表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【戦線都市ワダツミ・カプリッチオ】  作者: 幾多野 数多
【序ノ章】
1/22

第1話「ようこそ、騙部探偵社へ」

 


 そこは、海上の学園都市。


 人工島【ワダツミ】。

 人口は約256万人。


 海上である故、様々な欲望と国内と海外勢力が、そこに目を付けた。政府、然り、暴力組織まで。

 何せ、海上の学園都市というロケーションが、世界の目を引く。一流の教育を受けられる環境。

 一流の企業が、こぞって事業を始め出す。こんなビジネスは、どうだろうか?

 或いは、このビジネスならば?

 夢も野望もない交ぜに。ごちゃ混ぜに。


 本土の湾岸都市から見えるのは、海に浮かぶミカエリス修道院と、その下の街並み。そして、その横に長く伸びるマンモス団地……その団地の中央にある産土(うぶすな)神社の大鳥居。

 周囲に幾つかの小さな人工島があり、その中には、カジノやリゾートホテルも。海上の学園都市というコンセプトが行方不明だ。

 ビジネスの匂いを嗅ぎ付けた企業が、こぞって建設に参入してきた結果である。


 バブルというものが、半世紀以上続いたこの国で、海に人工島の学園都市を作ろうと、権力者の1人が思い付いたのが始まり。たちが悪いのは、その権力者が、それを実現出来るだけの力があった事。

 片田舎の漁港の町は、人工島の計画から、建設関係の大手企業がそこに集まり、形を変えながら発展していく。計画実行、建設開始から、さらに半世紀。

 建設開始時期では、未だバブルではあったが、終わる頃には、さすがに弾け終わっていた。


 さて。



 そんな、海上の学園都市の学生寮が並ぶ地区。

 その地区に一件の探偵社がある。

 2階建てバスに、2階建て……2段積み貨物用コンテナを横に溶接した、T字型の面白物件。


         4月6日のこと。


 【騙部(かたりべ)探偵事務所】…………主な仕事は、興信所とそう変わらない。企業や個人の信用調査ばかり。

 いや、たまに…………変わり種の依頼も。


 今日の依頼人も、その変わり種の依頼を持ち込むタイプらしい。



「────ようこそ、騙部探偵社へ。私は社長というか……ま、所長と云っておきましょうか。

 所長の騙部。

 騙部(かたりべ) 曲言(まこと)と申します」



 草臥れた様な。いや、少し、着崩した様なスーツ姿の男が、そう名乗る。



「あの、ここって、喫茶店では?」



 依頼人は、戸惑った様子で、そう訊ねる。それもその筈、騙部と名乗る男は、ここを探偵社と云ってはいたが、しかし、外観はあれだが、どう見ても内装は喫茶店の店内にしか見えないのだから。



「ああ、ええ、潰れた喫茶店を買い取って、そのまま事務所として使ってます。喫茶店としてのご利用も可能ですよ。

 何か、食べていかれますか?」


 騙部が、そう促すが、依頼人は首を横に振る。



「いえ、結構」


「おや、さようで。そりゃ残念。

 妹の作るカレーライスは、この地区の学生達に、人気なんですよ」



 騙部がそう云うと、カウンターの奥から、女性が顔を出す。妹、と。

 騙部が、そう云うからには、彼女は妹なのだろう。



「こちら、助手の偽話。騙部 偽話(いつわ)でございます」



 騙部は、彼女をそう云って紹介した。美人の系統に入る顔立ちではあるが、何やら気だるげである。

 何故か、ツナギ姿にエプロンだ。長い髪を後ろで束ねており、時代劇の浪人を思わせる。

 ツナギ姿でさえなければ。



「もう1人、アルバイトがいるのですがね、あいにくと、彼はまだ、学生の身分でして」



 曰く、もう1人、見習いがいるらしいのだが、今はまだ、学生業に勤しんでいるとの事。



「……何故、私が依頼人だと?」



 依頼人は、騙部を、露骨に胡散臭いものを見る顔で見ていた。



「私が、喫茶店の方の利用客かも知れないでしょう?」



 依頼人の疑問に、騙部は、愉快そうに表情を歪める。尤も、表情は愉快そうでも感情は異なるものかも知れないが。



「おや? こりゃまた……なるほど?」



 どうやら、探偵としての腕前を試されての質問なのだと、騙部は解釈した。


 騙部探偵事務所は、外観は完全に喫茶店である。一応、看板や窓には『喫茶パズル』兼『騙部探偵事務所』とあるが……初見では、喫茶店と思って店に入る筈だ。

 だが、しかし。

 騙部は、依頼人がやって来るやいなや、カウンター席で読んでいた競馬雑誌を几帳面に折り畳むと、探偵社の客として応対したのである。


 騙部は、小さく呟く。



「まいったぞ。こりゃあ、(ぬえ)君案件じゃないか?」




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ