徒が、素直に謝罪を口にする。鵺咫路の振る舞いが、あまりにも自然だった。

 そんなやり取りが聞こえたのと、鵺咫路がついてくる気配がしない事に気付いた案内役の不良生徒が、苛立ちを滲ませ振り返ると、鵺咫路の背中を目にした。馬鹿な。

 いや、馬鹿か。馬鹿。

 いや、何考えてやがる。驚きと困惑と苛立ち。



「おい!!」



 叫ぶが、鵺咫路は止まらない。舌打ち混じりに、案内役は、大股で鵺咫路を追い掛け。



「止まれッ」



 鵺咫路に追い付くと、肩を掴む。



「…………なに?」



 面倒臭そうな、ともすれば、迷惑そうな声色。



「え、えぇ……」



 怒りよりも、さすがに案内役も動揺の色が強く、濃くなっていく。なんで、平然としていられるんだ。

 この人数が、見えていないのか。というか、無視すんな。

 だとか。様々な声が、案内役の内側で浮かぶ。



「いや、逃げんな。どこ行く気だよ」



 ドン引きした顔で、案内役が鵺咫路へと問う。


 鵺咫路は、身長の関係上、大抵の人間を見下ろす形になる。

 案内役の不良生徒もまた、そうして鵺咫路に見下(みお)ろされた。



「…………」


「な、なんだ……よ?」



 無言の圧力に、案内役はたじろぎ声を震わせた。

 そして、再び歩き出す鵺咫路。



「…………は?」



 不意を衝かれたのか。

 呆気にとられた案内役は、間抜けな声を出してしまった。鵺咫路としては、不意を衝くも何もないのだろうが。



「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待てーッ」



 慌てて、案内役は鵺咫路の前へと回り込む。鵺咫路は仕方なく足を止めた。



「なんだよもう、しつけえな、うるせえな」



 なんなんだ、こいつ。お前、なんなんだよ。

 彼を囲む全員の共通認識が、それ。

 こいつ、なに。



「いや、来いって! 聴こえなかったか!?」



 鵺咫路は、案内役に向かって、溜め息をつく。



「なんか、そんな感じの事、云ってたね」


「聴こえてたんじゃねえか!」


「そうだね」



 鵺咫路が歩き出そうと、一歩、踏み出したところで、案内役は更に慌てて鵺咫路を制止する。



「だからッ待てって!? なんでどっか行こうとすんの!?」



 最初の、相手に有無を云わせぬ態度はどこへいったのやら。今や、案内役は最初の態度をかなぐり捨てて、声を荒げる。



「…………」



 鵺咫路は、進路妨害をされ、迷惑そうに案内役を見た。なんだか、自分がズレているのか。

 そんな気分になっていく。そんな、案内役を見ながら、鵺咫路は口を開く。



「まず」



 鵺咫路は、拳から指を1本立てた。



「あんたは、どこの誰?」


「…………あ?」



 これに対して、案内役は間抜けな顔で固まってしまう。

 なんの話だ。案内役が、ついて来いと云った相手である鵺咫路から、いきなり自分についての質問をしてきた。

 これについては、こういったコミュニケーションしか取ってこなかったが故の反応だ。大抵の人間は、脅せばなんでも云うことを聞く。

 聞かなかったという事は、まあ、相手がビビっていないという事なのだが。



「…………」


「…………」



 固まってしまった案内役に、鵺咫路は再び溜め息をつくと歩き出す。



「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれどっか行くなどっか行こうとすんな止まれこの野郎止まれ」



 案内役は、慌てて鵺咫路の腕を掴む。



「哀嶋だ。3年の哀嶋」



 やっと、名乗れた哀嶋に、鵺咫路は「はあ、アイジマさん。はじめまして」と、足を止めた。1学年上という事から、少しは敬意を持って対応する事にしたらしい。



「それで、哀嶋先輩は、何の用すか」



 あまり、そんな風にも見えないが。



「いや、だから、ツラ貸せって」


「なんで?」


「なんで?」



 鵺咫路の「なんで?」に、思わず「なんで?」と返してしまった。



「……なんで?」



 なんで、そんな事を訊かれたのか、理解出来ない。

 だって、今まで、そんな事を訊いてくる奴なんて、いなかったから。だから、意味が分からない。

 なんで、鵺咫路は、こんな事を訊いてくるのか。



「なんで、俺が行かなきゃなんねえんすか」



 なんだ、こいつ。なに。

 なんかもう、怖い。怖くなってきた。

 頑張れ、哀嶋。頑張れ。

 超頑張れ。きっと怪しい広告の金虎は、お前のそんな頑張りをずっと見てくれているから。

 見てくれているだけで、この状況から助け出してくれやしないだろうけれど。



「2つ目。学校の先輩というだけで、ほぼ赤の他人に近い先輩の為に、俺が、何の用件も分からないまま呼び出されてあげる理由って、なんかあるんです?」


「……お前、すげえな」



 立てられた2本目の指。怖い、が、なんかもう、感心してきたし、感動もしてきた。

 思わず、相手に対して「すげえな」と素で云ってしまうくらいに。実際には、「やべえな」がいきすぎて「すげえな」に置き換わっただけなのだが。



「俺個人のお願いじゃねえよ。分かってんだろ。

 ギガントマキアからの呼び出しは、命令であり絶対だ」



 いちいち云わなくても分かっているだろう事を、こうして言葉にしなくてはならない。いや、下手したら、言葉にしなきゃ分からなかった可能性まである。

 哀嶋は、鵺咫路という人物像が少し分かりつつあった。どうやら、とんでもない相手に声を掛けてしまったのかも知れない、と。



「じゃあ、3つ目。最初にそういう事は云うべきだよね。

 いきなり、誰の使いも云わずに、問答無用でついて来いって、そりゃ傲慢ってもんでしょ。何より、何の説明もなしに、勝手にこっちが全部を察してるの前提ムーヴは、そっちの怠慢で怠惰っすよ。

 コミュニケーション嘗めてんすか。

 ついでに4つ目。先輩って、別に俺に金払って雇ってるわけじゃねえでしょ?

 そんな人から、俺の時間を拘束される謂れはねえわけでして」


「もう勘弁してくれ。怖いよお前」



 云っている事は、もしかしたら筋が通っているのかも知れない。鵺咫路の云っている事は、不良の常識に当てはまっていないだけで。

 意味不明で理解不能。不愉快だし不可解。

 怖い。結論、怖い。



「5つ目」



 とうとう。彼の拳だったものが、掌になる。



「こちらの都合を何一つ考えてない。常識ねえのか。

 ぶち殺すぞ。

 俺は、今からバイト行くんだよ。用事があるなら、アポイントメント入れろ。

 あと、そっちから来い。何を偉そうに呼び出してやがる。

 こっちには用件ねえんだよそもそも。それでも来て欲しいなら、せめてなんかメリットを提示しろ。

 常識ねえのか。ぶっ殺すぞ」


「なに云ってんのか分かんねえよお前。怖いって」



 今まで出会った事のない人種だ。もしかしたら、新人類の可能性も出てきた。

 何故、こんなにも。自分を出せるのか。

 我を通す。とでも云うのか。

 ヤバい。スゴい。

 頭がおかしい。イカれてる。

 哀嶋は、正直、今すぐここから逃げ出したい。こんなの、殺人鬼と出会ったみたいなものではないか。

 理解出来ないものは、恐ろしく見えてしまうのだと。そんな、求めてもいない学びすら得てしまった。



「まあ、そんなとこかなー。先輩、相手が後輩だからって、失礼な態度が許される理由にはなんないですからね。

 そこんとこ、次から直して来てください」



 云い終わるやいなや、鵺咫路はやはり、歩き出してしまった。要するに、そっちの要求は聞き入れませんよ、と。

 そういう話だ。……そういう話だった様に思う。

 哀嶋は、心底、嫌になった。こんなおつかいを引き受けてしまった事に。

 ハズレではないか。

 それも、大ハズレ。



「────悪いが」



 鵺咫路をぐるりと、不良生徒が囲む。



「ギガントマキアが呼んでいる。俺は、お前を連れて行かなきゃなんねえんだ」



 暴力も辞さない。無傷で、とは。

 云われていないのだから。むしろ、そういった人間ならば、少々手荒だとしても、()が必要だろう。

 鵺咫路はと云えば、足を止め。そして、哀嶋へと向き直る。

 この時。

 哀嶋は、初めて、鵺咫路と目が合った気がした。

 いや。それまで、鵺咫路と目を合わせようとしなかったのは、哀嶋の方。

 哀嶋は、鵺咫路という人間と。哀嶋は、鵺咫路という人物に。

 向き合おうとしなかった。だから、鵺咫路も、それ相応の態度で接したのだ。



「お前が1年坊主じゃなくてよかったよ」


「多人数で囲ってる状況について云ってるのであれば、どのみちたった1人を相手に、この人数で喧嘩売ってるのは、なかなかダサいよ先輩。太宰治への風評被害とか考えた事ある?」


「やめろ。言葉の響きだけで、太宰治への風評被害に持って行こうとすんな。

 本当に怖い奴だなお前」



 最後まで乗せられっぱなしだったな。哀嶋は、微かに笑みを浮かべて鵺咫路に向けて拳を構える。



「羅生門高校3年。ギガントマキアグループの副リーダーを任されてる。

 哀嶋(アイジマ) 響示(キョウジ)だ」



 なんと。相手が番長の右腕か左腕みたいなポジションだったらしい。

 鵺咫路は、軽く驚く。副リーダーとは。

 アイビスで云うところの申鳶 佐助ではないか。ただの使いっぱしりを寄越してきたわけではないようだ。

 それでも。鵺咫路は、筋が通らない以上は、ついていってやる気にならないが。



「羅生門高校2年、及び、探偵の用心棒。

 十月 鵺咫路」



 鵺咫路も、哀嶋に名乗った。



「悪いが、これはタイマンじゃねえぞ」


「だろうね」



 徹底的にボコボコにしなければ。

 そうでなければならない。ならないのだ。

 哀嶋達の、立場上。立場上、そうなる。

 反抗的な2年生の新参者を、ギガントマキア番長グループにより、徹底的に叩きのめしてやらなければ。力で分からせる。

 ここは、そういう学校だし、そういう街で。そういう島だ。


 哀嶋 響示。

 2年前、羅生門男子高校に入学し、その日のうちにギガントマキアにタイマンを挑み。

 そして、返り討ちにされた。

 何も出来なかった。

 何もさせてもらえなかった。

 ボロ負けだ。

 ズタボロだ。



「キックボクサーかな?」



 哀嶋自身、決して貧弱な肉体ではない。

 よく鍛え。よく絞った身体。

 鵺咫路は、哀嶋の構え。拳の位置の高さから、彼の修めているであろう格闘技にあたりをつける。

 顔面のガードを意識した構えだ。見た目こそ、ドヤンキーではあるが、案外、真面目にボクシングジムに通っていたりするのだろうか。


 これは、通常なら喧嘩として成立しない。タイマンではなく、リンチなのだから。

 相手をフルボッコにするのが目的。故に、鵺咫路は、哀嶋だけを警戒するわけにはいかない。

 相手は、他に9人もいるのだから。だが、現状、彼はそれを差し引いても一番に警戒しておくだけの危険性があると。

 鵺咫路は、判断を下す。他9人を嘗めているのではなく、理解しているだけ。

 哀嶋こそ、最も危険なのだと。他9人よりも。

 ────この時。

 まあ。

 嘗めていたのだろう。過小評価していたとも。

 何せ、10人もいたのだ。10人を相手に、それぞれやり合って全員に勝てる人間は、中にはいるだろう。

 だが、全員一斉にとなると、話は別。しかも、ギガントマキア番長グループのナンバー2がいるのだ。

 それこそ、ギガントマキアでなければ、この人数を叩き伏せるなんて、考えられない。出来るわけがない。

 四天王級の化物なんて。そんな、ごろごろいてたまるか。


 そんな事を、不良生徒の1人が考えているうちに、鵺咫路が一歩、踏み出す。



「ッシ!!」



 牽制代わりの哀嶋の左ジャブ。


 鵺咫路は、それを正面から受ける。



「っ!」



 軽い音。

 いつもならば、聴き慣れた軽い音が鳴る筈だった。しかし、響いたのは、どしん。

 違和感は、驚きとなり、続いて、走る激痛に、表情が歪む。



「はぁ!?」



 拳が、砕けてしまったかの様な。

 そんな、固い手応え。まるで、巨岩だ。

 殴ったのは、人体だった筈なのに。


 鵺咫路は、直進していた。拳が飛んでこようと、それこそ、お構いなしに。

 仰け反りもせずに、突き進む。


 哀嶋は、ジャブでは止められないのだと悟り、ハイキックを見舞う。

 鵺咫路の下顎を、蹴り抜く一閃。

 しかし、鵺咫路はそれでも止まらない。ノーガードだったのに。

 怯みすらしないのは、哀嶋のプライドを砕くには十分。格闘ゲームの知識が、哀嶋から1つの単語を引摺り出す。



「スーパーアーマーかよ」


「お。分かる?

 今度、好きなやつで対戦しよ」



 哀嶋の顔面を覆う(とばり)。鵺咫路の右手が、哀嶋の顔面を掴み、左手は、哀嶋のハイキックに使われた右足の足首を掴む。



「兜割り」



 あとは、容赦のない叩き付けが待っていた。フィジカルの強度にものを云わせた、一撃必殺。

 それまでの被弾なんて、どんぶり勘定の様に採算度外視。いや、結果を見れば、一撃で決めた以上、採算は取れているのか。



「は、マジ」



 引いている。

 残り9人。

 残り9人が、一斉に、戦意喪失していた。こうなると、ただで2発もらった以上のリターンはあったわけだ。

 まあ。鵺咫路の戦闘IQが、そこまでの結果を計算出来ていたのかは、また、話は別なのだが。

 たぶん、本人はそこまで考えてない。


 だが。

 この時。


 残った9人の不良生徒達は、鵺咫路に王の風格を感じていた。

 肉体の天才。最強の肉体。

 それを持った覇王の姿を。幻視していた。

 彼等の知るところ。それは、唯一の絶対王者であった。

 今までは。



「どうなってやがる……こんな野生の化物がごろごろいるものなのか」



 則ち。

 ギガントマキアに匹敵する肉体の持ち主の登場に。9人の不良生徒達はだけでなく。

 この揉め事を、暇潰しに観戦していた、不良生徒まで。彼等は、鵺咫路に()()を見た。

 羅生門に現れた、2人目の王。



「逃げるなら、追わねえけど」



 素っ気なく云う鵺咫路の発言に、9人は、顔を見合わせ。



「嘗めるなよ」



 すぐに、戦闘続行の意思を示した。哀嶋を目の前で倒し。

 それも、瞬殺とも云えるスピードだったが。それでも。

 一度は折れかけた牙を、剥き出しに。



「さすがワダツミ最強のヤンキー高」



 鵺咫路は笑う。

 結局。

 彼は、計10人の不良生徒を返り討ちにしたのであった。

 その足で。彼はバイト先へと向かう。


 彼の背中を追う存在には、気に留めもせずに。


 

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