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ナガト式捕龍

作者: ジョーン

ナガトの国の捕龍についての報告書


おもしろくはないです


 ドラゴンを狩るのは容易でない。

しかし、ドラゴンの喉元に(もり)を刺し貫くことが出来る者は勇者と称えられる。


 ドラゴンは肉が美味で骨も皮も素材として活用される。

なにより重要なものはドラゴンの油である。ドラゴンの油は魔力のみなもととして

現在の生活になくてはならない素材だ。

1頭のドラゴンから取れる油の量は2.5tほどになる。これらは高額で取引される。

わが国でもドラゴンの捕獲ができるようになるのであれば、これほど大きな産業はない。



 私がそのドラゴン狩りの伯隊に加わったのは、故国からの命令であった。

なぜナガト国はあれだけのドラゴンを狩ることができるのか、その秘密を探る任務である。

ここに記すのはその記録の抜粋である。


 ドラゴンは、言うまでもなく空を飛ぶ。

元来空を飛ぶ動物は捕獲が難しいとされている。

その生態を調査する中で地表の魔力を吸うことが彼らの生命にとって重要なことであるとわかった。

ドラゴンは自由に空を飛んでいるように見えて、魔力吸収のために地表に降りるのである。

それは断崖絶壁であってもかまわない。海の中であってもかまわない。

ドラゴンにとって降りやすいところにやつらは降りる。


 一呼吸で飛べる距離は個体や種によってまちまちなのだが、おおよそ40分飛んでいられる。

そのため、40分後にどこに落着するのか、それを読み取らなければならないのだ。

興奮すると、飛行距離は落ちる。それも重要な要素となる。


ナガトの国で行われるのは突取捕龍である。

最も勇猛で最も華々しくドラゴンを狩ることができる方法であると彼らは信じている。

かれらの部隊は100人で編成されている。

部隊長を伯長と呼び、それらを10人単位で分けることを什、その什のリーダーを什長、それを半分に分けた五人のリーダーを伍長と呼ぶ。

何をするにもその伍を基準に行われる。


訓練は、銛撃ちと勢子(せこ)と走り込みである。

龍は山を切り出した谷に追い込むので、大いに走り、大いに叫ぶ必要がある。


 普段は農作業をしながら、交代で山頂の見張りを行う。

遠目にドラゴンが見えると、のろしをあげ、ドラゴンの来訪距離と方角を伝える。


伍長は、みなドラゴンの逆鱗に銛を打ち立てる権利を持っている。

私のチームの伍長は名をトリスタンと言った。トリスタンは寡黙で指示は遅れがちだったが、トリスタンの銛撃ちの力は他の伍長よりも優れていたため、期待されていた。

ドラゴンを弱らせるための銛突きと、ドラゴンにとどめを刺すための剣突きがある。

伍長はみな、それぞれの剣を磨きあげている。


ドラゴンの来訪が伝えられると、伯長によって全体の作戦が下知される。

ドラゴンの種類によって作戦は変えられるのだが、概ね同様の手順で行われる。


まず什を半分山に配置し、魔術で上空に網を張る。これはドラゴンが谷から出ることを制御するためである。

残りの什は、基本的な担当エリアが割りあてられ、谷の中を走り回ることになる。

ドラゴンの様子は、山頂の狼煙で逐次連絡された。


谷ではドラゴンの魔力呼吸にあわせて銛が撃ち込まれる。

この時はじめに銛を撃ちこんだ男は最初にドラゴンの肉を口にする栄誉を与えられる。

銛を打ち込み弱らせなければ、とどめも刺せないからだ。


一度打ち込むことに成功すると、ドラゴンの魔力呼吸のために降りてくる間隔は少しづつ短くなってゆく。

ある種のアンカーをつけた銛を打ち込むこともあるが、たいていの場合ドラゴンによってそのアンカーロープは即座に切断される。

はじめは40分に一度、そのために天候にあわせて落下地点を予測する魔術も必要である。

だんだんと魔力がつづかなくなり、いよいよ一息でさほど飛べなくなってくると、伍長たちがとどめの準備をはじめる。


勇猛な伍長は、ドラゴンの体力が充分にあるときでさえ剣突きを試みる。

剣突きが成功すればそのときドラゴンも討伐完了であるが、炎を吐くドラゴンに対してそれを無力化する行為は非常に困難を極める。


 やがて疲労したドラゴンに伍長がとどめを刺すと、今度は伯長の指示で全員がドラゴンの解体にまわる。


 ドラゴン解体のための包丁は非常に巨大で、その手順は複雑である。しかし解体にあたって、まずまだ息のあるドラゴンに対して祭祀長が祈りをささげ、ドラゴンの名をつける。

当然、狩る側の勝手な自己満足のために名をつけられるドラゴンの感情を慮ると、忸怩たるものであろうが、人間側は細心の注意を払いドラゴンを手厚く供養するという意思表示を犠牲者であるドラゴンに行うのである。

たいていのドラゴンはその行為に対して再度ひと暴れするという。しかし中には素直に諦めるものもいるので、必要か、不要かというと、必要な行為なのかもしれない。


 ドラゴンにとどめを刺すのは逆鱗に対する一撃だが、それだけでは完全に締まってはいない。解体の開始時に喉を大きく開き、脳神経とつながる器官を破壊する。

1頭のドラゴンの解体で国は非常に潤う。


 あるときはスオウの国から傷ついたドラゴンが飛来することがあった。

ナガトの国は通常手順に従ってドラゴンを討伐し解体した。

スオウの国は

「それは我らが最初の銛を撃ったドラゴンである」と主張した。

おそらくその主張は正しかったが、ナガト側は聞き入れなかったので紛争になりかけた。

結局領主同士のはからいで、利益を分配することになりこの件は収束をみせたが、それからは銛に名前だけでなく国名も刻印することになったのである。



ドラゴンの油はとりわけ丁寧に扱われた。

ドラゴンの油は、ランプに灯すと非常に明るく燃え、すすをつけない。

また、香りがよく腐らない。国王の戴冠式でも油を注がれる際にはドラゴンの油を使用するほどだ。


上部がアーチになった油容器に入れ、容器ごと輸出するのである。


 最も不思議なことには、不知火と呼ばれる蜃気楼のような炎が空に浮かぶことがある。

それは現代では光の屈折であるとされているが、捕龍が現在ほど盛んでなかった頃には実際に炎が浮いていることがあったようだ。


 それが燃えている死したドラゴンの油であるとわかるには時間を要した。しかし美しく燃え続けるドラゴンの炎を見た古代人が、それが天からもたらされたプロメテウスの炎であると考えることは容易に想像できる。


 かくのごとくして、捕龍はナガトの国の重要な産業となっている。

今後おそらく魔力で網をかけ、比較的早い段階でとどめを刺す、「網掛け突き取り法」に進化するとの意見が主流だが、勇猛な男子が命をかけた一撃でもってドラゴンにとどめを刺す、その姿が見られるのはこのナガト捕龍が最も優れているといえるだろう。

最も勇壮で最も華々しくドラゴンを狩ることができる方法であると私もまた信じている。


一刻もはやく我らの国に同様の捕龍隊を編成することを望む




捕鯨は古くから行われていました。


追い込んで、呼吸器のところをモリでぶっ刺す。

素敵です。巨体のくせに潮を吹くことで「弱点はここだぞ!」と人間に教えてしまっているところも魅力です。鯨が潮を吹く姿を見て、ドラゴンが雲を産み空を飛ぶイメージを膨らませたのではないかと思ってます。


マンモス狩りも良いですね、あっちはガケに追い込んで落として仕留めるそうです。

マンモス狩りは「きっとそうに違いない」というだけの話なので、もっと妄想してよいかもしれません


長門式捕鯨は長門市くじら資料館で色々見ることができます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どこかの国の諜報員のような人物がしたためたナガトの国の捕龍見聞録、とでも言いましょうか。こういう短編はとても好きです。 捕鯨をモチーフにした話であるのなら、たとえば自分だったらまず船を用意…
[良い点] 脂のところで、捕鯨っぽいなと思ったら、やっぱりそういうイメージだったんですね。 伯隊? ってなったので調べたら出てこなかったんですけど、百人部隊だから伯ですね。(たしか、隊長の自分を抜く…
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