初めての本屋
領都につき、宿をとった一家。
夕食までにまだ時間があるため、再び街に繰り出していった。
「さて、まだ飯まで時間があったから出てきた、何をするかね?」
「本!本が見たい!」
欲望に忠実なネディス君。その様子に苦笑いをしながら、うなづいた。
「そうだな。じゃあ本を見に行くか。」
そういいながら書店へと移動していく。
「ここがこの町唯一の本屋だぞ。」
そうして到着したのは古臭いボロボロの建物だった。
ネディスは言葉を失った。
「こ、こが本屋……?ぼろぼろ……」
「ま、まあとりあえず中に入ってみようか……」
そんな会話をしながら中に入ってみると、内部は一面本の山であった。
「えっ……すっごい!」
絶望の表情から一転、満面の笑みで見渡す。
すると奥から小さな声とともに人影が表れた。
「おやァ……小さい子供連れとは珍しいお客だねェ……」
現れたのはずいぶんと歳を重ねた老婆であった。
どうやらこの店の店主のようだ。
「あ、えっと、本が欲しくてきました!」
「おうおう。そうかいそうかい。汚したりしなけりゃ好きに見ていいよ。」
戸惑いながらも元気な声で発言をしたネディスに対し、好々爺のような笑顔を浮かべ答える。
そしてネディスは慎重にかつ大胆に本を漁り始める。
「うわぁいろんな本がある!これは冒険者の日記?こっちは領主様の傍仕えの日記だ!」
見つかるのは日記だらけ。いわゆる図鑑的な本はなかなか見つからない。
「ん?これは……『ゴブリンでも使える魔法解説』?これ面白そう!」
一冊の実用性のありそうな本を見つけ大満足の様子。それを抱えて両親のもとに戻ってくる。
その本を見た店主は珍しいものを見る目で彼を見た後、ふと思いついたように奥に入っていった。
「父さん!これが欲しい!魔法の本!」
「お、いいの見つけたな。じゃあそれ買うか!おーい店主さん、これはいくらですか?」
その声に反応してか、店主が奥から戻ってくる。
何やら一冊の本を抱えている。
「それかい?それなら『貨幣価格 市民の給与三ヵ月分』だね。」
「まじか……たっかいなぁ。」
「これでも半額以上にまで値下げしてるよ。実用的な本だからどうしても高価になっちまうんだよ。」
「まあ息子のためだ、しゃあない、買った!」
「はい毎度。」
父は『しばらくは酒代を節約しようか……』とぼそりと言いながら本を購入する。
本を受け取っていると、店主が持ってきた本を渡しながら話しかける。
「それと、お前さんの息子にこの本をあげよう。将来有望な子へのサービスさね。」
「この本は私が店を開く前から持ってた本なんだけどね、手に入れたときからページが穴だらけなんだよ。ただ、それでも面白い内容が書いてあったりするからね。読んでみるといい。」
今後とも御贔屓に、と言いながら本を渡す。
ネディスは魔法の解説書と穴だらけの本を手に入れた!
「ありがとうございます!」
店を出ると、母が切り出した。
「せっかく外に出たんだし、ちょっとお店を見て回りましょう?」
「ああ、そうだな。ネディスも街を見られるし、いいんじゃないか?」
「その前に本を置いておきたい!」
ネディスは本を持ったままそういう。持っていると歩きながら読んでしまいそうなのだ。
それにうなづいた両親とともに、一度宿屋に帰り、荷物を預けた後、見て回ることにした。