第62話 だから私達が結婚しても織姫と彦星みたいに堕落しないようにしよう
夏乃さんが満足するまでショッピングに付き合った後、今度はプラネタリウムに来ていた。元々行く予定では無かったのだが夏海ちゃんの両親からチケットを貰ったので行く事にしたのだ。
俺と夏乃さんはゆったりとしたシートに座って天井や壁に投影された星空を二人で眺めている。プラネタリウムなんて今までほとんど見た事がなかったためちょっと新鮮だ。
「ちなみに結人はあそこに見える三つの星って何か分かる?」
「はくちょう座のデネブとわし座のアルタイル、こと座のベガですよね」
「おっ、ちゃんと知ってるんだ」
「夏の大三角形は有名ですから」
ちょっと感心したような表情になった夏乃さんに対して俺はドヤ顔でそう答えた。まあ、有名な夏の大三角形と北斗七星くらいしか知らないため詳しく突っ込まれても答えられないが。
「ベガが織姫でアルタイルが彦星なのは有名だと思うけど二人が一年に一回会う事が実はめちゃくちゃ難しいって知ってた?」
「えっ、そうなんですか?」
「ベガとアルタイルの距離って十四光年以上離れてるからさ、もし光の速度で移動できたとしても一回会うだけで十四年くらいかかるんだよね」
「へー、それは知らなかったです」
一回会うだけで十四年もかかっていたら生きているうちには片手で数えられるくらいしか会えない事になってしまう。
確か織姫と彦星は結婚してから真面目に働かなくなったため引き離されたはずだが、その代償が十四年に一回しか会えないというのはいくら何でも厳しすぎやしないだろうか。まあ、瞬間移動でも出来るなら話は別だが。
「だから私達が結婚しても織姫と彦星みたいに堕落しないようにしよう」
「そうですね……って何ナチュラルに俺と結婚する前提で話を進めてるんですか」
「もしかして結人は私と結婚するのは嫌?」
俺がツッコミを入れると夏乃さんは少し悲しそうな表情になってしまった。その姿を見て激しい罪悪感を覚えた俺は慌てて言い訳をし始める。
「別に嫌って事はないですけどまだ具体的に結婚とかを想像出来ないっていうか……」
「じゃあ結婚後の生活を想像しやすくするために私と同棲でもする?」
「いやいや、そもそもまだ付き合ってもないのに同棲は色々とステップを飛ばし過ぎでしょ!?」
夏乃さんの口から飛び出した予想外の言葉に俺は思わずそう声をあげた。
「だって想像できないんでしょ? だったら実際に試してみるしかないじゃん。あっ、勿論キスとかエッチもオッケーだから」
「あんまり俺を揶揄わないでくださいって」
「私は割と本気なんだけどな」
うん、やはりどう足掻いても夏乃さんには勝てそうにない。せっかくプラネタリウムに来たというのに途中からそっちのけになってしまった。
それから一時間半近いプラネタリウムの上映が終わって外に出る。窓の外を見るとすっかり夕方になっていた。そろそろ帰るにはちょうどいい頃合いだろう。
「今日は二人で色々できましたね」
「水族館とショッピング、それにプラネタリウムも見れたから楽しかったよ」
「プラネタリウムは夏乃さんが悪ノリしたせいで途中からそれどころじゃ無かったですけど」
「えー、私悪ノリなんてしたかな?」
「俺の記憶にはしっかり残っているのですっとぼけても無駄ですよ」
そんな事を話しながらシャイニングサンシティのバイク置き場へと向かい始める。ショッピングで荷物も増えたが夏乃さんのバイクに付いているリアボックスに十分入る量なので問題はないだろう。
「そう言えば今週末はうちの大学のオープンキャンパスだったよね?」
「ですね、終わった後も面倒なレポート作成が待ってるので今からマジで憂鬱です」
「当日はお姉ちゃんがばっちり案内してあげるから任せておいて」
「えっ、マジで案内するつもりなんですか?」
確かに東京サマーヒルズでオープンキャンパスの話をした時は案内すると言っていたが冗談だと思っていた。スタッフでは無い限り案内なんて出来ないだろうし、仮にスタッフだったとしても必ず俺を指名できるとは限らない。
「ちなみに当日私も高校生として参加するから」
「えっ、そもそもそんな事出来るんです?」
「うん、うちのオープンキャンパスの予約ってそんなにチェックとかしてないし」
そう言って夏乃さんはスマホの画面を俺に見せてくる。早穂田大学のオープンキャンパスの予約を受け付けたという内容のメールだったが色々とツッコミどころ満載だった。
「高校生で登録してるって言ってたので年齢を詐称してるのはまだ分かりますけど九条夏乃って名前は一体何のつもりなんですか?」
「ほら、結城夏乃で登録するとバレるかもしれないでしょ? だから九条って苗字で登録したんだよ」
なるほど、ふざけているとしか思えなかったが一応真面目には考えていたらしい。
「ってわけで私は結人の同級生って設定になってるからよろしく」
「行く前からもう既に色々心配なんですけど……」
正直不安しかないが夏乃さんを止める事は出来そうに無いため諦めるしかないだろう。