第86話 ほらっ、早く手を動かさないと日が暮れちゃうよ
占いが終わった後も俺達はしばらくショッピングモール内をぶらぶらしていたがいまだにプレゼントは決まっていなかった。
「うーん、やっぱりしっくりくるものが無いな」
「意外と自分へのプレゼント選びって難しいんですね」
「うん、しかもせっかく結人に買ってもらうんだしあんまり変なものは買わせられないし」
「……ちなみに最初買わせようとしてきたブラジャーショーツセットは変なものにカテゴライズされないんですか?」
「あれは入らないかな」
うん、夏乃さんの中の基準が全く分からない。あんな不健全なものが変なものにカテゴライズされないなら、このショッピングモール内にある売り物の大半は該当しない気がするんだけど。
そんな事を考えていると隣を歩いていた夏乃さんが突然足を止める。夏乃さんの視線の先にはミサンガの専門店があった。
「買うだけじゃなくて手作りのミサンガも作れるんだって」
「へー、こんな店もあるんですね」
近所のショッピングモールにはミサンガ専門店などなかったため珍しいものを見た気分にさせられる。ミサンガは陽キャに分類されるような人種がつけているイメージだ。
もっとも、うちは校則が厳しく染髪やアクセサリーなどはNGなためミサンガをつけて学校につけてくるようなやつはまずいないが。もしそれが許されていたのなら夏乃さんは高校時代からギャルだった気がする。
「面白そうだし作ってみようよ」
「急に手を引っ張らないでくださいよ」
「ごめんごめん」
突然夏乃さんから手を掴まれて俺はそのままミサンガ専門店に入っていく。店内に入ると視界には色とりどりのミサンガが目に飛び込んできた。色々な種類があるなと思ってみていると奥にいた店員のお姉さんがにこやかな表情を浮かべてこちらにやってくる。
「いらっしゃいませ」
「彼と一緒にミサンガ作りをしたいんですけど」
「なるほど、かしこまりました。すぐにご案内しますね」
夏乃さんが彼という言葉を強調したのを聞いた店員のお姉さんは何かを察したような表情を浮かべて店内にあるワークスペースの方へと歩いて行った。
うん、絶対俺達の関係を勘違いされた気しかしないんだけど。それから俺達は店員のお姉さんの案内でミサンガ作りに使う刺繍糸やビーズなどを選んでワークスペースにつく。そして夏乃さんと同時に作り始めるわけだが案の定俺は苦戦を強いられる。
「あっ、くそ。また解けた」
「結人って相変わらず不器用だよね、私なんてもう完成しちゃうよ?」
「俺が下手なんじゃなくて夏乃さんが上手過ぎるんですって」
本当に夏乃さんは何でも出来るよな。出来ない事なんてあるのだろうかと一瞬思ったが、そう言えば歌は壊滅的に下手だったわ。そんな事を思っていると夏乃さんは俺の背後から突然密着して手を重ねてくる。
「可哀想だから編むのを手伝ってあげるよ」
「ち、ちょっとむしろさっきよりも集中出来なくなったんですけど」
「えー、何で?」
「絶対分かってて聞いてきてるでしょ」
背中に思いっきり胸を押し当てられたりなんかしたら健全な男子高校生では平静を保てるはずがない。夏乃さんはそれを分かってるくせにやってくるからたちが悪いと言える。
「ほらっ、早く手を動かさないと日が暮れちゃうよ」
「分かりましたから少し離れてください」
俺達のやり取りを店員のお姉さんは相変わらずニコニコしながら見ていた。間違いなくバカップルと思われているはずだ。しばらく悪戦苦闘した末、ようやく俺もミサンガ完成させられた。
俺が単色のシンプルなデザインのものを作ったことに対して、夏乃さんは複数色を組み合わせた上にハート模様に編んでいたためクオリティには圧倒的な差がある。そんな事を思っていると夏乃さんは俺が作ったミサンガを手に取った。
「じゃあ私はこっちを貰うね」
「えっ、自分が作った方じゃなくて良いんですか?」
「うん、今年の誕生日プレゼントは結人が手作りしてくれたミサンガにするから」
なるほど、今年のプレゼントはそういうスタイルで行くのか。ぶっちゃけあんまり上手とは言えない気がするが夏乃さんが満足してくれるならそれもありだろう。
「って事で結人は私が作った方を使ってね」
「分かりました」
「あっ、せっかくだから私がつけてあげるよ」
そう言って夏乃さんは俺の左足首にミサンガを結んできた。そして夏乃さんは同じように自分の左足首にもミサンガを結ぶ。
ひとまずこれで夏乃さんの誕生日プレゼント探しも無事に終わったため一安心だ。ちなみに左足首に男女のペアがミサンガを結ぶと永遠の愛や来世も一緒になれるという意味があるらしいが、この時の俺はそんな意味があるとは想像すらしていなかった。
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